第16話 扉の向こう



「ゴジ、いくぞ!」

「グル!」


 ゴジの力強い返事と共に開けた扉の先には漆黒の鎧を纏った、二刀流の侍オーガがいた。背丈や体格は今までの侍オーガとあまり変わらなくて、でも、隙のない構えで佇んでいて強者のオーラを纏っている。


「こいつは楽しめそうだ。ゴジ、本当に死にそうな時以外は手出ししないでくれ」

「グルル?」

「大丈夫、俺は死ぬ気はないから」


 今の声で俺に気づいたのか、侍オーガは立ち上がり俺に殺気を向けてきた。


 凄まじい。こいつの殺気を受けただけなのに体が強張る。


「素晴らしいじゃあないか!こいつは楽しめるぞ…………ん?」

 

 おかしい。殺気の次は、なんか嬉しそうな、子供の純粋な喜びをイメージさせるような空気になった。


 まぁ、強けりゃなんでもいいか。


 そんな疑問を抱えながらも俺は『発狂』を発動しながら奴に突っ込んでいった。


「おりゃぁぁああああああああ」

「ガガギッ」

「は?」


 目の前にいたはずの侍オーガを斬ったはずが、手応えが全くない。


「残像か!いいぞいいぞ!もっとだ!もっと楽しませてくれ!」

 

 刹那、背後から殺気を感じた。


「そこかぁ!」


 振り向きざまに刀を振るったが、それでも激しい衝撃が体を襲った。


「グル!」

「全然大丈夫だ!いや、むしろ最高だろうな!速い!速いし強い!そして何より、おかしい」


 俺は『2倍返し』を持っている。極力発動しないように戦うつもりだったが、俺は今ダメージを受けた。つまり、今のでこの戦いは終わっていたはずなのだが、アイツはまだ立ってる。


 それと、やっぱり嬉しそうだなアイツ。俺と同じなのかな……強いやつと戦いたいのか。


 ここで想定外だったのが俺の考えに応えるかのように侍オーガは動いたことだ。そして、その行動は俺に更なる衝撃を与える。


 奴は刀の片方を鞘に戻し、もう片方の刀で剣道の基本の構えをしたのである。でも何よりの驚きが、俺の目に見えるスピードまで落として向かってきたのだ。


「ハッ!」

「グガッ」

「な!?」


 俺でも対応できるスピードまで落ちた斬り込みを迎え撃とうとしたら、簡単に弾かれてしまった。しかも力ではなく技で。でもこれは想定内。俺を驚かせたのは追撃がないこと。つまり、こいつは受けに回った。


 受けの態勢、俺のレベルに合わせた攻撃、俺を楽しませているわけではあるまい。


 ならば、なぜ?


「ん?そうかもしれないか……いいだろうさんや、乗ったろうじゃないか」


 今までの知識を総動員し、俺は一つの可能性を見出して、それに賭けた。

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