第3章 富国強兵

第1話 魔王軍の文明レベル

荘厳で厳粛な空気を纏う大広間。

ズメイは一歩前に出ると、報告を始める。


「まずタカアキから頼まれていた地名の決定。これは魔王様と私で完了した。ゴブリンの住処は『ゴブリン村』、リザードマンの住処は『リザードマン村』、魔王城の周りの森は『ズメイ森林』とする。今後魔王軍支配領域とその周辺の地図を作製する」

もともと魔王軍には地名を呼ぶ習慣がなかったためか、名称は単純なものが多い。

だが、地名決めは上手くいったようだ。


!?

ズメイ森林?

「お前、本名を地名につけたのか?」


「ああ、そうだ!私は歴史に名を残したいのだ!」

ズメイは自信満々で言い放った。

とんでもない自己顕示欲だ。ある意味大物かもしれない。

俺には真似できない。


しかし、地球でも発見した新大陸に自分の名前をつけた探検家もいる。

そう考えると…あまりおかしくはないのか?


「本気なのか?本当に魔王城の西の森をズメイ森林にするのか?」

念のためにもう一度ズメイに問いかける。


彼の答えは明快だった。

「もちろん本気だ!魔王様も許可してくださった!そうだ、タカアキの名前もどこかにつけてやろうか?」


俺は全力で却下した。




◇◇◇◇◇◇◇◇

ズメイ、魔王との会議は続く。

次の議題は各種族のリーダーについてだ。


「俺はリザードマンたちのリーダーにズメイを、オークたちのリーダーにリキー・プトーの兄弟を推薦する。ズメイたちの調査で適任者がいないならこの3人に任せたい。3人とも遊撃隊での働きは見事だった」

俺の意見は魔王、ズメイともに異論なく受け入れられた。

リーダー候補を絞ってから、実戦で能力を見るという俺の提案が功を奏したようだ。


しかしゴブリンのリーダー選びは難航する。

「タカアキ、ゴブリンに目ぼしい人材はいたか?」


「いや、残念ながら見つからなかった」

遊撃隊に参加したゴブリンたちが無能だったわけではない。

むしろもともと社会性の高い種族であるゴブリンは4人一組の戦い方をすぐにマスターしていて、将来有望だと言える。


だが総数1000を優に超える大所帯のリーダーは責任重大だ。

簡単に任せられるものではなかった。


俺とズメイが頭を悩ませていると魔王の声が響いた。

「それについては我に考えがある。ゴブリン長老に任せようと思う」


ゴブリン長老って誰だ?


俺の疑問に答えるように魔王が言葉を続ける。

「彼は古くからいる魔族で、我がこの地に現れた時からの古参兵だ。今はゴブリンの住処の奥地で隠居しているようだが、我の要請なら受けてくれるだろう」


ひとまずリーダー選びにも見通しがついた。


しかし解決すべき問題は山積みだ。

俺は次の議題へと移る。


「ゴブリン達に関してもう一つ相談があります。武器を支給してやってください。魔王軍のゴブリンたちは武器を持っていません。素手や投石でエルナーゼ王国軍と戦うのは明らかに不利です」

剣や槍で武装する相手に徒手空拳で挑めば、勝てる戦も勝てないだろう。

早急に改善しなければならない。



「分かった。遊撃隊に参加したゴブリンたちに武器を支給するとしよう。ちょうど捕虜となった人間たちの装備があるはずだ」

魔王の返答はどこかズレていた。

俺はもう一度要請する。


「いえ、遊撃隊のゴブリンだけではなく今後魔王軍で戦う者たち全てに武器を支給して頂きたいのです」

「それは無理だ。城の武器庫には予備の武器がほとんどない」

「わかりました。では新しく生産するのにどのくらいの期間が必要なのか教えてください」

首を横に振る魔王に問いかける。

確かにないものは仕方がない。ならば、どれだけ時間がかかるか知る必要がある。


そこにズメイの諦観に満ちた声が響いた。

「タカアキ、時間が経ってもゴブリンたちに支給する武器はない」


「どういうことだ?」


「そのままの意味だ。我らが使っている武器は魔王様がこの城を支配した時、城内に残っていたものなのだ。我らでは剣も槍も作ることができない。カリイとかいう奴が言っていた、魔王軍は人間たちに追いつけないという言葉は間違っていないのだ」


俺は鈍器で殴りつけられたような衝撃を受けた。

魔王軍には製鉄技術がない。

魔王軍の文明レベルは、地球でいう古代文明並だということになる。

おそらく中世レベルの文明を持つエルナーゼ王国軍に勝てないのは当たり前だ。

むしろ4年間持ちこたえていることが奇跡だ。


魔王軍の現状は想像以上に悪い。


「魔王軍の技術力を改善することは我々にはできない。タカアキに頼るしかないだろう。しかし、それでは成果をあげている遊撃戦が継続出来なくなってしまう」

沈痛な面持ちでズメイが続けた。


カリイが去った時と同じ沈黙が広がる。

特にズメイの落ち込みようは尋常ではなかった。


情報を得て、魔王軍の実力とエルナーゼ王国軍の差がわかったからこそ大きなダメージを受けているのだろう。

だが、ズメイは根本的なところで勘違いをしている。



俺は単刀直入に結論から告げた。

「遊撃隊は交代制にする。当然部隊指揮官もローテーションだ。それから武器は鉄以外の金属で作る」



ズメイたちは目を丸くした。









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