第162話 なんとか乗り越えられたみたいです

 死ぬかと思った。

 リヴァイアサンが海に沈んでいくのを見つめながら、ただ息を吐くことしかできない。魔力もほぼ底をついているし、これ以上、俺にできることはない。正直に言うと、このままウィストリア大陸まで『翼』で飛んでいけるのかも微妙な感じだ。どうにか、近くに島でも見つけて休憩しないといけない。


「ぐはははははははッ!」

「なっ!?」


 なんとか休憩できそうな場所はないかと周囲へと視線を向けた瞬間、海へと沈んでいったはずのリヴァイアサンが勢いよく飛び出してきた。身体に傷は沢山ついているが、全然効いている様子はない。


「はは……不死身かよ」


 今の俺に、これ以上の力を出す術なんてない。魔力も残っていないし、できることは、力尽きる寸前の震えた腕でアイムールを振るうことだけだ。

 もはや『千里眼』を使うこともできないくらい消耗している状況だが、諦めることはできないので、アイムールだけは意地で構える。


「満足したぞッ! 素晴らしい力だった!」

「……は?」

「そう構えるな。もう戦いは終わりだ」


 ゆっくりと顔を下げながら笑うリヴァイアサンに、俺は頭の理解が追い付いていない。とりあえず、促されるままリヴァイアサンの身体に降り立ち『翼』を解除する。ようやく地に足が着く感覚を味わうことができた俺は、遥か上に位置するリヴァイアサンの顔を見上げる。


「なにをそんなに驚く? 我はお前を勇者として認め、お前はそれに応えるように力を示した。ならば、戦いの後に語り合うのはおかしくないだろう」

「いや……戦いの後もなにも、お前は元気だろう」

「何を言う。我とてここまでの傷を受けたのはもう何年前か思い出せんわ……海という圧倒的な我が有利な場所で、これほどの力を示したのだ。お前の勝ちでいい」


 なんだか、すごく納得しきれないが、リヴァイアサンが勝ったということにしてくれるなら受け入れよう。


「我がいることを知りながらこの海域に踏み込んだ者は、随分と久しい……しかもお前は一人で我に挑んだ訳だからな」

「はは……ありがとう」


 なんとなく、リヴァイアサンに褒められても嬉しくない気持ちなのは、譲ってもらったような勝利だからだろうな。


「それで、何故お前は我のいる場所へやってきた。勇者であるお前になら、話ぐらいは聞いてやるぞ?」

「……そうだった。俺、お前に聞きたいことがあったんだった」

「聞きたいこと? 我にか?」


 倒したと思ったはずのリヴァイアサンが海から浮上した時点で、頭が真っ白になっていたので忘れていたが、俺は上位龍種であるリヴァイアサンに聞かなければならないことがあるから、こんなことをしていたんだった。


「固有魔法の祖である存在を、悪魔が「主」と呼んでいた。固有魔法がなんなのか……その源である存在は何者なのか、4体の上位龍種に聞けと」

「……ふむ。その話か」


 さっきまでなんとなく楽しそうにしていたリヴァイアサンの声が、急に落ち着いた。固有魔法の祖という言葉を聞いて、リヴァイアサンはなにかを考えているようにも見える。リードラシュの言っていたことが正しいのならば、遥か古代から生きているリヴァイアサンが全てを知っている。

 リヴァイアサンの返答を待ちながら、唾を飲み込んでいる俺を、6つの目が捉えた。


「知っているぞ。固有魔法の祖たるその存在を、我は知っている」

「ほ、本当なのか!?」


 正直、疑い半分程度だった。ただ、それ以外に手がかりがないからリヴァイアサンの元を訊ねたが、まさか本当に答えを持っているとは思っていなかった。

 ようやく、固有魔法の真実に迫れるかもしれない。その期待だけで、疲れ果てた身体が動き始めていた。

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