第5話 入学式前の週
〈前書き〉
【注意】途中少しシリアスというか重い話が入ります。すぐその描写は終わりますがほのぼのそうだからとこの作品を見てくださった方には申し訳ないです。
胸糞、鬱は無いです。
――――――――――
「紫都香さんはいつもベッドか布団どっちで寝てますか?」
「わたしは普段から布団で寝てるよ。だから悠君の布団でもぐっすり寝れたのかも」
「それなら新しい寝具を買うとかではなく布団をこっちの家に持って来てもらう感じで良いですかね」
「そうだね、最近良い素材の敷布団を買ったから捨てたくもなかったし、帰ったら運んでも良い?」
「俺も運ぶの手伝いますね。それと他の荷物で持ってくるものがあれば運ぶのも手伝いますよ」
二駅隣の駅の側にあるショッピングモールへ行くために家の最寄り駅に向かう途中、買うものを出来る限り絞る談義をしていた。
――――――
夕日も沈み、辺りは暗くなっている頃。
買い物は終わり相談で決めていたものは粗方買うことが出来た二人は来た道を戻るようにして家路に就いていた。
「炊飯器とか電気ケトルとか小物の家電はわたしの家から持って行くというので良かったよね?」
冷蔵庫と洗濯機は最近発売された新しい型ではないが一世代前の物が安く売っていたのでそれを思っていたよりも安く買うことが出来た。冷蔵庫と洗濯機は後日設置しに来てくれるみたいなので今日はあまり荷物を持って帰らなくて良かった。
「全然それで大丈夫です。買わなくて済んだので凄く有難いです」
街灯も灯り始め、暗くなってきたなと感じさせてくる。あの日とは違い紫都香さんは甘い雰囲気は出さず、それでも一緒に暮らすのを楽しみにしているのは隣を歩く俺にひしひしと伝わってくる。
「今日買った食器とかわたしの家から持ってくる食器を置く場所ってある?」
「一応あるにはあるんですけど、大きくはないのでまた買わなきゃいけないです」
紫都香さんの家にどの位食器があってどれくらい持ってくるのかによってスペースが足りるかが決まってくる。今日買ったのはペアのお茶碗にマグカップそして二つセットのお箸や四つセットのお皿、スプーン、フォークといった必用そうなものだけなのでスペースは余裕である。
「じゃあその時はまた一緒に買いに行こうね」
「はい!」
そうこうしている内に家に着いた。
買った来たものを整理して夕食を食べることになった。ショッピングモールの食品売り場で色々買ったということで紫都香さんが手料理を振舞ってくれるらしい。
「シチューのルーと珍しく人参とジャガイモが安かったから今日はホワイトシチューにしようと思います」
キッチンに立った紫都香さんはテキパキと動き出す。それを観察するかのように俺は見ていた。
ダイニングテーブルで椅子に座って食べる方が大人っぽいカップルに見えるので今度買いたいなと思いつつ地べたに座りながらローテーブルに紫都香さんに造って貰った料理を置いていく。
(ホワイト)シチュー、白米(祖父母の家で栽培したのを実家から送って貰った)、食パンをテーブルに置く。
「ごめんね。偏ってしまって……」
「そんな、全然思ってないですよ。人参とか野菜もこのシチューの中に入ってますし紫都香さんが作ってくれた最初の料理です。悪く言わないでください」
「ご、ごめんなさい」
「いや、なんか、こちらこそごめんなさい。ただ初めての手料理にワクワクしていた自分がいたのでどうしても楽しく食べたくて……。卑下して欲しくなかったんです」
紫都香さんが作る姿を見たくてじっと見ていたのもあるが、手料理にワクワクで見ていたという節もあった。
「というか紫都香さんの家から荷物を持ってくるの忘れちゃいましたね。暗いですし、どうします?」
「添い寝は……だめ、ですか?」
ん……?! 酔っぱらってる? お酒がこのシチューに入ってたり? 流石それは無いか。
俺が紫都香さんの発言にびっくりしていると紫都香さんの手がテーブルの下に伸びる。もしやお酒か?
出て来た手に持っていたのはシチューを食べる時に使っているスプーンだった。まあそりゃもう片方の手が空いてるしご飯の最中なら持ってて当たり前か。
紫都香さんは真剣そうな、でもあの時の様な甘えた目でこちらを見ている。
どうやらシラフで言っているらしい。もしかして夜になると変わる……とか?
「あの、紫都香さん。質問なんですけど友達に夜はちょっといつもと雰囲気違うねとか言われたりしますか」
どうしよう、確かに布団の中で甘えた姿を見たいけど……。
「友達の前とかではこんな風にはならないんだけど、ただ悠君の前だとなぜか甘えたくなるの。夜になると寂しくなるっていうか心に穴が空いた感じでね……。黙ってたんだけど実はわたし今両親生きてないんだ……。二人とも大学四年の時に交通事故に巻き込まれて他界しちゃってね。だからあの就活の時も精神的に崖っぷちの状態でね……。その時に悠君に救われたからかな、悠君に甘えたくなるのは。不安な気持ちを和らげてくれる気がする」
さっきの甘えた雰囲気はもうこの空間にはなく紫都香さんは思い出したかのように膝を抱えて俯いている。
悪いこと聞いちゃったかな……。俺はあの時体調の悪そうな人を助けただけ。そう思っていたのにこんなに抱え込んでいたなんて……。
「紫都香さん、これからずっと一緒に寝ましょう! 紫都香さんの心に空いた穴は俺が埋めます」
食事中ではあるが紫都香さんは耐えきれなくなったのかワンワンと声を出しながら泣いてしまう。俺は立ち上がり泣いている紫都香さんに抱き着いた。あまり強く抱きしめず、しかし温もりを感じられるくらいの強さで。
二人はご飯を食べた後、別々だけどお風呂場の側で互いのお風呂が済むのを待ち、すべきことを済ませて一緒の布団に入った。かなり狭かったが互いの温かさを感じられたので俺も紫都香さんも熟睡出来た。
――――――
それからの一週間で冷蔵庫と洗濯機の設置も紫都香さんの荷物運びも終えることが出来た。
何とか入学式には間に合ったみたいで一安心だ。明日は遂に大学生活スタートの合図である入学式だ。入学前交流パーティには参加できなかったので大学の人たちと会うのはこれが最初になる。
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