第47話「アレから一ヶ月」

アレから一ヶ月。


「ぱぁぱ!せんせーに褒められた!」

「お~、そうか。良かったな~」


エリンは成長期がもの凄く早いらしい。

言葉も段々と人としての姿も漸く慣れてきたみたいだ。


「エリンさん、私が教える範囲の範囲外まで全て憶えたそうで」

「お~、そうなんですか」


次期国王とされている王太子の婚約者の公爵令嬢が家庭教師を立候補してくれた。

学園でも結構頭のキレが良いらしく、生徒会副会長として会長の座に居る王太子殿下を支えていると聞く。


「後はニ年程経てば学園の生徒として入れますよ。貴族の位にはなりませんが・・・」

「やっぱ平民からですよね~カテア嬢」


そう、呑気な考えだったが――――カテア・ヒース公爵令嬢は否定する。


「いえ、名目上ではあるんですが・・・確か、セントティクス大国の元王子ですよね?」

「ま~、兄に返事して以降は平民暮らししている身ですけども」


すると、困惑した顔になる。


「ナル様、確か元はエルフの国の姫でしたよね?」

「えぇ、今は国はありませんし、同郷者も居ませんが」


そして、ゼクターやスーミラは貴族。

公爵位になる。


「スーミラ様は確かお師匠様が義理の母親で教皇猊下ですよね?」

「えぇ、そうですね」


エリンを抱えて立ったままナルが答える。


「そして皆さんは現在平民。ですが・・・平民になるには爵位返上と言った戸籍を返却する手続きの義務が発生するんです」

「あ~、確か家族が判断して手続きするようなやつですよね?」


・・・ん?待てよ?


「なぁ、ナル。もしかしてなんだが・・・」

「・・・私も同じ考えかもしれません」


まさかとは思うけど・・・


「ウチの兄から聞いてました?」

「えぇ、戸籍はまだ残しているそうです。恐らくですが・・・ナル様も後のお二方も。スーミラ様に関しては教皇猊下が戸籍を残しているやもしれませんが」


取り敢えず、当事者らに聞いてみる事にした。


『戸籍?あぁ、ウチの弟子兼義娘のスーミラの事だろ?手続きとか面倒だから残してたな~』

「マジですか」


そして――――


『王族戸籍?あぁ、そう言えば政務で忙しすぎてコッチ側の皆ほったらかしにしてたな。スタヴのは』

「ここもか~・・・・・」


ゼクターに関しては―――――ライン・ハイマンから聞く事にした。


「俺と兄貴の貴族戸籍ですか?それならいつでも貴族としての立場を利用できるように残してますね」

「マジで?!」


国によっては戸籍ごと国で手続きをすればそのまま残せるらしい。


「ハイマン家はそのままハイマン家として公爵の爵位を残してます」

「スーミラは確か、エデルフェルト侯爵家だったか?」


スーミラの貴族名義を思い出す。


「えぇ、本来は魔族として攻撃魔法を主に扱う一つの貴族だと記憶しています」

「やっぱりか」


となると・・・


「まぁま~」

「あら、お腹が空いたの?」


途中からエリンがぐずり始める。


ナルは泣かれまいと懐からお菓子を取り出す。


「後でお昼ご飯だからその飴舐めて待てるかしら?」

「うん!」


ナルの適応力にカテアが驚く。


「エリンさんのへの対応が凄いですね」

「これが俗に言う母性本能開花ってやつですね」


エリンが飴をなめ始めたタイミングで――――


「エリンちゃん、お腹空いてた!?」

「エリおねーたん!」


瞬時に現れるエリデリアにエリン以外が驚く


「まだお昼時じゃないけどお腹が空いたみたいでな」

「あっ、それなら丁度・・・おやつ用意してますよ。カテアさんもご一緒にどうぞ」

「良いんですか?!有難う御座います!」


取り敢えず・・・学園に入る為の手続きが面倒だと聞いた。


「後二年で・・・・入学出来るならあと一年の最後に書けばいいか?」

「私が殿下に進言すれば代わりに・・・ご用意は出来ますよ」


おやつのパンケーキを食べながら先程の話の続きをする。


「けふっ・・・ねむぃ~・・・」

「エリンのこういう所が心配だな・・・」


授業中に寝たり騒がしくしないか心配になって来た。


「そこは・・・多分大丈夫だと思いますよ」

「そうなんですか?」


おやつを食べた後、ナルがエリンに歯磨きをさせに席を外している間に話を続ける。


「エリンさんからしたら判る範囲での授業だと思いますし、私も学園に通っている身なんで時折、様子を代わりに見に行けますよ」

「あ~、それなら安心です」


ただ、完全に忙しい時もあるようで――――


「その時は教師陣がしっかりと見てくれるので大丈夫ですね」

「良かった~」


心配事や緊急事態があればその時はギルドかクランハウスに連絡をしてくれることになった。


「あと一つ、教える側にあの子事を周知してしっかりと指導をしてくれる人が居たら良いんですが・・・」

「でしたらランクの低いクラスに入るのがお勧めですね」


学園内でのランクの順のシステムがあり、ランクが低い順から高ランクであれば授業難易度が結構変わるらしい。


「EランクからGランクの三ランクのどちらかのクラスに入ると猶更いいかもしれませんね」

「成程」


エリンの場合は座学の授業のみ低ランクで付いて行けるとして・・・


「基礎の実技なんだよなぁ~」

「そうなんですよね~」


エリンの力に関しては随分と前の事を未だに憶えている。


「そうだ・・・確か、魔王閣下の所のお子さんもエリンさんのクラスに居れる予定ですし、実技に関して心配であればその子に暫く見て貰うのはどうでしょうか?」

「確かに、あの子はしっかりしてるしエリンにとって大事な友人だからな」


魔王の子であるバルドはアレからしっかりと学んでいるらしく、エリンと同時期に学園に入れる予定を組み込んでいると魔族の知り合いから聞いている。


「エリンさんの成長期に会わせてバルド君も知性と魔力も上がってきているみたいですし、期待大ですね」

「本人に掛るプレッシャーを軽減出来れば事猶更ですしね」


取り敢えず、話は纏まった。


「二年後に入学?私が?」

「あぁ、学園内だと友達も多く出来るチャンスはある。バルド君とも良い関係を築ける事も出来るぞ」


僕からそう聞いたエリンは笑顔になる。


「バルドが行くなら私も頑張る!」

「そう、頑張りましょうね」


さて、取り敢えず――――


「必要書類はギルマスと話し合ってコッチで済ませようか」

「ですね。細かい事は私も分かりませんし」


そうお気楽に思いながら――――二年が経った。

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