あいすくーる! -Sea Side- 3
01♨
第1話 残された妹
さくら「えっ、お姉ちゃん死んじゃったの……?」
突然の連絡だった。あまりのできごとに言葉が出てこない。
さくら「そっか……そんなに苦しかったんだね……」
なんとなく察してはいたんだけど、そこまで気にすることだとは思ってなくて。
さくら「わたしがなんとかできたらなんて、あとから思っても遅いよね……」
生きてるうちにいい方向にいくことを考えないといけない。そのことだってわかっていたつもりだったけど、つい毎日の忙しさに流されてしまってて。
さくら「わたしがお姉ちゃんの代わりになってあげたかった……なんてちょっと出すぎた発想かな……」
死ぬってこんなに残された人に影を落とすんだって、そのときはじめて知った。
さくら「それにしてもむごいよ……首つりだなんて……」
あまりは想像ついてないんだけど、きっと壮絶だったに違いないよね……。
さくら「わたし一人になっちゃった……でも、これからも生きなきゃ……」
お姉ちゃんもまだ来ないでって言ってると思う。きっとそうだよ。
さくら「ずっと見守っててね、お姉ちゃん」
静かに目を閉じて、ただひたすらお姉ちゃんのことだけを思っていた。
♦
気づいたらいつもの朝がやってきていた。
さくら「はぁ……なにもする気が起きない……」
ベッドから起きて、キッチンにやってきて……そこから何をしたのか憶えてない。
さくら「行ってきまーす……」
仕事場へ向かう。こうしていつもの日常へと戻っていった。
♦
未咲「なんか、いいことがしたいね」
玲香「どうしたのよ、また急にそんなこと言いだして」
未咲「だって、いつまでもこうしちゃいられないっていうか……」
玲香「それはわかるわよ。なんでいまなのかって気になっただけ」
未咲「んとね、気まぐれってやつかな?」
玲香「はぁ……まぁいいけど、そしたら何するのよ」
未咲「マーチングバンドでもできたらいいかなーって」
玲香「あのね、どれだけの人誘えばいいのよそれ……」
未咲「あまり現実的じゃないのかな……わたしはよさそうって思ったんだけど」
玲香「わたしもちょっとはいいと思ったわ。だけどそう、現実的な面を考えるとちょっとなしかもって」
未咲「んじゃ、絵でも描こっか」
玲香「急に実現可能なものになったわね」
未咲「だってもう思いつかないし……」
玲香「で、なんの絵を描くのよ」
未咲「みかんとかどうかな?」
玲香「あぁ、確かにそこにあるものね……って、そんなのでいいのかしら……」
未咲「いいんじゃない? だって描きやすいし」
玲香「なぜだかわからないけど、わたしのほうがうまく描けそうな気がするわね」
未咲「言ったね? どっちがうまく描けるか勝負だよっ」
そして結果……。
未咲「あーん、うまく描けないよー! 天はわたしに才能を与えてくれてないみたい……玲香ちゃん、いまどんな感じ?」
玲香「順調に仕上がってるわよ。はい、見てみなさい」
未咲「くそー、こうなったら裁縫で勝負だよ!」
玲香「つながりがさっぱり見えないけど、いまの未咲はそうしたいみたいね……」
そして結果……二戦二敗。
未咲「はぁ、なんでできないんだろ……」
玲香「未咲の場合、まっすぐ縫う線を引いたほうがいいんじゃないかしら……」
未咲「ギザギザって言いたいんだ……もう全部玲香ちゃんがやったほうがいいよ」
玲香「わたしになんでもやらせないでよ、未咲も何かできることはない?」
未咲「あっ、あのね、最近口笛が吹けるようになったよ!」
玲香「やってみなさい」
未咲「~♪」
確かにできてる……ような、なんか違うような……。
玲香「これ、たまたまできてるっていうほうが近いような……」
未咲「できてることはできてるでしょ? だからいいのっ」
玲香「まぁ、あんたがそれでいいならいいけど……」
未咲「あっやっぱりもっとできるようにしたい! ねぇ玲香ちゃ~ん……」
玲香「さすがにわたしもできないわ……やろうとしてこなかったもの」
未咲「へぇ、意外……音楽ができるから、そういうこともできるのかなって」
玲香「さすがに違うものよ、そういうふうには育ってきてないし」
未咲「うわなんだろう、このわたしとは違いますオーラは……」
玲香「とにかくいまちょっと練習するから、できたら教えるわ」
未咲「うん、頑張って♡」
それから玲香ちゃんはいろいろ調べながら正解にたどりついた。
玲香「ほら、~♪」
未咲「なんでできるの……もうやだ生きてくの……」
玲香「冗談でもそんなこと言わないで、未咲にもできることはあるから」
未咲「そんなのないよ、かろうじてお仕事もできてるくらいだし……」
玲香「そんなの教育の賜物じゃない、しっかり感謝することね」
未咲「うぅ……くやじい……」
もうなんかいろいろ嫌になったので、話をかえることにする。
未咲「そうだ玲香ちゃん、最近『おも活』やってる?」
玲香「何よそれ」
未咲「知らないの? 『気持ちよくおもらしして健康になりましょう』ってあの有名人発の」
玲香「はじめて聞いたわよそんな言葉、あんたが作ったんじゃないの?」
未咲「違うよ~、ほら、このサイトにもしっかり載ってるでしょ?」
玲香「どれよ、見せなさい……」
確かに載ってるけど……もうなんか全然怪しい。
玲香「これちゃんとしたところなの? 嘘っぽいわね……」
未咲「玲香ちゃんはなかなか手ごわいですな……まぁいいや、わたしはやってて」
玲香「あんたは帰ったらこれやってるの? ひとまずわたしから言えることはひとつね、やめときなさい」
未咲「まったく信じてない……くそぅ……」
実際こんなサイトは実在せず、わたしが日夜がんばって仕上げたものだった(悪いことってここまでしかできないよね……)。
♦
未咲「ふふ……玲香ちゃんは知らないだろうなぁ……」
わたしは本当にやっていた。その「おも活」とやらを。
未咲「おむつ代がばかにならないけど、趣味には代えられないからね……」
ときどきシーツにしてみたり、そういうことはしてるけど……。
未咲「やめればいいんだけどね……どうしてもやっちゃうよね……」
玲香ちゃんを騙した罪もあったけど、うまく騙されることはなかったのでそこまで重さを感じることはなかった。
未咲「このしっとり感があるからやめられないんだよね……うん、上出来♡」
自画自賛をひとつ。もうひとつくるかな。
未咲「よし、ここまでにしよ」
なかった。なんだか年々さらっと終わらせてる気がする。
未咲「ちょっと寂しいな……こうやって終わっていくのかも……」
なんとなく人生の終わりを考えてみる。こんなことしてばかりもいられない。
未咲「だけど他にすることもないよね……こうしてるのが一番いいから……」
もうとっくに気づいていた。わたしはこれが好きだって。
未咲「はぁ……よしっ、あしたも頑張れそうっ」
わたしはやっぱりわたしだね。
♦
うみ「はぁ~……やっぱここが落ち着くわー……」
あたしは海のそばにいた。ここにいると潮風が気持ちいいよなー……。
うみ「おっ、いたのか瑞穂」
瑞穂「はい、ちょうどうみさんと同じタイミングでいたかったので」
うみ「なんだよ、あたしが欲しいみたいな言いかたして」
瑞穂「田舎暮らしは疲れました。ここにいるほうが何かといいです。便利なのがいちばんですよ、みんな夢みたいな生活を想像してたりしますけど」
うみ「そっか、あたしもまた一緒にいれて嬉しいよ」
瑞穂「それって、わたしをおちょくるためじゃないですよね?」
うみ「当たり前だろ……とも言いづらいな」
瑞穂「やっぱりうみさんはうみさんです……」
うみ「田舎ではどんな感じだったんだよ?」
瑞穂「そうですね……何より田畑の管理が大変でした。なかなか思い通りにはいかないです。風雨に荒らされたりしてほんとに大変だったんですから……」
うみ「そっか、ご苦労だった」
瑞穂「うみさんにわざわざ報告することでもない気はしますけど……きょうは気分が乗ったので言うことにしました」
うみ「うん、それでいいぞ」
ちょっと嬉しかった。あたしに気を許してくれたみたいで。
うみ「瑞穂」
瑞穂「なんですか?」
うみ「あたしんとこ来ないか?」
瑞穂「えっ、それってどういう……」
うみ「疲れただろ? あたしが世話してやるって言ってんの」
瑞穂「いいんですか……? わたしけっこう手かかりますよ?」
うみ「お前ひとりどうってことないよ。ちょうどさみしかったし」
瑞穂「……ありがとうございます!」
うみ「えっ、ちょ、そんな喜ばれるとは……どういう風の吹き回しなんだ……?」
瑞穂「わたし、人のつながりにも飢えてて……うみさんといられるなら……」
うみ「おいおい、あたしなんかでいいのかよ?」
瑞穂「もぅ、なんでわたしが勇気出して言ったのにそんな反応なんですか?」
こいつ……さては世話される気満々でいるな?
うみ「上目遣いがすぎるだろ……これまで以上にさ……」
瑞穂「細かいことはいいじゃないですか。いますぐ行きましょうっ!」
うみ「はいはい、行きましょうねー」
子どもを世話するってこんな感じなのかな……。悪くはないと思うけど。
♦
ロコ「はぁ~……きょうもお風呂が気持ちいい♡」
そのころ、わたしはお風呂を満喫していた。
ロコ「このままおしっこしてもいいけど、さすがにだらしないよね……」
それはしなかった。いくらひとりだからって、それはだめだと思った。
ロコ「ちょっともったいないけど……ちゃんとトイレでしよう……」
まさか飲もうと思ってた時期があったなんて……もうさすがにできない。
ロコ「自分のってどうしてもくさいし……する気にならないかも……」
もうそれも知ってて。だからやらない。
ロコ「これが大人になるってこと……なんだよね……」
優越感もあって、だけどちょっぴりさみしくもあって。
ロコ「でも、これでいいのかも……」
お湯に浸ってるこの瞬間が気持ちいい。それだけはよく知ってる。
♦
さくら「お姉ちゃんの同級生のみなさん、どんな感じで過ごしてるんだろ……」
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