第44話


「……。すまん、そうだよな、俺らパーティだもんな」


「……そうだもん、」


「いじけるのは後だ!乗れ」


「いじけてないもん」


 涙をゴシゴシと拭くミュゥを背負い、


「エンチャント頼むっ!」


 枝を走り、隣の木に飛び移った。たっか⁉︎こっわ⁉︎


「エンハンスエンチャント『エル・ストレングスッ』」


 木を滑り降り、着地。と同時に俺の両腕をピンク色の魔法陣が包む。眼前には同じく飛び降りた犬畜生ども。俺は恐怖を無理やり振り払い、真っ向から地を蹴った。


「――っよくもよぉ、うちの子泣かせてくれた、なぁッ‼︎」


「ぐビャン⁉︎」


 振り抜いた右ストレートに、飛び掛かってきた1匹目の頭部が爆散。血飛沫の中、自分の腕がひしゃげる音がした。


 しかし止まらない。吹き出す涙を堪え、次の1歩を踏み込む。


「――ッスマァッシュ‼︎」


「ビャボっ⁉︎」


 左手のビンタが2匹目の側頭部を捉え、その首から上を吹き飛ばした。

 一緒に俺の肘から先があり得ない方向に曲がったが、怖いから見ないように目を逸らす。


 俺の両腕は無くなった。好機によだれを垂らし飛び掛かる3匹目は、


「痛っでぇえええッッ‼︎」


「ボぎょっ⁉︎」


 次の瞬間、腹の下からの強烈な蹴り上げに胴体を千切り飛ばされ、宙を舞った。


 ピンク色に輝く俺の左足がプラプラと力なく揺れる。腕がないなら足を使えば良いじゃない!これぞ奥義、アントワネット戦法よぉ‼︎


 軸足もなくなった俺は、ボロボロと涙をこぼしながら最後の力を振り絞って身体を全力で捻り、


「もうやだアアッッ‼︎‼︎」


「ギュべッッ⁉︎⁉︎」


 地面に落ちながら右足を振りかぶり、4匹目の脳天に叩き落とした。

 地面と剛力に挟まれた頭部は抵抗など許されず爆散し、勢い余って地響きと共に大地が陥没。


「うげっ」


 束の間、地面に落ちた涙と鼻水にまみれた俺に向かって、群れのボスが牙を剥く。最早抵抗不可能。戦意喪失。


 ――とった!そう確信したダイアウルフは、


「『ボルトッ!』」

「ギャ⁉︎ッグルアァッ……ァ」


 瞬間、ミュゥの握り締めた短剣に心臓を突かれ、血を吐きながら絶命した。


 俺に集中力を裂きすぎたなバカめ、人間様ナメんなよこんちくしょう痛い痛いちょっと洒落にならん。


「『ダークヒールダークヒールダークヒールダークヒールダークヒールっ。ミュゥも、ダークヒール』」


「ありがと。……たはぁ」


 ……お互い大の字に寝っ転がり、血まみれの地面で荒い息を吐く。


「……勝った、のか?」


「うん。……勝った」


 ……明らかに格上の敵だった。今生きているのが不思議な程の強敵だった。いやマジで。


「……俺ら凄くね?」


「……うん。凄い」


 まさに死闘だった。漫画の中で何度も見た手に汗握る戦いを、俺は今日ここで今制したのだ。


 お互いに顔を見合わせ、興奮に頬を緩めた。




 …………その時だった。




「……グルル」



「え?」「は?」



 唸り声に、ゆっくりと首を向ける。



「グルル」「グルァア」「グゥル」「グルルルルッ」「ゴルルッ」「ぐルゥル」「グルルルル」「ガァアッ」「ゴルァ」「ゴルルルッ」「グルゴアッ」「ガルァグル」「ルルルルッ」「ルルアァ」「グルゴァ」「グルルッッ」「オルグルッ」「ゴウルッ」「グルル」「グルァア」「グゥル」「グルルルルッ」「ゴルルッ」「ぐルゥル」「グルルルル」「ガァアッ」「ゴルァ」「ゴルルルッ」「グルゴアッ」「ガルァグル」「ルルルルッ」「ルルアァ」「グルゴァ」「グルルッッ」「オルグルッ」「ゴウルッ」「グルゴアッ」「ガルァグル」「ルルルルッ」「ルルアァ」「グルゴァ」「グルルッッ」「オルグルッ」「ゴウルッ」「グルル」「グルァア」「グゥル」「グルルルルッ」「ゴルルッ」「ぐルゥル」「グルルルル」「ガァアッ」「ゴルァ」「ゴルルルッ」「グルゴアッ」「ガルァグル」「ルルルルッ」――



 周囲から集まって来る、赤い瞳と唸り声。



 その数は、先の比ではない。



 全身に鳥肌が走り、吹き出した冷や汗が血溜まりに落ちた。

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