第42話
【スライム】:無機物、有機物問わず取り込み、消化してしまう。動きは鈍い。
森の中、俺はプルプルと動く半透明のそれを見て感動する。
「……おぉ、これが」
スライム。それは最弱でありながら、最強のポテンシャルを秘めたモンスター。どっかの世界では理不尽なチートスキルで魔王になったりもしてたか。
「早く狩っちゃおー」
気怠げなミュゥを俺は止める。
「待て待て、主人公が最初に出会ったスライムはな、総じてチート持ちって決まってんだよ」
「はぁ?」
「テイムして仲間にする」
「え、おにーさんテイマーだったの⁉︎」
テイマー職もあるのか。まぁ俺はテイマーではないが、いけるだろ。何たって俺は転生者だからな!
「そうだ!」
「すごぉ!」
俺はしゃがみ、スライムに手を差し出す。怖がらせないように、慎重に。
「よーしよしよし、怖くないぞー、おいでおいで、」
「……(プルプル)」
指先をふにょん、とスライムが取り込む。
「少しひんやりするな。……ははっ、なんだよ、めっちゃ大人しいじゃん」
何考えてんのか分からんが、プヨプヨしていて可愛いし、人懐っこいのも推せる。うん、これはもうテイム完了だろ。やったぜ名前はリ◯ル様にしよう!
そう思い立ち上がった瞬間、
「ん?」「ん?」
「(プルプル)?」
……指の肉が溶け落ちた。
「っギャァアアアッ⁉︎⁉︎」「っミャアアアアッ⁉︎⁉︎」
「(プルプル)⁉︎」
骨ってちゃんと白いんだなぁ。俺は泣き喚きながら白骨化した自分の指に手をかざす。
「『ダークヒールダークヒールダークヒールッッ‼︎‼︎』」
「滅殺ッ‼︎」
「プギャっ」
同時にミュゥが大きな石を持ち上げ、スライムを核ごとすり潰した。
グニグニと再生してゆく指の肉を目に、ミュゥが「キモ〜」と寄ってくる。
「ひ、酷い目にあった……」
「テイマーじゃないじゃん」
「俺なら出来ると思ったんだよ」
「何その自信w」
完治した指をグッパグッパする俺を、ミュゥがジ〜と見つめる。
「……やっぱおにーさんの神聖魔法おかしいよねぇ」
あーそれは正直自覚ある。俺は立ち上がり、デバフを受けながら砕けたスライムの核を集める。
「ダークヒールって誰でも覚えられんだよね?」
「うん、初級魔法の1つだしね」
「普通の回復力ってどれくらいなの?」
「すり傷治すくらいじゃない?それに普通は呪いなんて解けないよ」
昨日のことを思い出す。
まぁ考えてみりゃそりゃそうだ。俺は異世界転生者のチートってことで全て納得出来てしまうが、この世界の人間から見れば異常だろう。
なるほど、こういう疑問から生まれる面倒ごとを避けるために、彼らなろう主人公は自分の実力を隠そうとしていたのか。ただやれやれ俺ツエーがしたいだけかと思ってた。
「ふっ、これが神に選ばれた者の宿命、か」
「かもねー」
……もう少し真面目に聞けよ。本当なんだぞ。
「……ま、俺は別にこれで良いけどね。レベル上がってんのに他の神聖魔法出てくる気配ないけど、それはそれで逆に特別感あるし。全部これで済むの楽だし」
「おにーさん今何レベだっけ?」
「6ー」
「ひっくw」
「いきなりの罵倒」
ミノさんぶっ飛ばして一気に2上がったのには驚いた。でも本来はCランクのモンスターだし、妥当か。
「……ミノさんくらい、自分で狩れるようにならないとなぁ」
「スライムに指突っ込んだ人が何か言ってま〜すw」
「初めて骨の色見れたから別に良いし」
「ポジティブ怖っw」
今日のクエストはスライム3匹の討伐。もう騙されないぞ、リ◯ル様だろうが関係ない、俺自らすり潰してやる。
そう誓った、その時だった。
「――っ……」
ミュゥが勢いよく顔を上げ、辺りを見渡す。
「どした?」
「……たぶん、囲まれてる」
「へ⁉︎」
「おにーさん、背中」
「お、おう!」
いつになく真剣なミュゥと背中合わせになり、俺は剣を引き抜き構える。
茂みが揺れ、低い唸り声と共に出てきたのは、
「は⁉︎」「……何でこんな場所に」
「「「「「グルルルルッッ」」」」」
森の狩人――ダイアウルフとその配下、グレイウルフの群れだった。
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