第39話

 商業ギルドで大銅貨を金貨と大銀貨に両替し、今まで入ったことのなかった区画に足を踏み入れた。


 大通りを抜け、少し北に行くと、周囲の雰囲気が段々と上品になってゆく。

 道路には柄模様のタイルが敷かれ、街並みには高価そうな装飾が増え、屋敷とかばんばん立ってる。


 ここから先は上流階級の居住区。貴族とかもいるから気をつけろとパレスさんに言われた。いつか俺もこんなとこに住んでみたいよ。


「……これと、あれもか、……どっち行こ」


 綺麗な装飾が施された、煌びやかな建物。実にいかにもな見た目をしてる。


 ほぇ〜、と見ていると、礼装を羽織った男性がニコニコと近づいてきた。


「宜しければ見ていかれますか?」


「あ、あー、はい」


「有難うございます。どうぞおいでくださいませ」


「あ、はい」


 扉を開けると、白と金で統一された豪華な室内にほけ〜となる。


 当然のように個室に案内され、ふっかふかのソファに座らされ、ドリンクを渡された。俺みたいな見るからに低所得者な人間にまでこのおもてなし、流石貴族街の店っなんこれうっま⁉︎


「本日はどのような奴隷をお探しですか?」


「あ、お店の従業員を複数人」


「なるほど。業種をお聞きしても?」


「飲食です」


「ふむ、キッチンですか?接客ですか?」


「両方です。あ、でも未経験で全然構いません!」


 ハンバーガーの良いところは、誰でも作れるところだからな!


「キッチンもですか?」


「はい!」


「畏まりました。それで、本日のご予算はどれ程ですか?」


「あ、19万ディオくらいです」


「ふむ……」


 店員さんは顎に手を当て、顔を上げる。


「そちらのご予算ですと、複数は厳しいかもしれません。技術は無くても構わないとのことですので、多くて2人でしょうか」


 まぁそうだよなぁ。人を買うんだ、20万なんて安すぎる。


 ……だから俺は、前世で予習したあの知識を使うことにした。


「あの、それでなんですけど、」


「はい?」


「ここのお店って、病人とか、売れ残っちゃってる人とかいます?」


 その言葉に一瞬店員さんの目が少しだけ鋭くなり、すぐにニコニコに戻った。


「……なるほど。承知しました。ただいまお持ちいたしますので、少々お待ちください」


「あ、はい」


 そして数分後。1人の女性が連れて来られた。


 ……燃える炎の様に赤いショートヘア。

 170㎝程の、女性にしては高い身長、羨ましい。

 顔ちっさ、足なっが。薄い服で余計際立つ胸……あれはDだな。

 垂れ目がちな金色の瞳は、しかしどこか挑戦的で怖い。俺には分かる、あれは陽キャの目だ。ガクブル。


 控えめに言ってドが付く程の美人。なぜこんな人が売れ残りに?


「彼女は呪いを持っていましてね」


「呪い⁉︎」


「はい。どうやらかなり古い術式で構成されているようでして、解呪も効かず、調べてもその効果の一切が不明なんです」


 こっわ⁉︎


「今のところ問題は起きていないのですが、呪いの中には周囲に影響を及ぼすものもありましてね、皆さん怖くて購入を渋ってしまうのです。

 ポテンシャルは当店の中でも最高の部類なのですが……。処分も出来ず、彼女自身無口で我々としても扱いに困っておりまして。どうです?」


 いや、どうですって。そんなの、


「――ッッッ買いで!」


「おお!左様ですか!」


 俺の即決に店員さんが満面の笑みを浮かべる。


 そんなの買いに決まっているだろう⁉︎絶世の美女で?呪い持ちで?奴隷?お前それ完全にヒロインじゃねーか⁉︎⁉︎こんなチャンス逃すバカがどこにいるってんだギャハハ⁉︎


「ありがとうございます!では特別に19万ディオでお譲りしましょう‼︎」


「マジですか⁉︎」


「はい‼︎」


「あざぁす!」


「お買い上げありがとうございましたぁ‼︎」

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