第7話 わり、俺死んだ



「お、さっきぶりだな坊主」


「なんだまた捕まりにきたのか?」


「ち、違いますよっ。ほら!」


 門に到着した俺はゴリラおっさん達に首から下げたプレートを見せ、鼻を鳴らす。


「おお、冒険者になれたのか」


「はい。銀貨ありがとうございました」


「いいってことよ。てことは早速クエストか?行ってきな」


「ここら辺は危険なモンスターはいねぇが、一応気ぃつけろよ」


「はい!行ってきます!」



 草原に戻った俺は、丘に登り、図鑑片手にガサゴソと草むらをあさる。


「……お、あったこれか」


 薄緑色の肉厚な草。これが薬草らしい。案外そこら中に生えている。


「……(モシャモシャ)……あ、ちょっと甘い」


 雑草でも使えるから覚えとけってことか。


「色!形!味!覚えた!あとは、香草か」


 適当に10本程引っこ抜きバッグに入れ、図鑑に付いた地図を頼りに林の中へと足を踏み入れる。


「これは、スパイシー……これは、にがっ……これは、スースーする、……これは、甘苦い……ふむふむ」


 とりあえず口に詰めながら歩いていると、


「お、」「キュ」


 飛び跳ねた1匹の小型ウサギと目が合った。


 こちらをジッと見つめるその可愛らしいウサギには、しかし額に1本のツノが生えている。


 これがホーンラビットって奴か!すぐさま図鑑を捲りその説明文を読む。


「攻撃方法は突進、気性が荒い、大人であれば容易に狩猟出来る、と。なるほど」


 俺はニヤリと笑い図鑑とバッグを下ろし、短剣を引き抜いた。


 同時にウサギも攻撃態勢に入る。


 クエスト項目にはないが、こいつを狩って帰ればきっと受付嬢さんも驚くだろう。


 もうナメクジなどとは言わせない。俺だってやれば出来る子YDKなんだ。


「……悪いがウサギ、狩らせてもらうぞ?俺の相棒が、血を吸いたいってうるさ「キュッ」ッぶねぇ⁉︎」


 間一髪、跳躍してきたウサギのツノを横に跳んで躱す。はっや⁉︎危なっ⁉︎はっや⁉︎


「っちょい待っ「キュッ」――ゴフっ⁉︎」


 一瞬、何が起きたか分からなかった。

 振り返った俺の胸に衝撃が走り、気づいた時には後ろに吹っ飛ばされていた。


「っゲホっゲホッ、ぉえっ、ゴホっ⁉︎」


 うずくまり、息が吸詰まり嗚咽を繰り返す、痛みと涙で思考が纏まらない。

 ヤバいヤバいヤバいっ。


「キュっ」

「っひ、」


 ちょっと待ってくれ、そんな言葉、モンスターには届かない。


 目を見開く俺の眼前に迫る、鋭利なツノ。


 声が出せなくなり、動きがスローモーションになる。


 ……え、これ本当にヤバくね?死ぬ間際に見るやつじゃん。



 ………………え、俺ここで死ぬの?



 恐怖と焦りに心臓がうるさく響き、


 そして、


 そして、



「――あ、」



 貫かれる。



 ――瞬間


「よっ」

「ギュィ⁉︎」


 横から飛び出してきた何かがホーンラビットを蹴り飛ばし、軽やかに着地した。


「…………は?」


 一瞬の出来事に唖然とし、俺はその何かの後ろ姿を見る。


 小さな背丈。

 汚れた外套。

 純白に輝く可愛らしいツインテール。

 そして何より特徴的なのが、頭から生える2本のツノと、太い尻尾。


「おにーさん、ぶじー?あ、」


 妙に間延びした幼げな声が振り返る前に、俺は白目を剥いて気絶した。

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