第43話 落ち込む
通話を切り、はぁ~とため息を吐く。
京華の父親が私に会いたいだなんてどうしてだろう。あ、倒れた京華を介抱したお礼とか? ううん、それは楽観的過ぎよね。きっと私が神宮司グループの娘だって京華から聞いてるだろうし……。
とりあえず明日、もう一度家に行く前に誠一から詳しい話を聞きださないと。
「どうしたんだ、浮かない顔をして。相手は誠一君だったのだろう?」
「え! い、いや、なんでもないわよ?」
「とてもそうは見えんがな」
「そうかしら。父さんの視力が落ちてるだけじゃない?」
「私はそこまで衰えてはいない」
「あっそ。それじゃ私は帰るから」
「ああ」
勢いよく振り返り、出口目指して歩き出す。
あぶないあぶない、あまりの衝撃で父さんの存在を忘れてた。
京華の父親と会う事がバレたら凄く面倒そうだし、気づかれない内に
書庫のドアノブに手をかけようと手を伸ばした瞬間、今日のやり取りを思い出した。
そういえば私の動向をチェックしてるって言っていたわね。だとすると、今誤魔化せても明日になればバレてしまう可能性は高い。だからといって、父さんに話すというのは────
「天翔院の親がお前に会いたいとでも言ってきたのだろう?」
「っ!?」
背後からの声に驚いて振り返ると、いつの間にか父さんが後ろに立っていた。
「い、いきなり何よ! ビックリするじゃない!」
「ふむ、どうやら予想は当たっていたみたいだな」
「は、はぁ? なに訳の分からないこと言ってるのよ!」
しまった! 気づかれた。余計な事考えてないで早く書庫から出ていけばよかった。
「ふ、嘘が下手なのは真澄と同じか」
「そんな事今は関係ないでしょ!」
「それで? いつ会うんだ?」
「父さんには関係ないでしょ!」
「いや、良い機会だからな。私も挨拶しておこうと思ってな」
「はぁ?」
「言っておくが、隠したところで無意味だぞ?」
「くっ!」
今日の事もバレてたし、私に見張りが付いてたとしたら隠してもいずれバレる……か。
「わかったわよ。実は────」
翌日の昼休み、美咲達とお弁当を食べ終えた後、誠一を無理やり空き教室へ押し込み事情を説明した。
「────て訳なのよ」
「マジか。凄いな」
「何も凄くないわよ!」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「どういう意味よ」
「実は、京華さんのお父さんがこうなる事を予見してたんだよ」
「うそ!」
「本当だ。それよりも気になるのは、真希のお父さんが懐中時計の事を知っていた事だな」
「それは私も疑問に思ったわ」
私は昨日、京華から聞かされるまで懐中時計の存在、ましてやその伝説なんて知りもしなかった。だけど父は何かを知っている様な感じだった。
もしかしたら、その謎が京華さんのお父さんと会うことで何か分かるかもしれない。
「いずれにしても、面倒なことになったわね」
「俺を巻き込まないで欲しいけど……無理だよなぁ」
「一番の当事者が何言ってんのよ。それより、今日は何時に行けばいいの?」
「ああ、十八時には着くらしいから、真希はそれまでに来てくれれば問題ないと思う」
「だったら帰りは一緒に帰りましょ。学校終わったらそのまま行くわ」
「お父さんは?」
「きっと勝手に来るわよ」
その後は少しだけ他愛もない話をして別れ、そのまま放課後を迎えた。
美咲と海原君に一緒に帰ろうと誘われたが、家の用事があると言って断った。誠一も一緒だったから不思議がられたけど、美咲が機転を利かせてなんとか誤魔化せた。今度美咲にはキチンと説明しなきゃいけないわね。
「そういえば京華はまだ誠一の家に居るの?」
「居るよ。だけど前みたいな元気がないかな」
「そっか。時計の事が余程ショックだったのね」
「そうみたい。
「……そう」
道すがら京華の状態を聞くと、やっぱり相当落ち込んでいるみたいだ。
小さい頃から信じていた伝説に否定されたのだから無理はないかもしれない。私が京華の立場だったとしても、普段通りに振る舞える自信は無い。
誠一の家に着き、昨日と同じように戸口から中に入り、誠一が玄関の扉を開ける。
「ただいまー」
「…………」
返事がない。昨日は玄関で待ち構えていた京華も今日は居ない。
「出かけてるのかしら?」
「いや、居ると思うよ」
そういって誠一は靴を脱ぎ、私にも上がる様に促す。
「先に俺の部屋に行っててくれ。部屋は分かるよな?」
「うん、大丈夫」
誠一は飲み物を持ってくると言ってキッチンの方へ向かった。
私も部屋へ向かって歩いていると、正面から京華が歩いてきた。
「なんだ、本当に居たのね」
「何ですかいきなり。というか誠一さんが居ないのにどうやって入ったんです?」
「誠一なら私と一緒に帰ってきたわよ。さっきの声聞こえてなかったの?」
「なんですって! 私としたことが誠一さんの出迎えに遅れるなんて!」
「あ、ちょっ!」
誠一が帰ってると伝えたら血相を変えて廊下を走って行ってしまった。
(本当に気づいてなかったのね……これは結構重症かも)
勝手知ったるなんとやら。誠一の部屋でくつろいでいると、ドアがノックされた。
「はーい」
「待たせたな」
「自分の部屋なんだからノックなんかしなくてもいいじゃない」
「いや、一応真希はお客さんだからな」
「誠一ってそういうところ律儀よね」
「じいちゃんの教えだからな」
出された麦茶を一口飲み、気になっていた事を聞いてみる。
「誠一はさ、時計の伝説は信じてるの?」
「う~ん、そうなんだろう」
「煮え切らないわね」
「それを否定したらじいちゃんを否定しちゃうような気がしてさ」
「でも信じきれてないってことね」
「まぁ、眉唾な話ではあるな」
「そっか」
誠一自身はあまり信じてなさそうね。確かに運命の人が持つと針が動くなんてにわかには信じられないし非科学的だもの。
だけど、お姉ちゃんの時には動いていた時計が動かなくなっているのは事実だし……。
あーもう! 訳が分からなくなってきた!
「いきなり頭抱えてどうしたんだ?」
「……その能天気さが羨ましいわ」
「うわ、ヒドイ」
とりあず今は時計の事は忘れよう。京華のお父さんなら何か知ってるかもしれないし。それに、私の父も何か知っている様な口ぶりだったから今夜本当に来たら聞いてみよう。
思考を切り替えて今度のテストについて等の他愛もない雑談をする。
途中途中で京華がやって来ては雑談に交じり、私に対しての牽制をしてきたりと、時計の事を忘れて雑談を楽しんだ。
居間にある振り子時計がボーンボーンと十八時を告げる鐘が鳴ると同時にピンポーンと家のチャイムが鳴った。
「多分京華さんのお父さんだと思う」
「なら私も行くわ」
誠一の後に付いて玄関に向かう途中で京華と合流する。京華がさっきまでと違って緊張して見えるのは、きっと時計の事が原因なんだろう。
玄関に着き、誠一が扉を開けると、そこにはピシッとしたスーツに身を包み、髪の毛も綺麗に整えられ、京華によく似た柔和な笑みを浮かべた四十代程の男性が立っていた。
「こんばんは誠一君」
「はい、こんばんは」
誠一と挨拶を交わした男性が私に気づき、私にも頭を下げて挨拶してきた。
「どうも、京華の父の
「はじめまして!
「そうか、真希ちゃんは覚えていないんだね」
「え、それはどういう──」
どういう事か聞こうとした時、啓一と名乗った男性の後ろから聞き覚えのある声が飛んできた。
「久しぶりじゃないか、啓一」
その声に啓一さんが振り返り、私や誠一達もそっちに視線を向けると、私の父が立っていた。
まさかとは思っていたけど本当に来るなんて……。
それに、いま啓一さんに向かって『ひさしぶり』って言った? どういうこと?
私の思考が追い付く間もなく啓一さんが声を発した。
「もしかして、
と、父の名前を口にした。
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