第12話 違和感

      ◆◆◆誠一side◆◆◆


 デートの翌日、登校すると珍しく美咲が俺の教室に居た。そういえば昨日メッセージで話があるとか言ってたな。

 武人と話していた美咲が俺に気づくと、チョイチョイと手招きをする。


「珍しいな、俺等の教室に顔出すなんて」

「まぁね。武人と話したい事があったから」


 美咲がそう言うと、武人が顔の前で手を合わせて謝罪してくる。


「スマン誠一、昨日コイツが邪魔したみたいで」

「別にいいよ。彼女も怒ったりしてなかったし」

「それだよ! 成り行きとはいえお前達の秘密を喋ることになったのはコイツが首突っ込んだ所為だからな」


 「お前ももう一度謝れ」と促されて、武人と一緒に美咲も頭を下げる。


「俺だけでもイレギュラーなのに美咲にまで知られて大丈夫なのか?」

「秘密を守ってくれたら大丈夫とは言ってたけど……」

「秘密は守るさ。美咲だってそうだろ?」


 話を向けられた美咲はオレンジジュースを飲みながら「うんうん」と頷く。

 飲み終えたパックを机に置くと「でも……」と話しだした。


「昨日の真希に違和感があるんだよねぇ」

「違和感?」

「アタシの勘違いならそれでいいし、もし勘違いじゃなかったら――」


 その先は口にせず、「放課後また来るから待っててね」と言って自分の教室に戻っていった。

 意味深な雰囲気を出していたが、美咲の言った違和感とやらは、神宮寺さんが俺と喋る時の口調や態度の事だろう。その違和感に関しては昨日本人から原因を聞いたし、美咲が大げさに言っているだけだろう。

 そう自分の中で結論づけたが、武人も違和感を覚えてたと言い出した。


「最初に暴漢から助けた時と、告白の時でなんともいいがたい違和感があったんだ」

「それって口調の事じゃないか? 俺の前と友人の前じゃ言葉遣いが違うって言ってたし」

「なのかなぁ。ん~、そういうのじゃない気もするんだが」

「なんだよお前等二人して」

「悪い、俺の勘違いかも知れねぇし忘れてくれ」

「忘れてくれって……。なんかハッキリしないな」


 ここで予鈴が鳴り、消化不良のような物を抱えながら自分の席へ戻った。


 それからはいつもの日常だった。美咲が昼休みか休み時間に姿を見せるかな? と思っていたが結局来ないまま放課後になった。まぁ放課後に来ると言っていたので武人の所へ行って、美咲が来るまで待とう。

 ついでに次のデートのプランを一緒に考えてもらおう。


「武人ってさ、いつもデートは何処行くんだ?」

「なんだよ、藪から棒に」

「昨日のデートで美咲に見つかったろ? だからなるべく知り合いが居ない場所で良い所しってるかなぁって思ってさ」

「ああ、そういう事か。でも俺のは参考になるかわかんねぇぞ?」

「それでも一応聞かせてくれ」

「殆どは俺の家だな。たまにゲーセン行ったり、美咲に付き合ってショッピングだな」

「な……い、家?」


 家でデートだと! 一体何をするんだナニを!?


「変なこと考えてるだろ?」

「べ、べべ別に、考えてないし!」

「あのな、家でデート=セックスって考えが童貞なんだよ」

「そうなのか!?」

「まぁ、やる事はやるけどな。それだけが家デートの全てじゃないし、利点もある」

「たとえば?」

「二人きりでくつろげる空間が作れる。人前だとなかなか甘えてこなくても二人きりだと凄く甘えてくるとかな。まぁこの辺は女の子によるだろうけど。後は普段では見えない一面も見えたりするしな」

「な、なるほど」


 甘えてくる……か。神宮寺さんが甘えてきたら心臓が破裂して死にそうだ。

 

「あとは注意点として親なんだが、お前の場合は心配いらないな」

「親がどうかしたのか?」

「いざって時に親が部屋に入ってくる心配は無いだろ」

「お、俺達は清い交際だから!」

「ふ~ん、それはお前の意見だろ? 彼女はどう思ってるんだろうな」

「え? それってどういう――」

「おっ待たせー!」


 どういう意味かと聞こうとしたが、美咲の乱入で聞けなかった。


 『彼女はどう思ってるんだろうな』


 俺達は付き合ったばかりだし、神宮寺さんだって清い交際の方がいいに決まってる。


「美咲、どういう事だ?」

「どうした武……と……!?」


 いつの間にか俺と武人以外の生徒が居なくなった教室の入り口から美咲が入ってきたが、その後には気まずそうな表情をする神宮寺さんも一緒だった。

 どうして美咲と一緒に? 学校では接触禁止な筈なのに……。その事は昨日、美咲も神宮寺さんから話を聞いて納得してたのにどうして――。


「遅れてゴメ~ン、真希を説得するのに手間取っちゃって」

「『手間取っちゃって』じゃねぇよ。どうして神宮寺さんが一緒なんだ? 昨日秘密を守るって誠一達に約束したんじゃないのか?」

「その事なんだけどね~、昨日誠一にはメッセージしたでしょ?」


 美咲はそう言って俺に向かってウィンクをする。

 スマホを取り出しメッセージアプリを開くが、美咲からのメッセージは‹明日話があるから›という内容だけだった。もちろんこのメッセージは読んだし、話というのは朝の一件だと思ってたけど違うのか?


「どんな内容なんだ誠一」

「明日話があるからってだけ来た。話ってのは朝の事だけじゃないのか?」

「朝の事であってるよ~。真希に違和感があるってね」

「それは朝説明しただろ?」

「そうだね~。でも、私の違和感は拭えなかったんだよ~」


 昨日はそんな素振そぶりは全然見せなかったのに。

 ふと、神宮寺さんを見るとずっと俯いたままだ。まさか――


「それで神宮寺さんを問い詰めたんじゃないだろうな?」

「そんなことしないよ~。でも、今からいくつか質問するかな」


 そう言うと美咲は神宮寺さんに向き直る。


「昨日誠一と一緒にいたのは真希で間違いない?」

「……当たり前でしょ?」

「私が武人のグチ言ってるのは知ってるよね?」

「知ってるわ。ほぼ毎日言ってるから」


 武人が「マジかよ!」と突っ込むが、美咲は質問を続けた。


「私の血液型知ってる?」

「B型でしょ? ねぇ、これに何の意味があるの?」

「まぁまぁ、じゃあ最後の質問。アタシが好きな飲物は?」

「ココアじゃないの? 昨日言ってたじゃない」

「わかった、質問は以上で~す」


 言いながらクルッと回転して、今度は俺と向き合う。


「誠一、心して聞いて」

「な、なんだよ」


 今度は半身になって俺と神宮寺さん、両方が見えるように移動した。


「昨日誠一と一緒に居たのは真希じゃないよ」

「……は?」


 思わず変な声が出てしまった。何を言ってるんだ? 昨日一緒に居た神宮寺さんが神宮寺さんじゃない? ドッペルゲンガーだったとでも言いたいのだろうか。


 バカバカしいと同意を求めるように神宮寺さんを見ると、無表情で美咲を見つめていた。

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