第六章 鍵とトロフィー
ガチャ120回目:宝箱回収作戦
目をこすり起き上がると、そこは自室のベッドだった。
「……いつのまにか眠っていたのか」
部屋を見渡すも、誰もいない。ベッドに温もりは無いが、誰かがいた痕跡はある。
昨日は確か、アイラの……番だったよな?
記憶が曖昧なんだけど……。ううん?
あー、いつもメイド服姿の彼女が、スケスケネグリジェ姿で驚いたんだっけ。
あれ? でも、その先の記憶がないぞ?
「ふぁ……」
眠い。
身体もだるいし、疲れが残ってるのかな。
でも、妙にスッキリした気もするし……?
昨日のダンジョンでは、半分遊んで、半分弓で戦って。
疲れが残るような激戦は繰り広げてないはずなんだが。むしろ、疲れるのは前衛を張ってくれたアイラだったはずで……。
そんな風に思いながら部屋を出て、寝間着のままリビングへ向かう。
するとエプロン姿のマキが出迎えてくれる。奥にはアイラの姿も見える。
どうやら2人で、朝食の準備をしてくれているようだった。俺を見つけたマキが、天使のような微笑みを浮かべる。
「ショウタさん、おはようございます」
「ああ、マキ。おはよう」
「あれ? もしかして、お疲れですか?」
「うーん……。何故かわかんないけど、疲れが取れてない感じ」
視界の端に映ったアイラが、一瞬動きを止めた。
「昨日は絞り過ぎましたか……」
ぼそりと、アイラが何かを呟いた。
上手く聞き取れなかったが、何て言ったんだ?
彼女は心なしか、俺とは対照的に生気に満ち溢れ、顔がツヤツヤしてる気がするし……。
「ショウタさん。今日の冒険は、お休みしますか?」
「……いや、第一層で種集めはするよ。あれなら疲れる要素ないし。それと、可能なら例の宝箱も探索しておきたい」
「わかりました。朝ごはんはもうすぐ出来上がりますから、待っていてくださいね」
「うん、よろしく」
◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、遅れて起きてきたアキとアヤネとも挨拶し、朝食を食べる。
そして出発の準備をしていた時の事。
「え、2人は今日来ないの?」
「ええ。流石に何日も休むわけにはいかないしね。けど、ショウタ君達から離れるつもりもないから、ヨウコ先輩にお願いして、810協会で仕事を割り振って貰ったの」
「ですから、気兼ねなく探索してきてください。お弁当はアイラさんに渡してありますから」
「……」
そうか……。2人は来ないのか。
「ショウタさん?」
「もう、どうしたの? もしかして、寂しいとか?」
「うん……寂しい」
「「!!」」
この3日間ずっと一緒だったし、急に離れられると喪失感を感じてしまう。
ちょっと前まではソロが当たり前だったのに、俺も弱くなったな……。まあ、アヤネやアイラがいるからまだマシだけど、誰かと一緒にいる事が当たり前になった以上、もう1人でスライムだけを狩り続けたあの頃には戻れないだろうな。
「帰りは、協会に迎えに行けば良いかな?」
「はい、待ってますから」
「無事に帰ってくるのよ」
「うん……」
2人をまとめて抱きしめる。
「いってきます」
「「いってらっしゃい」」
……よし。
気持ちを切り替えて、数日ぶりに本格的な狩りをするか。
◇◇◇◇◇◇◇◇
第一層にやってくると、今日も今日とて、入り口はカップルで溢れていた。
「ではご主人様、如何なさいますか?」
「ちょっと待ってねー」
マップを確認すると、緑色の反応が7カ所あった。
昨日の行きと帰りの時点では、まだその反応は6カ所だったけど、丸二日で復活したのかな?
「まずは7カ所の
周りの人に聞かれても良いように、暗号めいた言い方をしてみるが、2人にはしっかりと伝わったようだ。
そしてアイラは、アヤネをノールックでおぶさった。
「承知いたしました」
「ガンガン行きますわよ!」
「ああ」
そうして2人で駆け出し、数分もしない内に一カ所目に辿り着く。案の定そこには巨木があり、周囲を見ても宝箱はない。やはり、宝箱はこの上にあるらしい。
「アイラ、取って来てもらっていいかな」
「お任せください」
本来なら俺も行くべきなんだろうけど、まだ身体が本調子じゃないし……。そんな状態で下手して落ちたら大変だからな。俺がこの状態なのも、たぶんアイラが何かしたからだし、それもあってか彼女は文句1つ言わずに取りに行ってくれた。
アヤネを撫でて待つ事2、3分。アイラが降りてきた。
「ご主人様、以前同様『鉄の宝箱』でした」
「ご苦労様。この宝箱は、アイラのバッグに入るんだよね?」
「はい」
「じゃ、帰ってから一気に開けちゃおう。今は収納しといて」
そんな感じで、俺達は1時間ほどかけて全ての宝箱を回収した。
内訳としては『鉄の宝箱』が5個。『木の宝箱』が2個だった。鉄は全て巨木の天辺にあり、木は巨木の根元に落ちてあった。
しかし、どの宝箱も目的の模様入りの物では無かった。やはり、最初からマップに表示されるタイプとは仕様が異なるようだな。
今回の移動でも、マップの方に新たな反応もなかった。映るのは白と赤だけ。
緑の点は何処にも出現はしていなかったのだった。
「ハズレだったか」
「どんまいですわ、旦那様っ! 上手くいかない日だってありますもの」
「ありがとう、アヤネ。そうだな、今までが上手くいきすぎてたのかもな」
「それでは、どうされますか?」
「アイラも疲れただろうし、少し休んだら『黄金蟲』狩りを始めようかな」
巨木の登り降りを5本の繰り返し、その上マップを一周したのだ。流石のアイラも、肩で息をするほどではないが、疲労らしきものが感じられる。
「10分ほど休んだら狩りを始めようか」
「メイド使いの荒いご主人様ですね」
「悪いとは思ってるけど、俺が疲れてるの、君が原因じゃないのか? まだ何があったか思い出せないんだけど」
「それは、そうでしょうね。私が勝手に寝込みを襲っただけですから」
「……は?」
何してんのこのメイド。
「アイラ、俺に何したのさ」
「……そうですね。まず昨夜は私を抱き枕にされました。ここまでは大丈夫ですか?」
「……うん。なんとなく覚えてる」
あちこち柔らかくて、良い匂いもして、包容力もあって、一瞬で意識を手放してしまった気がする。
「ご主人様はすぐに寝息を立てられたのですが、水着を着た奥様方と長い時間過ごされていた為か、溜まっていらしたのでしょう。眠っていてもソレが主張してくるものですから」
「ちょちょちょ、ストップストップ」
なんとなく予想はしてたけど、いきなり生々しい話は……!
「溜まるってなんですの?」
「「……」」
アヤネって、あんなに押せ押せのクセに、そういう話には疎いのか……?
俺はアイラと目線を交わす。すると彼女はニコリと微笑み、耳打ちをしてきた。
「それから、ごにょごにょ」
「……!」
「まだまだお元気で、ごにょごにょ」
「……!?」
「そして私も、収まりがつかなくなりまして……ごにょごにょごにょ」
「!!?」
アイラから何があったのかを聞き、悶絶したい気持ちでいっぱいだった。
そりゃ、疲れるよ!!
「ですがその先はやめておきました。ご主人様も、最初は奥方様達と致したいでしょうし」
「そもそも、起きてる時にさせて頂きたい」
「もうー、なんなんですのー?」
話について行けないアヤネが頬を膨らませる。
「アヤネには、まだ早いかな」
「ええー。子ども扱いしないでほしいですわ!」
ぷりぷりと怒るアヤネが可愛らしく、頭を撫でて宥めているとアイラは何事もなかったかのように地図を広げた。
「ところでご主人様」
「切り替え速すぎだろ。……なに?」
「これが、今回と前回で宝箱を発見した箇所なのですが……何か気付きませんか?」
アイラが見せてきたのは、計8カ所の×印。その全てが……マップの壁際付近に散らばっている。等間隔とまではいわないが、まるで何かを避けるように散らばっている。
「……本命は中央にある、ってことか?」
「可能性の1つに過ぎませんが」
「確かに、マップの中央付近にも巨木はあったな。前回の、『黄金蟲』殲滅作戦で見た気がする」
あの時は夜で暗かったこともあるが、確かにそれらしい巨木は見た。
「行ってみますか?」
「勿論!」
「ゴーですわ!」
俺達は第一層の中心部へと向かった。
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