無料ガチャ012回目:会議は踊る3【閑話】

 ――会議が始まる30分前。

 宝条院家専用のWEB会議システムを使い、アヤネは姉妹が見守る中、母である宝条院朔夜サクヤに連絡を取っていた。


「お母様、この度は貴重な時間を下さり、感謝致しますわ」

『まあ、アヤネちゃん。今日は一体どうしたのかしら。わざわざ、早乙女姉妹のお部屋から連絡なんて』


 会議の画面には、アヤネとサクヤ以外、何の情報も映ってはいない。それでも、彼女は断定してきた。

 アヤネはアイラを見るが、彼女は首を振る。今日はまだ連絡をしていないらしい。だが、不思議な事では無かった。世界各地に目と耳があると噂される、宝条院家当主である彼女なら、娘の居場所を把握することなど、造作もない事なのだろう。


「この度、わたくし自身で見初めた方と、お付き合いすることになりましたわ。ですが、健全なお付き合いのためには、どうしてもお母様にお願いしたいことがありましたの」

『まあまあ。それは目出度い事ね? でもなあに、私にお願いだなんて改まって』

「アイラとお母様との間に交わされた契約、取り消して下さいませんこと? あれがあっては、旦那様と秘密の共有が出来ませんわ」


 そう伝えると、サクヤの目から笑みが消えた。

 

『……そう。そこに気付けるなんて、ね。アイラが口を滑らしたとは思いたくないけれど……。気付いたのはアヤネちゃんかしら? それとも愛しの旦那様?』

「旦那様ですわ」

『成程、ね。会ってたった1日でそこに気付ける。確かに、貴女が婿に迎えるに相応しい人かもしれないわね』


 サクヤは考える素振りを見せる。その目には、再び笑みが浮かんでいた。


『……ふふ、分かりました。では、一度実家に戻って来なさい。そこで契約を再び交わすために、互いの条件を定めましょうか』

「感謝しますわ、お母様」

『ただし、アイラは置いて貴女1人で戻って来なさい。その間、アイラはお婿さんに預ける様に。明日の朝、迎えに行かせますから』

「……はい」

『ではまた後で会いましょう? 会議には遅れないようにね』


 そう言って、サクヤは会議から退出した。

 続けてアヤネも、会議を閉じたのだった。


 アヤネは深呼吸をした。


「ふわ~、緊張しましたわ~!」

「お疲れ様、アヤネちゃん!」

「サクヤさんと1対1で喋れるとか、凄いじゃない! あたしだったら、緊張して何にも喋れなくなってるわ」


 宝条院朔夜といえば、日本で協会を作り上げた、初期メンバーの1人として有名だ。

 姉妹にとってサクヤは、遥か高みにいる、生きる伝説のような人だ。ダンジョンが出現する以前から憧れの人であったが、協会設立後の目覚ましい活躍により、その想いには拍車がかかった。もはや、尊敬すると同時に、畏怖の感情もあるほどだ。


 2人は他の支部長相手であれば、昔からの顔馴染みがほとんどであるため、変な緊張をしたりしないのだが、サクヤだけは別だった。恐れ多くて会議でも声を掛ける事は憚られ、逆に声をかけられると石のように硬くなってしまうのだった。


「長年、あの人と暮らしていれば、嫌でも慣れますわ~。でも、明日は面と向かって条件を取り付けないといけませんから、大変なのですわ」

「サクヤさんって、常に笑みを浮かべてるけど、敵にも身内にも厳しいと聞くわね。それって本当だったんだ……」

「アイラさんを置いていくって話だけど、アヤネちゃん大丈夫?」

「大丈夫ですわ。アイラ、明日からしばらく旦那様の事、頼みますわよ!」

「お任せください、お嬢様。ですが、ご当主様が一体どの様な条件を出すかわかりません。十二分に気を付けてください」

「そうね。アヤネちゃん、難しい内容だったら相談しに戻ってきても良いからね」

「そうそう。なんて言ったって、これから彼を支えて行く仲間なんだもの」

「はいですわ!」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 その後、予定通り会議は開始され、アヤネも婚約者の仲間入りした事を公表。女性の支部長達からは祝福を。男性の支部長からは祝福と共にショウタへの恨み節が贈られた。

 そして、ようやくハートダンジョンで起きた事件の話へと移り、存在しないとされていた『ハートダンジョン』のレアモンスター、『黄金蟲』の詳細情報。更には『ハートダンジョン』と『初心者ダンジョン』にて、強化体の出現の報告が重なった。しかし、出現情報は調査中であるも、普通の冒険者では再現が困難であることも報告に上がり、彼らはほっと胸を撫で下ろした。


 そして話は、『お願い』の件へと移り、本日は『怪力』が6つ確保されたことをアキの口から語られた。

 本来は全部で7個の要求となっていたため、1つだけ足りない状態だったが、彼らはその数に喧嘩することなく配る順番を決めて行った。


「それじゃ、明日の朝、協会印の特急便で送っておくねー。おじさんはまた今度という事で」

『うむ。ワシは急がんから、ゆっくりで良いからのー』

「おじ様、ありがとうございます」


 議題は落ち着き、同時進行で開催されるオークションの様子を眺めながら、支部長達は大量のスキルについて話を進めた。そう、ショウタの能力についてだ。


『レアモンスターを発見し、昨日の今日でこれだけの数を得る力。今までワシらも、そんな冒険者を夢見て、育成を試みて来たが……悉く失敗して来た。だがここに、光明が現れたな』

『ええ。『運』は他のステータスと比べて、レベルアップでの恩恵や、特殊アイテムによる変化を受けません。その為、『SP』全てを注ぐしかないのですが、『運』に『SP』を注げば注ぐほど、悪影響が出るのは悲報でしたね』

「そうなのですか?」

「は、初耳なんだけど!」


 アキもマキも、その事実に耳を疑った。

 『運』を伸ばし続ける行為は、協会としても非推奨とされており、現実的ではないと否定され続けていた事なのだ。学校ではそう教えられてきたし、2人は『運』を成長させているのはショウタの専売特許だと思っていた。


『うむ、このプロジェクトはの、実はランク5以上の者でないと知らぬ事なのじゃ。本来ならばランク4以下の子達がいる場で話すべき事ではないが、幸いアキちゃん達もヨウコちゃんも、彼を知る者じゃ。言うても構わんじゃろ、のう局長?』

『ええ。この事実を触れて回らない事を念押しして下さるのなら、件の冒険者にも伝えてしまって構いません。詳細はミキに聞きなさい』

「わ、わかりました」


 協会では、『運』による影響は以前から把握しており、伸ばせば伸ばすだけアイテムの出現率が増加する事には気付いていた。しかし、その事を公表することは出来ないでいた。

 なぜなら、『運』に『SP』を注ぎ続ける事で、とある問題が発生してしまうからだ。


『簡単に言うとの、2つの悪影響が起きるのじゃ。1つは、レベルアップによる基礎ステータスの増加値が、減少していくというものじゃ。そしてもう1つは、獲得する『SP』すら減って行くというもの。これは『運』に『SP』を費やすたびに減っていくのじゃ。『運』に割り振れば割り振っただけ、成長速度が鈍化していく。まるで悪夢のようじゃ』

『仲間にステータスで大幅に置いていかれる中、トドメを刺さねば『運』の効果は発揮されませんからね。能力が無ければ、前線での戦いについて行けるはずもないのに。『運』の保持者は、そんな現実に耐えられず、心が折れる者ばかりです』

『それにより『運』が100を超える者は現れましたが、200となればほとんどの者が、戦いについて行けず、リタイアしてしまいました。レベルアップしても、全ての能力値が1しか増えず、『SP』も2まで減ってしまったとか』


 その内容に、姉妹は目を見合わせた。

 まるで、どこかで聞いたような話だったからだ。


『国外には300を突破した猛者もいるとの事だが、弱らせた後のトドメに、やはり四苦八苦しているとのこと。中々トドメがさせずに怪我人が出るらしいね。だというのに、彼は凄い。かなり高い『運』を保ちながらも、自前の攻撃能力を確保している。こんな冒険者は見たことがない!』

『宝条院家のバックアップも入るというし、今後も安心じゃな。あとは、今日の『お願い』とオークションの売り上げ次第でひとまずのランクが決まる訳じゃが……どうなるかのう』

『『お願い』の件がありますから、私達は慌てて『金剛外装』の落札に参加する必要はありませんからね。ただ、彼の最寄りは『ハートダンジョン』ではありませんから、次がいつになるか分からないところですが』

『ぬっ。それを言われると、1個は確保しておきたくなるのぅ。うちのダンジョンに、凶悪な攻撃をするモンスターがおるから、『金剛外装』のスキルはあまりに魅力的じゃ……』

『ふふ、私は無理強いしませんよ?』


 そうして、幾人かの支部長はオークション参加に盛り上がり、それを見守っていた姉妹はショウタの装備を吟味する為に、『お願い』参加者から武具の融通を相談する。

 会議は、オークションが始まっても中々終わる事は無かった。

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なろうでローファン四半期1位獲得の為、今日は3話です(2/3)

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