ガチャ054回目:新たなる出会い

 そして翌朝。

 朝食を食べ、改めて必要な物をチェックしていると、不意にスマホが鳴った。


 この着信音は、マキだ。


「もしもし」

「おはようございます、ショウタさん」

「おはよう。どうしたの?」

「えへへ、昨日のお返しです」


 昨日の? ……ああ、そういうことか。

 くそ、可愛いな。


「もうすぐ会えるってのに、我慢できなかったの?」

「はい。それに、一度やってみたかったんです。モーニングコール……」

「なるほど。じゃあ日替わりでお願いしようかな。アキも聞こえてるよね?」

「うん、やるやるー!」


 朝から元気の良い事で。


「それじゃ、またあとで」

「はい。また」

「またねー!」


 電話を切り、晴れやかな気分で用事を再開する。

 必要なものはリュックへと詰め込み、掃除をしてゴミを出す。


 そして最後に、1度部屋を見回し、見納める。


「……3年間、お世話になりました」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 いつものように電車に乗り、いつものように協会への道を進む。

 『黄金の種』などの私物は、リュックに入れて持ってきたけど、一度協会に預けてしまうか。利用したことは無かったが、冒険者ならだれでも使えるロッカーがあったはず。


 そんな事を考えつつ、あと数分で協会……といった所で、小さな影が道を遮った。

 視線を下ろして見ると、そこには上質な服を纏った少女がいた。その少女に見覚えは無かったが、相手の視線は明らかにこちらを捉えており、俺に用があるのは間違いないようだった。


「あなたが、アマチ、ショウタ様であってるかしら」

「そうだけど……君は?」


 不遜な物言いと、その態度から滲み出る自信の表れ。ツインテールを風に靡かせた金髪の少女は、ドヤ顔で言ってのけた。


「わたくし、冒険者ですの。あなた様と同じですわね」

「ふぅん?」


 金髪ツインテールという、いかにも生意気そうな見た目だが、言葉遣いと所作は、思いのほか丁寧だった。低身長も相まって、随分と幼く見えるが……学生さんか?

 今日は平日だし、学生なら学生服を着てるはずなんだが……。冒険者だっていうし、免除されてるのかな。


 一応ダンジョン関係のお仕事は、男女問わず中学卒業後から就業する事が出来る。その際、ダンジョンの協会員として、受付や調査員の仕事に就くか、自らダンジョンへと潜る冒険者になるかが選べるわけだ。

 まあほとんどは、直接就業せずに、専門の学校に通って知識やトレーニングを積み重ねて、ようやく本番入りするわけだけど。特に冒険者業は、何の準備もなしに行っては死亡率が高いからな。


 少女をよく見ると、その胸には冒険者の等級を表すバッジが装着されていた。バッジの色合い的に、恐らく学業よりも冒険を優先している子なのかもしれない。

 そこに輝くのは、俺より2つ上のDランク。一応目上ということになる。

 年下だろうと下手な扱いは出来ない。この服も、普段着に見えて上等な防具なのかもしれないな。若いのに頑張ってるんだなー。


 俺も一応、胸にはバッジを身に付けてはいるが、最下級の1個上の物だ。

 『アンラッキーホール』で大量に魔石を稼いでいた時に、アキから「昇格したよー」と言われて受け取った、年季の入った物だけど……。あれも、かなり前の事だよな……。

 今日のオークションの後に更新する予定だと言うけど、それまでは俺のランクはこの通りFのままだ。


「それで、こんな低ランクの俺に、何の用かな?」

「あなたに会いに来ましたの。お話、宜しいかしら」


 そう言って少女は、近くの喫茶店を指さした。

 これがただのファン、というなら全然よかったんだが。そんな筈はない。スキルオーブの大量確保などの活躍をしているが、それはまだ協会内部で秘密になっているし、一般の冒険者には知らされていないのだ。俺個人が話題に上がるとしたら『スライムハンター』かマキの専属絡みかのどちらかだけだろう。

 ……だというのに、俺の『直感』がどちらでもないと警鐘を鳴らしている。どうにも不穏な空気だ。


 そう思って、『直感』の命ずるままに『鷹の目』を使用した。

 すると、俺はそこで、ようやく今の状況を把握した。


 ……仮にこの少女1人が相手だったとしたら、どうとでも出来たんだろう。

 けど、『鷹の目』がもう1人の存在を捉えてしまった。


「……」


 俺の背後、約2メートルくらいの位置に、メイド服姿の女性がいた。この気配、明らかに手練れだ。と思わなければ、見失ってしまいそうな不思議な感覚。こんな近距離にいるのに、『鷹の目』で見るまで、その存在にまるで気付かなかった時点で異常だ。

 『金剛外装』を使えば逃げ切れるかもしれないが、俺の『直感』が、それでも止めておけと告げている。そもそも街中で戦闘スキルを使うのはマナー違反だ。大事な彼女達にも迷惑が掛かるだろう。


 一体、いつの間にマークされていたのやら。

 少女に呼び止められるまで、気付かずにのんびり歩いていたんだから、俺もまだまだってことだよな。

 

「……時間はかかるかな?」

「すぐに済みますわ。あなたの、返答次第ですけれど」


 少女は挑発的に微笑む。こうなる理由にまるで心当たりが無いが、仕方がない。

 ここは素直に受けるとしよう。


「それじゃ、専属に連絡だけさせてくれ。1時間ほど遅れると」

「まあ。正解ですわね。あなたの専属なら、30分程度なら当然のようにエントランスで待ち続けますもの。まるで忠犬ですわ」


 少女がくすりと笑う。


「……うちの専属と、知り合いなのか?」

「ええ、それはもう」


 ああ……。これは、本当に面倒ごとの予感がする。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


これにて2章終了です。ここまでのご愛読、ありがとうございました。

引き続き毎日投稿の予定ですが、1/16及び1/17は閑話を3話ずつ投下予定です。

内容はローファン定番の掲示板ネタですが、位置づけとしましては1日目~6日目までの物ですので、該当する日の間に差し込む予定です。本編再開は1/18予定。


それでは、今後ともよろしくお願いします!



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今日も2話です。(2/2)

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