無料ガチャ007回目:会議は踊る1【閑話】
ショウタが職員用ベッドで寝息を立て始めた頃、部屋に残った面々はこの後を想定して準備を始めていた。
「本日の受付はすでに終了しているから、あとは中のお客さんがいつ出てくるかによるわね」
「先輩、その辺りはいつもどんな感じなの?」
「入り口から遠くにいる場合は、時間が迫っている事をお伝えして、徐々に入り口方面へと歩を進めてもらう感じね。人がいなくなると、退治する人も減るから、森から綿毛虫が溢れて来ちゃうのよ。ただ、そのペースはかなりゆっくりだから、毎朝7時頃に掃除して回ってるのよね」
「……なら、急がせなくて良いわ。ショウタ君にはゆっくり休んでいてほしいから」
「……そう、大事な人なのね。もう付き合ってるの?」
「「つっ……」」
2人同時に固まった。
それを見てヨウコはにんまりと笑った。
「あら~、まだなのね~? うかうかしてると、誰かに取られちゃうわよ~?」
「そ、そんな……」
「だ、大丈夫よマキ。ショウタ君はそんなことしないわ! 先輩、怒りますよ!」
「ご、ごめんねマキちゃん。冗談よ。彼、あなた達の事大事にしているのは見てわかったもの」
ヨウコは、聞いていた以上にマキのメンタルが弱くて驚いた。
「大事に……えへへ」
けど、持ち直すのも速いようで、悲しみに飲まれていた彼女はすぐに笑顔を取り戻した。
「それじゃ、2人とも休んでいなさい。彼について行くかどうかは任せるから。私は会議で、現状起きている事を話してくるわ。その後、アマチ君の持つ、レアモンスター出現調整の技能について、職員たちへの説明含めて、詳しくルールを制定しましょ。それにしても、爆弾を持ってこられたときは血の気が引いたけど、対処策も用意してくれて助かったわ。もし、対策なしや条件不明のままだったら、即刻営業停止に陥っていたもの。けど、情報がたくさんあるおかげで何とかなりそうだわ」
「あ、先輩。それってオンライン会議よね。お母さん達も参加してた?」
「そりゃね。なに、まさか」
「そのまさかよ! 先輩、一緒に行きましょ! マキはショウタ君のご飯を用意してあげて。その後、時間があるなら添い寝してても良いわよ」
「ね、姉さん!?」
ヨウコの背を押して、アキは部屋を出て行った。
残されたマキは、もう1人所在なさげにしていた受付嬢を捕まえ、協会内を案内してもらう事にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「皆さま、お待たせしました」
『おかえりなさい、随分かかったけど、何かトラブル?』
『ははは、この2年安定しているハートダンジョンでトラブルなどおきえまいて』
『ご老公、油断は足元を掬われますよ。ですが、あのダンジョンでのトラブルとなれば、一般人が冒険者の注意を無視して、モンスターに突撃するくらいしか考えられませんがね』
『その点、教育をしっかりしているヨウコちゃんなら安心だわ。うちも見習わないと』
席に戻ると、周辺ダンジョンの支部長達が心配してくれたり、持ち上げたりしてくれる。このように評価されるのはありがたい。
しかし、今回のトラブルは私の責任で生じたトラブルだ。なぜなら、最初の調査段階で発見されなかったため『いない』と判断し、そこからカップルのデートコースとして運営を始めたのだ。
もしも今回、発見したのが彼らではなく、一般の参加者だったとしたら、どんな事態になっていたか……。
尊敬する先輩方に失望されるのは怖いが、これは私の失態。責任もって説明しなければ。
「いえ、重大なトラブルが発生しました。今回の議題を遮ってしまうほどのものです。本当に申し訳ありません」
『……』
沈黙が帰って来るが、初心者ダンジョン勤務の頃からお世話になっていた、ミキさんは優しく声をかけてくれた。
『ヨウコちゃん、何があったの?』
別の協会に移動し、支部長の役職に就いた今でも、この人はあの頃のように、娘の1人として扱ってくれる。その事に、本当に頭が上がらない。
「第一層に、データベースにない完全新種のレアモンスターが発見されました。発見者は外部の冒険者で、その場には『鑑定Lv4』をもつ協会員が随行していました。これは、その際に能力値を控えてもらったものです」
アキが調べたデータを転送する。各員はその内容に驚くが、慌てる様子はない。彼らは皆、歴戦の猛者達だ。
そんな中、一際冷静に確認をしてくれたのは、やっぱりミキさんだった。
『Lv4を持つ協会員の場合、『協会員ランク』は最低でも3以上。そしてこのタイミングでヨウコちゃんのダンジョンにお邪魔していそうなのは……。アキ、そこにいますね?』
「いえーい!」
アキちゃんがダブルピースでカメラに写り込んできた。
『おお、アキちゃんではないか!』
『元気そうじゃのう!』
『アキちゃんは今日も元気いっぱいね』
相変わらず、先輩たちから孫のように可愛がられているわね。そんな和やかな空気の中、オンラインにもかかわらず冷えた空気をカメラ越しに感じさせる女性が1人。
『アキ……なにをしてくれてるのかしら?』
「あれ、怒ってる!?」
『あなたがいるという事は、マキと彼もいますね? 沸かせたのは彼、ですね?』
「そー。彼がどうしてもやりたいっていうからさー。応援してあげたの!」
『アキちゃんに彼氏じゃとぉ!?』
『どこのどいつじゃ!』
『あらあら、どんな子かしら』
レアモンスターの情報そっちのけで会議は踊る。こんなに賑やかな人たちだけど、仕事モードに入れば本当に頼りになる先輩たちなのだ。今は私も茶化す側に回ろう。
「あれ、まだ片思いのはずだったよね?」
「そ、それは、そのー」
『な、なんじゃとー!?』
まだ片思いと言う情報に、彼らの熱は更にヒートアップした。
しかし。
『静かになさい』
その瞬間、騒めきはピタリと止まる。
今まで一度も口を開かず見守っていた、日本ダンジョン協会第一本部局長だった。
『アキさん、ミキさん』
『「はい」』
『今回の件、並びに新種のレアモンスターの件。同じ人物によるものと聞いていますが、間違いありませんか?』
本部局長ともなれば、自前の情報収集を任とした専門部署を持っていると聞く。
彼らを抱えている本部局長を前に、隠し事は不可能に近い。
『「……間違いありません」』
『その人はアキさんにとって、大事な人であると?』
「はい!」
『……わかりました。ではアキさん、レアモンスターとの戦い、動画に収めていますか?』
「撮ってます!」
『では皆さん、動画内で確認すべきはモンスターの全容だけです。そこに映っている人物について、下手に嗅ぎ回らぬ様に。よろしいですね』
誰もが彼の言葉に逆らうことなく頷くだけだった。
「おじいちゃんありがとー! 大好き!!」
『ふふ。では、早速動画を見させてもらいましょうか』
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12/25の投稿開始からちょうど半月。この度「小説家になろう」にて、ローファンタジー月間1位の栄誉を賜りました。
今日から3日連続3話です(3/3)
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