第二章 2人とデート

ガチャ034回目:休暇をもぎ取った

 あまりに小さく、か弱い声で朝の挨拶を返すマキに、俺は嗜虐心をくすぐられた。


「朝だね」

「は、はぃ」

「起きないといけないね」

「そ、そうですね……?」

「俺はこのままでいたいんだけど、マキはどうしたい?」

「ふぇっ!?」


 普段のマキは積極的だけど、今の彼女はまるで逆だな。

 朝は弱いのか、それとも押しに弱いのか。もしくは……昨日の出来事を、のか?


「ねえマキ」

「ひゃ、ひゃい」

「子供の数だけど……」

「!!!!!」


 マキは飛び起き、俺の腕を振り払い、逃げるように離れていった。

 そしてベッドの端で蹲って、ぷるぷると震えてしまった。


「う、うううぅぅ!」


 どうやら正解だったみたいだけど、少し……いや、かなりおふざけが過ぎてしまったか。


「恥ずかしい……」

「あー、その。マキ、ごめ」

「おっはよー!!」


 ……なんともタイミングが悪い事に、アキが部屋に入ってきた。

 これは『運』が仕事をしていないな。いや、今は冗談を言ってる場合ではない!


「……え? なんでショウタ君が、ここに!?」


 しかも、アキはタイプのようだった。


「乙女の部屋に押し入って、一体何を……」

「いや、これはその」

「ぐすん」

「しかも、しかも……! よくもうちのマキを泣かせたわね!?」

「す、すいませんでしたー!!!」

「謝って許されるかー!!!」


 般若のようにキレるアキと、震えるマキに、俺は謝り続けるしかなかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 数十分後。

 落ち着きを取り戻したマキによって、朝食が用意された。

 ちゃんと俺の分もある。どうやら許してもらえたらしい。


 うん。ちゃんと告白もしてない俺があんなこと言えた義理じゃなかったよな。

 反省してます……。


 そしてアキはというと、2人で説明してようやく昨日の出来事をふんわりと思い出したらしく、俺がこの家にいた経緯は理解してくれたようだ。泣かせたことはまだ若干怒ってるけど。

 本当に申し訳なく……。


「アキが少しでも思い出してくれて助かるよ」

「あはは、ごめんねー。……あれ? 名前……」

「アキが言ったんだよ。マキと同じように扱ってほしいって」

「……言ったような、言ってないような? でも、あたしとしてはその方が嬉しいから、ショウタ君が構わないなら、良いかな」


 はにかむアキを見て、フッと頬が緩む。

 どうやら彼女は、思いっきり飲みまくると、本当に記憶が飛ぶらしい。時間を掛ければ徐々に記憶が戻る事もあるらしいが、寝起きの時点では1ミリも覚えていないとか。

 逆にマキは、起きた事全て覚えている性質らしい。あんな風に酔う事自体稀のようだけど、本当に正反対の姉妹だな。


 とりあえず、アキの名誉のために、『子供は3人』というワードは忘れてあげようと思う。


「それで、今日はどうするの」

「今日はって?」

「だって、ショウタ君最近働き詰めじゃん? 毎日1回はレアモンスター倒してるでしょ」

「まあ、それはそうだけど」


 でも、それは『アンラッキーホール』の頃からずっとそうだったのだ。色違いなだけとはいえ、レアモンスターとは毎日戦い続けてきた。なので、こっちのダンジョンに来てやっていることは、ある意味平常運転な訳だ。


「アキも知ってると思うけど、この3年間一度もダンジョンを休んだことは無かったよ」

「そうだけどさ、たまには休むとかしないと体に悪いよ?」

「うーん、それで体を壊したことはないしなぁ……。あ、もしかして、デートのお誘いだったりする?」

「あら、ショウタ君も分かるようになってきたじゃない。と、言いたいところだけど、休みの予定は入れてなかったのよね」


 アキがそう言った所で、今まで黙っていたマキがどこかに電話をかけ始めた。


「……もしもし、支部長。はい、マキです。おはようございます。今日はショウタさんがお休みするようなので専属の私と姉さんの両名で、付きっきりで療養のお手伝いをするので、今日はお休みします。はい、そうです。専属ですから。彼の体調を整えるのも私達の仕事ですので。え? 昨日? 特に何もありませんでしたよ。はい。はい。それでは失礼します」


 電話を置いたマキは、呆然とする俺達にニッコリと笑顔を向けた。


「これで大丈夫ですね!」

「……えっと、大丈夫なの?」


「まあ、受付嬢の仕事って結構融通が利いてね。休みの日を結構好きに変更出来たりするのよ。それに、私やマキは仕事人間だからねー。ほとんど休みを取らないの。だから専属の権利を使えば、これくらいの暴挙は許されるわ。ただ月に何度も当日ドタキャンするようじゃ指導が入るだろうけど。……まさか真面目なマキが、こんな手段に出るとは思ってもみなかったわ」


 俺はそれよりも、昨日の事を支部長が気にしていた事に、気が気じゃないんだけど。

 まあ、2人は気にしていないようだし、気に病むだけ無駄なのかな。


「それと姉さん、支部長から伝言。第777支部の方はしばらく行かなくて良いって。そっちには姉さんの後輩を割り振るから、しばらくは第525支部所属として動いて構わないそうよ」

「ほんと? じゃあ一緒にいられるのね!」

「うん! それじゃ、早速デートに行きましょう! 動物園、水族館。ダンジョンデートも面白そうですね!」


 ダ、ダンジョンデートってなに!?


「ちょっと、せっかく休みをもらったんだから、ダンジョンデートなんて。……って、ショウタ君乗り気になっちゃってるじゃない! 顔に書いてある!!」

「ふふ、ショウタさんが行きたいのでしたら、私は喜んでお供しますよ。ただ、モンスターからは守ってくださいね?」

「マキの髪の毛一本たりとも触れさせやしないさ」

「ショウタさん……!」

「ノリノリなとこ悪いけど、ショウタ君。ダンジョンデートの事、どれくらい知ってるのよ」

「1ミリも知りませんが?」

「胸を張らないの。ま、簡単に言うと、モンスターがとっても弱くて、初心者ダンジョン以上に、気を緩めても問題のない場所で、景色が綺麗な観光向きの場所ね。レベル1同士の冒険者登録をしていないカップルでも、安心して回れることで有名よ。ま、お金を払って冒険者を雇う必要があるけどね」


 へぇ、そんなところが。


 完全素人を2人も連れて自由に歩かせることの出来るダンジョンか。となると、第二層のように広々としていて、その上敵のポップ数が少ないか、攻撃的ではないモンスターが多いということか。

 でも、モンスターがいるということは、つまりレアモンスターもいるということだよな??


「すごい行きたい!」

「ふふ、わかりました。お弁当を準備しますね!」

「目を輝かせてるところ悪いけど、あそこのデートスポットに、レアモンスターの発見情報は無いわよ?」

「え?」


 そんなことが、あるのか?

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新章突入。今日は2話です(1/2)

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