ガチャ008回目:二重契約するには

 マキさんを専属にしたいと、半分冗談、半分本気で口にしたんだけど、まさかマキさんが乗り気の反応をしてくれるなんて。

 いや、そこはちょっと嬉しいけど、気になる事がある。


「色々確認したいことがありますけど、そもそも出来るんですか? 既にアキさんから『紹介状』を貰って、専属がいる身なんですけど」

「は、はい。可能です。ただ条件が色々ありまして、まず専属が既に居る冒険者の場合、受付嬢から希望することは出来ません。最初の専属とは逆に、冒険者の方から直接希望すると仰っていただく必要があるんです。じゃないと有望な冒険者に対して、無尽蔵に専属がつくことになってしまいますから」

「あー、確かに……。制限が無かったら、トップ冒険者の人達が大変ですもんね」


 日本国内にいるハイレベルな人達は、それぞれにパートナー関係のような、専属の受付嬢が居るってニュースは聞いた事がある。だけど、複数人いるって話は聞かないよな。

 探せばいるのかもしれないけど。


 『紹介状』のシステム上、稼ぎの多い冒険者の専属になりたい受付嬢は沢山いるだろう。けど、専属持ちへのアピールを禁止する事で、今朝のような光景を協会側では起きないようにしてるってわけか。


 今までそういうのに興味なかったけど、外の世界は、協会も冒険者も大変なんだな。


「でも、本当に私で良いんですか? だって、昨日出会ったばかりですよ」

「……正直に言います。さっきの言葉は、出来ないだろうなと思って軽い冗談のつもりでした。でも可能だと言うのなら、お願いしたいです。先ほどのカウンターでの様子を思えば、マキさんは本当に困ってるみたいだったし、今後もこの協会でお世話になるのなら、俺としてはマキさんにずっと対応して欲しいと思ってます。それは代理としてじゃなくて、本当の専属として。だからその、マキさんが嫌じゃなければ、是非ともお願いしたいです」


 こんな美人な人に、協会へ足を運ぶたびに出迎えられたり見送られたら、絶対やる気出ると思う。今まで僅かな可能性に掛けて何年もスライムを狩って来たけど、やっぱり頑張った成果は欲しい。


 それに間違いなく俺は、今後もこのダンジョンを中心に活動することになる。そんな中で、もし仮にマキさんが他の誰かの専属になってしまったら、彼女は『代理人』としての仕事よりも『専属』の仕事を優先することになる。その光景を考えるとちょっとムカムカするし、全く知らない別の誰かと、やり取りをしないといけないのは辛い。

 アキさんからの紹介であり、アキさんの妹ということもあって、最初は接しやすさを感じていたけど、今となっては彼女じゃないと俺が嫌だ。

 

「……わかりました。私も、専属になるならショウタさんのような人が良いです」

「マキさん……」


 ……ん? あ、ヤバイ。

 なんだか告白みたいでドキドキしてきた。


 そう思ったのは俺だけじゃないのか、マキさんの顔がほんのり赤くなってるように見える。どちらからともなく視線を外した。


「で、ではこれで、私がショウタさんの専属になる為の第一の条件はクリアしました。ちょっと失礼しますね」


 そう言ってマキさんは懐からスマホを取り出し、どこかに電話を掛けた。

 気まずい雰囲気の中で幾度かのコール音が鳴ったあと、電話口からは聞きなれた声が流れてきた。


『もしもーし、お姉ちゃんだよー。どうしたの、仕事中に電話なんて珍しいじゃん。まあうちは仕事なんてないんだけど。にゃはは!』


 いつもの調子のアキさんが出てきた。

 アキさん、妹が相手でもコレなんだな……。


「あのね、姉さん。ショウタさんがすぐそこにいるんだけど」


『お? ショウタ君がそこにいるの? なになに、うちのマキが欲しいって? どうしよっかなー』


「ちょ、アキさん!?」

「姉さん、真面目な話なの」


 アキさんからいつものように揶揄われるけど、そこはマキさん。

 そんなのは慣れっこなのか華麗にスルーした。


『はいはい、ごめんってばー』


「ショウタさんがね、私を専属にしたいって言ってくれてるの」


『え、お? マジで? 第二専属なんて超珍しいじゃん。それに電話をくれたってことはマキはもうオッケーしてるんだね。なら別に良いよ、あたしはマキと一緒なら問題なし! にしてもショウタ君ってば、意外と手が早いんだー? お姉さんは悲しいなー』


「うぐっ」

「ありがと。それじゃ切るね」


『え? ちょ、まっ』


 プツッ。

 マキさんは無造作に通話を終了した。


 普段のマキさんは丁寧で優しいけど、アキさんに対しては結構雑なんだな……。


「第一専属からの認可が下りました。一番重要な2人の配分についてですが、こちらは私と姉さんで決めておきますので、最後に支部長から許可をもらいましょう」

「あ、はい」


 続けてマキさんは備え付けのビジフォンに手を伸ばす。しかしそれと同時に、会議室にノックの音が木霊した。叩かれたのは、普段使用していない奥側の扉。もしかしてと思っていたけど、職員専用通路があるんだろうか。


「話は聞いていました。入っても構いませんか」

「え? は、はいっ!」


 慌てるマキさんが招き入れたのは、見た目30代くらいの、長い黒髪が特徴的な綺麗な女性だった。スーツをビシッと着こなす姿から、仕事の出来るキャリアウーマンを連想させた。もしかして、この人が支部長なのか?

 それにしても、その容姿に顔立ちは、どこか見覚えがあった。一体どこで……と視線をマキさんに戻す。そして再び支部長へ。


 ……そっくり!?


「し、失礼ですが、もしかして支部長さんは、マキさんやアキさんのお姉さんですか?」

「あら」

「すみませんショウタさん、この人は私達の母です……」

「は、母ァ!?」


 どうやら、お2人のお母さんは見た目通りとても若々しい方のようだった。

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今日はあともう1話あります。

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