第11話 道に迷うのも縁⁈
21.野営訓練
野営訓練、初日――。
憲兵教練のコースだと、全員でまとまって行動し、木を伐って小屋を建て、全員でそこに泊まる、といったことをする。食料も現地調達することはあれど、三日分で一週間を生き残るためにするのであって、あくまで軍事行動の一環としてのトレーニングである。
魔術教練のコースだと、五人一組で、好きに野営をして、食糧もほとんど現地調達し、目的地をめざす。魔法で火を熾したり、水をだしたりでき、また動物を狩ることもできる。あくまで魔法をつかうことが前提で、様々なトラブルをどう解決するか、という特訓だ。
「実力からみて、シドル君がリーダーでしょ?」
エマは周りに問いかけ、みんなも頷く。
ちなみにチームの他のメンバー、ドロシーもホセも平民出身。貴族がボクだけ、ということもこれは影響する。
「甘んじて受け入れるよ。でも、ボク一人の力ではこの野営訓練を無事に乗り切ることはできない。だから、役割を決めよう。エマを責任者に、ドロシーとレンは調達した食糧の管理と、ルートの確認をお願いしていいかな?」
「私の得意なことを知ってのことでしょ? 勿論、OKよ」
「私も、エマちゃんが責任者に賛成」
ドロシーも平民で、どこの何某という家ではない。魔法の適性がみとめられたことで、魔術教練に入った。
「ボクはそっちのチームで、力仕事担当だね」
レンもドロシーと同じ立場だ。優男で、女の子が守ってあげたくなるタイプ。まさに主人公のイメージにぴったりだ。
「ボクとホセは、バトル担当だ。食料の調達も行う」
「力仕事は任せてくれ。バトルは自信ないが、体力なら問題ない」
ホセは農家の息子で浅黒い肌をもち、体格もいい。魔法や勉強は得意でない、との自己評価だけれど、頼りになる感じだ。
地図を渡されて、この五人で目的地となる洞窟の入り口まで、野獣ひしめく森の中を徒歩で向かう。ただ、ボクはレンの監視というまったく異なる目的をもって、歩き始めていた。
「へぇ~。立派にリーダーしてるじゃん」
エマは嫌味っぽくいうけれど、元々が人当たりがよいので、悪い気分はしない。
「この訓練は、貴族の子息が民衆を率いる、という概念を植え付けるためのものでもある。やらざるを得ないのなら、やるだけさ」
「ふ~ん……。シドル君って、のほほんと生きているようにみえて、色々と考えているんだね」
「失礼だなぁ。でも、ボクは庶民から貴族になった。自分の立ち位置はよく分かっているつもりだよ。期待に添えなければ、すぐにお払い箱ってね」
「能ある鷹は……って奴? 魔法も、剣技もすぐれていて、それでリーダーシップもあるって、どれだけ完璧なの?」
ボクも笑って「完璧じゃないよ。むしろ人付き合いは苦手さ。何しろ山奥で暮らしていたからね。だけど、それだけにこうして森を歩くのは得意なんだ。あくまで今のところ、ボクの得意項目ばかり、といったところだ」
「その謙虚なところが、女の子をきゅんとさせそうだね。むしろ、女の子が弱点、とか?」
エマはそういって笑う。今はその屈託ない笑顔に、裏表は感じないけれど、ボクもエマ・ルートに入ったことを感じさせていた。
22.各チームの事情
五人一組で、それぞれスタート地点が異なるため、ちがうチームとは出会う機会がほとんどない。
そのころ、アリシアとマイアのいるチームは、道に迷っていた。
このチームはアリシアにかかる負担が多い。何しろ、森を歩いたことがないメンバーばかりで、かつ戦闘力もアリシアが突出する。太陽と星の位置をみて、自分の位置を把握しつつ目的地まで向かうのだけれど、そこには算術、天文学など、様々な知識が必要となる。
地図を読みとる能力も、冒険者である父親に仕込まれたアリシアなら、造作もなくこなしてしまう。
でも、チーム全員の食糧調達から何から、負担がかかり過ぎだった。
「少しぐらい、手伝えるといいんだけど……」
マイアも申し訳なさそうにそういうけれど、魔法適性があるとしても、それ以外の能力はからっきし、というメンバーが多い。むしろ、アリシアの能力が高くて、他のチームとバランスをとるため、それ以外のメンバーは無能が集められた……とすらいえるチーム構成となっていた。
「全然、大丈夫だよ。でも、火熾しとか、水の調達はお願いね」
アリシアは明らかに疲弊しており、一人の方が楽なはずだ。
「ボクも役立たずで申し訳ない。食糧調達なら、多少は手伝えるんだけど……」
このチームで唯一の貴族であるオーウェンも、そういって頭を掻く。無能を集められた、という自覚があるだけに、彼もリーダーに立候補しなかった。貴族は人を率いていく立場だけれど、圧倒的にアリシアにその才があり、このチームは彼女におんぶにだっこだった。
そのころ、ミネルヴァのチームも道に迷っていた。彼女は剣技そのものは優秀だけれど、森を歩いたことのないお嬢様だ。
幸い、彼女のチームには同じ貴族で仲の良い、ジョアンナが入った。むしろ、軍内でも力のある彼女の父親に配慮し、貴族を二人入れたのでは? とすら勘ぐれる。でも、貴族としてリーダーを任されたミネルヴァにとって、相談できる相手がいるのは有難かった。
「フカシの洞窟に行くには、この方向で間違いないはずだけど……」
「また、沢だね」
そう、彼女たちは沢を渡れずに右往左往していたのだ。
決して幅の広い沢ではないけれど、流れが急で、全員が安全に渡れそうな場所はない。ミネルヴァだけなら、飛んで超えることもできそうだけれど、他のメンバーはまだそこまで魔法が上達していない。
上流に向かって歩き、何とか渡れる場所をさがすけれど、森の深いところまできてしまい、完全に道を失っていた。
「しょうがない。一日目はここで野営しましょう。暗くなってから、さらに歩くのは危険だわ」
ミネルヴァも夕刻になって、そう判断する。彼女はまだ魔獣と戦ったことはないけれど、夜間は彼らが活発になり、襲ってくると注意をうけた。事前に、軍が動いて魔獣など、危険は除去してくれているはずだけれど、それでもすべてを除けたわけではない。
「あの岩陰に拠点をつくって、見張りを立てて、交替しながら眠りましょう」
そこは岩が重なったような場所で、雨風ぐらいは凌げそうだ。最初に与えられた、一日分の食事で、今日は何とかなりそうだけれど、明日からは食糧調達もしなければいけない。硬い岩をベッドにして、眠りにくいと感じながら、ミネルヴァも目を閉じた。
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