ブレス王国の夜明け

 クロスは溜め息を吐いた。

「シェイドたちを逃がしてしまった」

「落ち込まないで、君はよくやったよ」

 ブライトがクロスの肩を軽く叩く。


「ブレス王国は世界警察ワールド・ガードの保護下に置く。彼らは奪いに来るだろう。その時に捕まえればいい」


「さすがです」


 尊敬の眼差しを向けるクロスに対して、ブライトはウィンクをした。

「僕は念のために調査を続ける。君たちは安心して帰って」

「ありがとうございます」

 クロスは深々とお辞儀をした。床にへたり込んだままのイクリプスを横目にして安心していた。

 イーグルが口を開く。

「ブライト、無理はするなよ。イクリプスに操られたのはおまえのせいじゃないからな。責任を負い過ぎないように」

「お気遣いに感謝します。お言葉に甘えて無理は避けます」

 ブライトは一礼してイクリプスに視線を送る。

「イクリプスは頃合いを見て本拠地に連れて行きます。イーグル先生はフレアたちを送り届けていただけますか?」

「分かった。また後でゆっくり話そう」

 イーグルは手のひらサイズの紙を数枚取り出して、呪文を唱える。

「バード・ディスガイズ、ペーパークラフト」

 紙は浮かびあがり、グシャグシャという音を立てながらみるみるうちに大きくなる。やがて、人を乗せる事ができるほど巨大な白い鳥の形となる。普通の鳥のような羽毛はないが、紙と魔力でできた可愛らしいふくよかな鳥だ。


「魔術学園グローイングの校門に帰るぞ」


「はい!」


 フレアとクロスの返事が重なる。二人ともやりきったという表情を浮かべていた。

 ローズは胸を張って高笑いをあげる。

「姓はクォーツ、名はローズ。この私の活躍があってこその勝利でしたわね!」

「おまえが操られたせいでだいぶ危なかった」

 クロスが呆れ顔になる。

 ローズは自らの金髪をかきあげる。

「その分は差し引いておりますわ。大活躍ではなく、活躍と申し上げましたのよ」

「……おまえの自分ルールは相変わらずだな。何も言える気がしない」

「当然ですわ! この私に物申す事のできる人間なんてこの世界にいませんのよ」

 クロスの皮肉は一切通じず、ローズはより高らかに笑った。

 フレアは両目を輝かせる。

「ローズすごい! ローズ天才!」

「いくらでも讃えるのが良いのですわ。正当評価ですもの」

 フレアとローズの間に入るのを諦めて、クロスはさっさと白い鳥に乗り込んだ。

 そんな様子を見ながら、イーグルは笑った。

「元気そうで何よりだ。出発するぞ」

 四人は白い鳥に乗り込むと、白い鳥が羽ばたく。力強い風が生まれて、浮かび上がる。

 王城を出ると遠い空から日が昇っているのが見えた。美しい夜明けだ。

 日の光は徐々に広がり、辺りの景色を鮮明に映し出す。

 白い鳥はぐんぐんと高度をあげていく。

 ブレス王国はあっという間に遠くなった。

 クロスが呟く。

「……ローズの魔術に縛り付けられている人たちがいたな」

 奴隷たちを監視していた人間たちが、王城に入る前にローズが召喚した太い木の根に絡めとられていた。

 ローズはオホ、オホホと乾いた笑いを浮かべる。

「そ、そうですわね。世界警察ワールド・ガードに任せましょう。わ、忘れていたわけではありませんのよ!」

「一晩中縛り付けられていたのは憐れだが、解放したら奴隷たちに何をするのか分からないから、これでいいか」

「そのとおりですわ! 結果オーライですわ!」

 クロスのフォローに、ローズは視線をそらしながら赤面していた。

 フレアは頷く。

「きっとお兄ちゃんたちが何とかしてくれるよ」

 イーグルが溜め息を吐く。


「またブライトに負担を掛けてしまうな。そうそう、忘れているだろうから言っておくがレポート提出は今日までだ。頑張れよ」


「え!?」


 フレアとローズ、そしてクロスの声が重なっていた。

 イーグルが続ける。


「おまえたちの活躍を考えると宿題を免除したい気持ちはあるが、学生の本分を忘れさせるわけにはいかないからな。必要があれば俺も手伝うぞ」


「ええええええ!?」


 大空にフレアとローズの悲鳴が盛大に響き渡った。

 クロスは苦笑した。

「……自分の魔術に関して探求するという課題だったな。何も進んでいないから苦労しそうだ」

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