ほどほどにしよう
フレアは全身から血の気が引くのを感じていた。頭は重くなり、身体に力が入らなくなった。
「私のやらかしは、取り返しがつかないものだったんだね……」
魔術学園グローイングの入学試験最終選考を思い出していた。クリスタルに向けて全力で魔力を放つものだった。クリスタルは何百年もの間、魔術的なデータを蓄積していて、放たれた魔力特性を解析する機能を有している。
フレアはこのクリスタルを壊してしまったのだ。
幸い怪我人はいなかった。クロスが被害を防いでくれたおかげだ。
「でも、これからの入学希望者は自分の魔力特性を知る事ができないんだよね」
魔力特性を把握できないまま魔術の習得を目指すと、命を落とす危険がある。
「私のせいで、魔術を学ぶはずだった人たちの夢が奪われたのね……」
フレアにも夢がある。立派な魔術師になってみんなの役に立つという夢だ。
しかし、現実はフレアの魔力のせいで多くのものが壊されている。犠牲者がいないのは幸運が続いたからだろう。
「教室の天井だって、きっと先生方が苦労して直したんだよね」
フレアは見上げた先には、以前に穴が開いたはずの天井があった。
フレアが魔力を暴走させて、穴を開けてしまったのだ。
気持ちは落ち込み、胸の内はどんどん重くなる。涙があふれてくる。
「本当に悲しいのは、これから魔術学園グローイングに入学を考える人よ」
フレアが涙を拭おうとした時に。
自身が赤い燐光を帯びている事に気付く。
同時に、椅子が溶けかかっている事が分かった。教室中に悲鳴があがる。ローズものけぞっていた。
フレアは情けない気持ちになった。
「ううう……」
フレアの頬に涙が伝う。
そんな彼女の肩に、クロスが片手を置く。
「過ぎてしまった事だ。気にしすぎても仕方がない」
「ありがとう……でも、私って本当にダメだね」
フレアは何度も涙を拭うが、溢れてしまう。
クロスは首を横に振った。
「優しくて頭がいいから、他人の心配をしてしまう。おまえの良い所だが、度が過ぎると俺が心配になる」
「ごめんね。落ち着くように頑張るよ」
これ以上、クロスに迷惑を掛けられない。
そんな想いで、フレアは深呼吸をした。
胸の内がいくらか和らいだ。
タイミングを見計らって、クロスが魔術を放つ。
「無理に感情を抑えなくていいだろう。カオス・スペル、リターン」
クロスの手から黒い波動が生まれて、フレアの赤い燐光と混ざりあう。
やがて黒と赤は、互いに抱き合うように溶け合い、空気中に消えていった。
フレアは大きく息を吐いた。
「ありがとう、落ち着いたわ」
「俺は大した事はしていない。とりあえず図書室に行ってみないか? お互いに魔力特性の知識を深めるのは悪くないだろう」
「そうね、頑張って調べるわ!」
フレアは立ち上がった。
クロスは微笑む。
「頑張りすぎるのも問題だ。ほどほどにしよう」
「その通りですわ! 魔術は一朝一夕でうまくいくものではありませんの。この私と共に何年でも学ぶのが良いのですわ!」
急にローズが高笑いを始めた。
クロスは呆れ顔になった。
「言っている事は間違っていないはずなのに、言っている人物が怪しすぎる」
「失礼にもほどがありますわ!」
「これでも最大限に褒めているつもりだった。とりあえず行こう、フレア」
「適当に流さないでくださる!?」
フレアを引っ張っていくクロスの後ろで、ローズはキイキイわめいていた。
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