諦めない

 フレアの身体から、鮮やかな火花がほとばしる。感情と魔力の高まりを感じていた。

「みんなは諦めずに戦っている。私は誰かのせいにして、守られてばかりで、逃げていた」

 自分の魔力特性すら知らなかった。自分で調べる努力をしてこなかった。誰かが教えてくれると心の中で甘えていた。

「ローズの言うとおり、怠慢だったわ」

 今までの自分が恥ずかしくなった。

「手段が残っているのにずっと見ているだけなんて、ひどすぎる」

 制御を誤れば大陸が消えるという。大切な人たちを失うだろう。

 しかし、もう何もできない自分ではいたくない。

 両手をシェイドに向ける。

 生徒たちが気づいて離れる。それはフレアに都合がいい。


「諦めない。バースト・フェニックス、みんなを助けて!」


 めちゃくちゃな呪文である。

 しかし、その威力は絶大だった。異形のものたちが赤い光に包まれて一瞬にして消え去り、新たに出現するものたちも光の海に巻き込んで消滅させる。

 そんな光がシェイドに向かう。


「やっと面白くなったな! イービル・ナイト、オール・ロバリィ」


 シェイドの表情が歓喜に満ちている。

 クロスは驚愕した。

「まさかバースト・フェニックスの魔力を奪うのか……?」

 フレアの炎とシェイドの闇がぶつかり、クロスさえも見た事ないようなエネルギー波が生じる。

 エネルギー波は赤、黒、そしてなぜか白、青、土色と激しく明滅する。

「四元素のカラーが網羅されている……?」

 クロスは息を呑んだ。

 その直後にクロスは一人で頷く。

「そうか……俺の魔力も奪われていたな」

 クロスの魔力特性であるカオス・スペルは四元素を混ぜこぜにして一つの能力にしたものだと言われた。

「シェイドが言っていたな……次こそ勝つ」

 クロスは遠い目をしてその場に倒れた。

 フレアの炎が巨大な鳥の形になっては闇に消される。しかしまた鳥の形になってけたたましい産声をあげる。この繰り返しを何度もした。

 フレアの魔力は急速に削られる。目の前が明滅して、意識を奪われそうになる。

 気力で何とか立っていた。

「まだ抑えたくない……!」

 フレアは歯を食いしばる。

 しかし、フレアの想いとは裏腹に炎が消え入りそうだった。

「もう少し、お願い!」

 新たな炎が燃え上がる。闇を食らい尽くすために、何度でも生まれる。

 シェイドの表情が苦悶に歪む。闇の消費が激しく、余裕がないのだろう。

「……埒があかねぇな」

 シェイドが呟く。

「態勢を整えてから決着を付けるか。イービル・ナイト、シャドウ・バインド」

 炎の動きが止まった。

 クロスが顔だけ動かして、驚愕する。

「バースト・フェニックスの動きを封じたのか……!?」

 炎と闇は相殺された。

 辺りをエネルギー波が蹂躙する。壁や天井を砕いていく。

 フレアは両膝を地面につく。心臓の鼓動が早まり息があがる。

 シェイドも疲れきった表情で頭をかいた。

「思った以上に重いな」

 シェイドは溜め息を吐いた。


「疲れたからこのへんにする。また今度な。イービル・ナイト、シャドウ・テレポート」


 シェイドは自らの影に沈むように、姿を消した。彼が元いた場所は、エネルギー波で砕かれた。

 エネルギー波の暴走は止まらない。壁や床、そして天井を勢いよく破壊し続ける。ローズや上級科の生徒たちが悲鳴をあげる。

 フレアは涙声になる。

「クロス君……」

「分かった、イメージだ。とにかくイメージしろ。おまえはきっと魔術を制御できる、信じろ」

 クロスはよろよろと起き上がり、フレアに優しく語り掛ける。フレアが落ち着いたのを見計らって魔術を放つ。

「カオス・スペル、リターン」

 クロスの両手から黒い波動が生まれて、光になじんでいく。やがて双方が消えた。フレアの魔術が混沌にかき消されたのだ。

 フレアはバランスを崩しそうになりながらブライトに駆け寄る。息はしているが、意識はもうろうとしているようだ。

「どうすればいいの……?」

「こんな時こそ私の出番ですわ! フラワー・マジック、ダンシング・ハーブ」

 ローズの両手から薬草のついた蔦が召喚される。薬草は自らをしぼって雫を出す。雫は蔦を伝ってブライトの口へ垂らされた。

 ローズが高笑いをあげる。


「ブライト様の命に別状はないですわ。あの悪夢の魔術師と戦った事を誇りながら帰りましょう!」


 生徒たちが疲れ切った表情で溜め息を吐く。しかし、互いに手を取り合い、助け合いながら迷宮の出口に向かう。

 クロスとフレアはブライトを肩で担ぐ。クロスもフレアも、複雑な表情を浮かべていた。

「シェイドを仕留め損ねた……」

「お兄ちゃんの事はブライトさんと呼んだ方がいいのかな……」

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