帰路へ

 クロスは大事を取って保健室に連れて行かれたが、身体に異常はなかった。少し休んだ後で、帰されることになった。

「ご迷惑をお掛けしてすみません」

 クロスが校門前で深々と頭を下げると、ブライトはぶんぶんと片手と首を横に振った。

「顔を上げてくれ。こちらこそ、フレアの特訓に付き合ってくれて嬉しかったよ」

「本当にありがとう! 迷惑を掛けたのは私よ、ごめんね」

 今度はフレアが深々と頭を下げた。

 クロスは顔を上げかけたが、フレアの様子を見て再び頭を下げる。

「大した実力もないくせにでしゃばってすまない」

「ううん、クロス君はすごかったわ。私の魔術が下手すぎたの、ごめんね」

「二人とも謝るのはそのへんにしよう!」

 頭を下げ続ける二人の間に、ブライトが割って入った。

「過ぎた事を気にしても仕方ない。もう遅い時間だし、帰ろう!」

「もうそんな時間なの!?」

 フレアは驚き、空を見上げる。暗い空が見え始めている。もうすぐ夜が訪れるだろう。

 クロスも顔を上げた。

「時間が経つのが早かったな」

「クロス君、お詫びというわけではないが家まで送るよ。三人で帰った方が楽しいだろうし」

 ブライトが笑顔で誘う。

 しかし、クロスは首を横に振った。

「これ以上ご迷惑をお掛けするわけにはいきません」

「いいんだよ、気にしないで!」

「俺を送ったらフレアの帰りが遅くなります」

「大丈夫だよ、僕がついているから」

 ブライトの言葉に、フレアの両目が輝いた。

「お兄ちゃん、家に帰るの!?」

「しばらく帰っていいと許可された。フレアの面倒も見たいし」

「やったー!」

 フレアはその場でピョンピョン飛び跳ねた。

 日頃ブライトは世界警察ワールド・ガードの任務があり、滅多に帰ってこない。たまに帰ってきては難しい顔で両親と会話する事が多い。

 しかし、少しでも時間があるとフレアに優しくしてくれた。珍しいお菓子をお土産に持ってきてくれたり、笑顔でフレアの話を聞いてくれたりする。

 そんなブライトが、フレアの面倒を見ると言っていた。喜びが全身から溢れ出る。

「いろいろお話しようね!」

「そうだな。楽しみだ」

 ブライトはフレアの頭を撫でる。

 フレアは飛び跳ねる代わりに、万歳を繰り返した。

「やったーやったー!」

「俺はやはり一人で帰ります。二人もお気をつけて」

 クロスは歩き出そうとする。

 ブライトはクロスの右肩をガッシリと掴んだ。


「遠慮はしないでくれ。正直なところ、君を犯罪組織ドミネーションが目をつけてないとは考えにくい。道中襲われて拐われる事があったら大変だ」


「彼らに道中も家の中も関係ありません」


 クロスはキッパリと言って、ブライトの手を払った。

「自力で身を守ります」

「そうか、お節介だったか。でも、もしも助けが欲しかったらいつでも呼んでくれ。君に何かある方が困るから」

 ブライトは、手のひらサイズの白くて丸い護符を、クロスの手に押しつけた。

「僕たちの間でも使われる救助用アイテムだ。困った時にはこれを握って、何でもいいから声を掛けてほしい。すぐに向かうから」

「お気遣いありがとうございます。使う機会がない事を祈ります」

 クロスは一礼して歩き去る。

 フレアはクロスが見えなくなるまで手を振った。

 ブライトは微笑む。

「僕たちも帰ろう。父さんも母さんも心配しているはずだ」

「そうだね、早く帰ってお夕飯を食べたいわ!」

 二人で軽やかに歩き出す。道中笑顔がたえなかった。

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