第45話 総力戦
「ロン、こっちだ!」
クラウスがロンに向かって叫んだ。
「ダーウェイ、こいつを頼む!」
ノエルはレオンハルトを指差した。
「倒せば、でっかいケーキが出るぞ!」
「オッゲー!」
チャン・ダーウェイは巨大な斧を手に、鉄球をブンブン振り回しながらレオンハルトに駆け寄っていく。
それを見るホン・ランメイは不満顔。
「ちっ、そいつが一番強そうじゃねえか。まあいいや、金ピカのをぶっ殺せばいいんだな?」
クラウスがツェン・ロンから剣を受け取りながら、みんなに聞こえるように大声で叫んだ。
「殺さないでくれ!、なにかおかしい!」
「はあー?、むずかしいこと言うんじゃねえよ、やってはみるけどなっ!」
ホン・ランメイは、そう言いながら近寄ってきた近衛兵二人を矛の背で打ち倒した。
セリアが背中の槍をノエルに投げた。
「姉上、槍です!」
ノエルは槍を掴み、くるっと回して構える。
「よし!」
チャン・ダーウェイは鉄球を振り回し、上からレオンハルトに叩きつけるがかわされ、地面にドーンとくぼみを作る。
巨大な斧が振り下ろされるが、大剣がガシッと受け止める。巨漢同士の戦い、大剣と巨大な斧が何度も大きな音を立ててぶつかり合う。
一方、近衛兵は数では圧倒するものの、相手が剣、槍、矛の名手、歯が立たず、次々に倒されていく。
しかし、チャン・ダーウェイはレオンハルトの大剣の圧力にじょじょに押され始め、斧ごと吹き飛ばされ、「ぐあ!」という声と共に倒れた。
「やっと、あたしの番だな」
ホン・ランメイが矛を構えて、レオンハルトの正面に進み出た。
「よせ、ランメイ、一人じゃ分が悪い!」
ノエルは止めようとするが一喝される。
「うっせえ、手出すなよ、一人でやらせろ!」
ランメイは矛を最上段に振りかぶって、レオンハルトの頭めがけて打ち込むが、大剣で軽々とさばかれる。
「くそっ!」
横から胴に打ち込もうとするが、逆にゴーとうなりを上げて高速で旋回してくる大剣が脇腹に打ち込まれる。
両手で握った柄で受け止めるが、そのまま柄は脇腹にぶち当たり身体ごと吹き飛ばされ、ホン・ランメイは壁に叩きつけられる。
「ぐはっ……、化け物か……」
ツェン・ロンが呆然として崩れ落ちるホン・ランメイを見る。
「ホン・ランメイがこんな簡単に……、俺の剣じゃ歯が立たない……」
その様子を見て、ノエルはクラウスに話しかけた。
「クラウス、二人がかりでいいな。卑怯とか、騎士道に反する、とか言うなよ」
「ああ。だが、頼む、殺さないでくれ」
ノエルはため息をついた。
「……こっちが殺されなければな」
ノエルは母デボラの方を振り返る。
「母上、長槍を」
「ハイよ」
デボラの投げた四メートルの長槍を片手で受け止める。
「行くぞ!」
クラウスはかけ声と共に、レオンハルトに打ちかかる。それを援護するように、下がった位置からノエルは長槍で横から打ち据え、突きを入れる。
レオンハルトは大剣とは思えぬスピードで長剣と槍の打撃をさばいていく。
クラウスが胴を狙い、大剣で受けさせたところを、ノエルが顔めがけて突きを入れる。しかし、大剣は素早い動きで槍をはじく。
「速い!」
ノエルは大剣の動く速さに目を見張る。
クラウスの上段からの攻撃を受けるたため、大剣が上がった瞬間を狙って、ノエルは膝を横から打ち据える。甲冑の上からではあるが関節に当たり、レオンハルトの態勢がガクッと少し崩れる。
「よし、当たるぞ!」
クラウスはノエルと自分を鼓舞するように声を上げた。
しかし、ツェン・ロンは三人の戦いを心配そうに見つめる。
「そんな攻撃、いくら続けたって、倒せねえぞ……」
ノエルは膝への打撃を続けながらクラウスに叫ぶ。
「下に注意を向けさせてくれ!」
「下に?」
怪訝そうにノエルを振り向くクラウスだが、長剣を打ち込む位置を、頭から胴体へと低くする。
ノエルは後ろに数メートル下がり、槍の柄を両手で握り直し、棒高跳びのような姿勢で助走をつけて槍の端、石突きを床に付けて斜め上方に飛び上がる。
高さはさほど無いがその分速度がある。
空中で槍を持ち直し、回転させて大上段に振りかぶり、ラインハルトの前頭部を狙って高速で叩きつけていく。
ラインハルトは大剣で槍をはたきに行くが、一瞬速く、クラウスの長剣が大剣を打ち据えて動きを止める。
がら空きとなった頭部に槍の柄が高速で叩き込まれ、ガシッ!と大きな音を立てた。
さすがのレオンハルトも身体の動きが止まり、背後に倒れていって、そのまま意識を失った。
「ふう……」
ノエルは着地してホッと一息。手に持つ槍を立て、クラウスを見てニッコリと笑った。
「長槍の使い方、その三だ」
「……ノエル、服」
ウエディングドレスを脱ぎ捨てて下着姿で戦っていたノエルにクラウスは恥ずかしそうに自分の着ていた上着を脱いで渡した。
縄で縛られ、意識を失ったまま床に座るレオンハルトをクラウス、ノエルが見下ろす。ノエルは用心のため、まだ手に長槍を持っている。 ガリアン王やサンドラ王女など王族関係者は遠巻きに見守る。
「アレット、起こせるか?」
ノエルの求めに応じて、アレットは十数センチのハリをレオンハルトの首に刺した。
ハッと目を覚ましたレオンハルトは自分が縛られていることに気づき、なにが起きているかがわからないように、左右を見回した。
自分を見ているクラウスに救いを求めるような目を向けた。
「クラウス、いったいなにが……」
「レオンハルト殿、あなたがサンドラ王女を……」
クラウスの説明を聞いたレオンハルトは茫然自失。
「なんだと、俺がサンドラ王女を殺そうとしただと……」
天を見上げ、ウォー!、と大声で叫んだ。
「あいつだ!、アゼリアのゲルド!、あいつに操られた。十年前の先王を殺させたのもあいつだ!」
全員の顔に戦慄が走った。
「ぬぉー!」
レオンハルトは腕に力を込めて、自分を縛っていた縄をブチブチッと力づくで引きちぎった。
そして、離れた場所に落ちている剣に走っていき、手に取って刃を自分の首に向ける。
「この罪、我が死をもって償う!」
「ノエル!」
サンドラ王女の叫び声に反応して、ノエルは長槍を振るい、レオンハルトの手から剣をたたき落とした。
サンドラ王女が進み出て、王族の威厳を持ち、レオンハルトを見据える。
「死ぬことは許しませぬ。生きなさい。そして、十年前のタルジニアへの冤罪を晴らすことに協力なさい」
レオンハルトは床にうずくまり、大声で泣き始めた。
クラウスは来賓の中にゲルドの姿を探すが、すでにその場からは姿を消していた。
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