第15話 パーティー結成-薬草クエスト


 一行の買い物は進み、ロバに乗るフローラ以外、全員の両手、背中に大きな包みがある。


「ノエル、まだ買うのか?、もう夕方、そろそろ戻らないと」

「最後の一つ。今回の一番重要な薬材、金満月草がどの店でもまだ買えてない。全身の気を調和させ、心肝胆の機能を……」


「わかった、わかった、早く買って帰ろう。フローラも疲れたろう?」

「うん、少し……」

 ロバの上から、かなり疲れた様子でフローラが答えた。


 薬草屋。カウンター越しに店の親父をノエルが怒鳴りつける。


「ここにもないだとー!」

「へ、へえ。ここんとこ入荷が全くないんてすよ。だから、うちにも、よそにもないんですよ」

「なぜ入荷がないんだ?」

「それは手前どもにはわからんです……、ギルドに聞かれるのがよろしいかと」


「ギルドって?」

 隣に立つクラウスに質問する。

「まあ、冒険者の元締めみたいなもんかな。ギルドの依頼でダンジョンとか危険な場所に行って、貴重な薬草とかアイテムを取ってくるみたいな」




 一行はギルドに移動して、女性の従業員と話し始めた。


「金満月草ですか?、この辺だとゴルダの丘に生えてるんですけど、あの辺、最近魔物が増えて、みんな行きたがらないんですよ。報酬も安いんで」


「金を出せば取ってきてくれるのか?」

 そう尋ねたのはクラウスだった。

「金額次第ですけど、今、A級、S級の冒険者、みんな出払ってますんで。あそこはA級以上の指定区域ですから」


「なんだ、そのAだのSだのって?」

 ノエルがクラウスに尋ねた。


「冒険者の強さのランクだ。一番強いのがS級、下はD級まである」

「クラウスは何級なんだ?」

「俺は冒険者じゃないから、級はもってない」


「あら、剣帝様なら剣士でS級は確実ですよ。試験、受けてみますか?」

「いや、結構。興味ない」


「ふーん……」

 ノエルは興味深げに二人の会話を聞いていた



「それと、金満月草が咲くのは満月の時だけ。次の満月は四日後ですから、今から依頼を出していただければ、一ヶ月ちょっと先ですね」


 ノエルは椅子でぐったりして座っているフローラを見た。

「一ヶ月先か……、できるだけ急ぎたいんだが……」



 一行はいったん屋敷に戻るしかなかった。


 戻ったノエルは書斎の机で頭を抱える。紙に処方を書いてはグチャグチャに丸めて捨て、書いては捨て、書いては捨てを繰り返す。


 アレットとフローラがそばでその様子を見ている。


「金満月草無しの処方は難しいですか?」

 アレットが苦悩するノエルに尋ねた。

「やはり、どうしても欲しいな」


 フローラが部屋の隅に山積みになっている薬材を指差す。

「あんなにたくさんあるんですから、ひとつぐらいなくたって……」

「あるとないでは、効果が段違いなんだ」


 うーん、と考えるノエルは、よしっ、と立ち上がった。

「自分たちで取りに行こう!」




 図書室で書棚から本を取ろうとしたクラウスが驚いて振り返った。

「薬草取りクエスト?」


「クラウスがS級なら、わたしもS級レベルだろ?、アレットだってアサシンS級間違いなし」


「はっ?、私も戦力ですか?」

「アサシンの冒険者ってのは聞いたことないが……」


「それに、もう一人いるじゃないか、S級確実の剣士が」


 遊びに来たイエルクがにこやかに部屋に入ってきた。

「ノエルー、フローラちゃんの薬できたー?」




 事情を聞いたイエルクは奮い立ち、腰の双剣を抜き放った。

「そのクエスト、乗ったー!、剣聖イエルク、この双剣にてモンスターをなぎ倒し、薬草を持ち帰って、フローラちゃんを元気にしてみせる!」


 あまりの意気込みに引くノエルとクラウス。


「パーティーのリーダーは俺でいいな?」


「別に構わん」

 興味ない顔でクラウスは答えた。


「リーダーって、なにする人だ?」

 首をかしげてノエルは答えた。


 かくして、剣聖をリーダーとする、剣士×二、槍使い×一、アサシン×一、というバランスもなにも考えていないパーティーができあがった。


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