第十一話「襲撃者」1/4

 私はいつものように新聞部の部室へとやってきた。しかしそこには秋葉君はいなくて大島君だけだった。


「あれ、秋葉君は?」


 私はすぐに大島君に聞いた。


「あいつならしばらく来ないよ、進藤さん聞いてないの?」


「えっ? 何も聞いてないけど・・・、どうして?」


「それはわからないけど、様子が変だったし何かあったんじゃないかな」


「そっか・・・」


 急に来なくなるなんて、あまりに腑に落ちない、一体何があったんだろう・・・、これは本人に直接聞いた方が早いかな。


 私は今日はこのまま帰ることを大島君に伝えて、部室を出た。



 次の日、またその次の日もどうしてか秋葉君の様子がおかしかった。目も合わせてくれないし、話しかけても無視されて立ち去ってしまうし、一体どうしてしまったのか。


 二人きりになればもう少し踏み込んで話ができると思ったけど、そのチャンスはなかなか来なかった。


 何か話さないと、何か話さないとと秋葉君を探してウロウロ歩いていると用事もないのに部室の前まで来てしまった。そして部室の前にはどうしてか裕子がいた。


「裕子」


 私は小さく呟いた、どうしてここに立っているのかもわからず話しかけてよいものか戸惑った。


「秋葉君は来ないわよ」


「どういうこと?」


 どうして裕子がそんなことを言うのか、さっぱりわからなかった。


「私が言っておいたから。もう会わないほうがいいでしょ、ちづるにとっても、秋葉君にとっても」



「どうしてそんな酷いこと、裕子には関係ないじゃない!」



 冷たく突き放してくる裕子に私は食い下がった。


「見てられないのよ、だってあなた達会ったらまたするでしょ?、そんな不純な関係、続けるべきじゃないわ」


「そんなこと、そんなことないよ・・・」


 私は涙ぐんだ、でも裕子の表情は全く変わらなかった。


「いいえ、するわ、何度も何度も、だってちづるは秋葉君に罪の意識を感じてるもの」


「それは裕子がこんなことするから!!」


 遠慮ない裕子の言葉に私も感情的になって言い返した。でもそんな私の言葉も裕子には効果はなかった。


「そうじゃない・・・、そうじゃないのよちづる・・・。

 ちづるは秋葉君を好きじゃない、好きになれないから、代わりに身体を重ねる、そうして秋葉君の中の満たされない気持ちも身体も満たそうとしている。


 でもそれは秋葉君を支配してるのも同じことよ。身体を重ねて、快楽で満たして、依存させて、離さないようにしてる。


 そんな関係、絶対間違ってる。ちづるは、あなたは秋葉君を、男という生き物を侮辱してる。それは決して許されないことよ」


 私は何も言い返せなかった。裕子の怒りを鎮めるにはどんな言葉を使えばいいのか、今の私にはわからなかった。これは全部私が招いた罪なのだ。



「好きでもないのに、秋葉君に近づくのはやめなさい、これは忠告よ」



 そういって裕子は去っていった。


「(どうしてこんなことに・・・)」


 裕子を怒らせるつもりなんてなかったのに・・・。

 どうしてこんなことになってしまうのか。悔しくて、どうにも言い返せなくて、もう嫌なくらい涙が止まらない。こんなすぐ泣くような人間じゃなかったはずなのに、まるで自分ではないみたいだ。


 ハンカチで涙を拭いて、帰ろうとすると階段のところに春川さんが立っていた。


「真理ちゃん・・・」


「ちづる、そんな悔やまなくてもいいよ」


「聞いてたの?」


「うん、何か真剣なトーンで佐伯さんが話してるもんだから、真理ドキドキしちゃった」


 ずっと離れた場所から聞いていたとは、春川さんの小悪魔ぶりは健在のようだ。


「裕子を怒らせちゃった、秋葉君にもどう謝っていいかわからないし、なんだかうまくいかないや」


「真理はね、別にいいと思うよ、無理に秋葉君を好きにならなくても。

 大丈夫大丈夫、セックスなんて些細なことだから、忘れたければ忘れちゃっていいんだよ、誰だって経験の数だけ成長してくんだから、悔やんでる時間がもったいないよ」


 ”そんなめちゃくちゃな”と思ったが、春川さんは春川さんなりの持論があって勇気づけてくれているのだとわかった。


「それに悩まなくたって、いずれ好きな人には出会えるよ、気づいていないだけでもう出会ってるかもしれないし、真理はそう思うよ。


 前向きに行かなきゃ、ちづるには真理のお願いを聞いてもらわないといけないから、元気でいてくれなきゃ困っちゃうよ」


「また仲直りできるかな・・・」


「大丈夫! 自分の信じた道を進め! ちづる!」


 肩を叩かれて、春川さんの元気な言葉に励まされた。考え方は変わってるけど、春川さんは優しい子なのだろう。


「うん、ありがとう真理ちゃん、自分なりに頑張ってみる」


 明るい春川さんの声を聴いていると涙も溶けてなくなっていた。

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