第四話「新たなる来訪者」2/2
土曜日、午前中で授業が終わって時間が空いていたのでお昼から、秋葉君と出掛けることになった。
「なんだかデートみたいだね」
私がそう言うと秋葉君は「そうだね」と一言笑いながら返した。この状況は何かが狂ってる、だが、とりあえず今は気にしないようにしよう。
秋葉君の提案でテニスをしに行くことになった。梅雨明けも近い最近は一段と暑さが厳しいが、7月8月に入ればもっと暑くなることを考えると憂鬱になりそうだ。
「テニスの経験は?」
「今年に入って三回かな・・・」
「僕より経験値が高いな」
やがて受付を済ませて、コートに入る。
さっそく私たちはラケットを持ってラリーを始めた。私のでたらめな雰囲気だけのツイストサーブやドロップサーブが決まると、秋葉君は大はしゃぎだった。
長いラリーが続くと否応にも息が上がってくる。それに胸やスカートが邪魔をしてうまく動かない。当たり前だが男の時より体力は続かない、これは少し鍛えないとだめかな?
勝負は長期戦になり、段々と体力差のせいで息を切らして押されていき、段々とサイドに放たれた球を返すことが出来なくなっていき、最終的に秋葉君の勝利に終わった。
「自信あったんだけどなぁ・・・」
「進藤さんがこんなに動けるとは思わなかったな、大人しいイメージがあったからちょっとビックリした」
実際ちづるはスポーツとかするタイプではないだろう、思うように身体が付いてこなくて負けてしまった。技術だけでは補いようのない体力差、これが男女の身体能力の差なのか・・・、私は改めて実感した。
自然と動かせるようになるには、トレーニングと経験が必要そうだ。
「本当にするの?」
秋葉君に負けたことで、お願いを聞くことになった。それはとんてもなく恥ずかしいことだったので、私は気が狂いそうな思いだった。
グラウンドから少し離れた草むらの入って、人が来ないかどうか確かめるが、人が来ないという保証はどこにもない。
「うん」「どうしても?」「どうしても」「はぁ・・・、恥ずかしいなぁ・・」
どうしようもない問答の末、やはりエッチなお願いからは逃れられないようだ。私はこんなことをしていていいのか、ちづるのケダモノをを見るような怖く睨みつけてくる表情が頭の中に浮かんだ。
「(いや、すまん!!こんなことがしたいわけじゃないんだ!!)」
私は申し訳ない気持ちを込めて心の中で叫んだ。
コートから少し離れた木陰。私は周りを気にして、どうか気づかれないようにと祈りながら、ブラを外して上着を上にあげた。
「これでいいの?」
「うん、とっても綺麗だ」
秋葉君の言葉でぐっと恥ずかしさが増した。
私ってば何をしてるんだろ・・・。
「(あ~、早く終わってくれ・・・)」
私は泣きそうなくらい恥ずかしい気持ちを我慢した。
「さっきの試合で汗かいてるから、あんまり近づかないでよ」
「えっ?いい匂いだけど」
「変態、変態すぎて目が眩むわ」
「男はみんな変態だよ」
「変態にも限度ってものがあるでしょ」
自分も元は仲間みたいなものではあるけど、現実で何かそういうことをしたことはない。止めたいと思う気持ちはあるけど、どうしたら止めてくれのかは分からなかった。
風が吹くと刺激が強くて余計に恥ずかしさが倍増する、これはひどい仕打ちだ。正面にいる秋葉君のほうを見る。そして気づいてしまった。
「秋葉君、大きくなってるよ」
それが自然なことだとわかっていても、不思議な気持ちだった。
「それは進藤さんが・・・」「我慢するの辛い?」
私がそう聞くと、時間を置いて秋葉君はうなづいた。
「じゃあ私の家行こっか、うち、お母さん帰り遅いから」
「本当にいいの?」
「こんなところでされるよりはずっとマシでしょ」
「確かにそうだね・・・」
どうしてそんなことを言ってしまったのか、もはやそれも分からないまま、早くこの場を離れようと思っていたのかもしれない。
私たちは恥ずかしさを抑えつつ、その場を離れた。
ドキドキしていた、あまり秋葉君の表情も見れない、今の自分のホルモンバランスがどうなってるのかはわからない。でも、本能的に男であった頃の自分から少しずつ変わってきているような気がする。これは過ちなのかもしれない、ちづるならこんなことは望まないのかもしれない、これは自分が望んだ結果、好きとか嫌いとか、そんなことまるでわからないままここまで来てしまった。
秋葉君はきっと私を女性として見ていて、そしてきっと私のことを・・・、最初はそんなことどうでもいいと思っていたのに、今になって胸が苦しくなった。
何も言えないまま、気づけば私の家の前まで来ていた、秋葉君もずっと私の隣をついてきてくれている、しかし玄関の前にはスーツ姿の男が立っていた。
「ちょうどよかった、進藤ちづるさんだね?」
この人は私の事を知っている、私は身震いした。
力強いオーラのようなものだろうか、この男の人からは強い圧力を感じる。
「お母さんはここにいないようだから、よければ代わりに来てくれるかな?」
「あなたは・・・・」
「あぁすまなかったね、君の事情を忘れていた、私は村上警部、麻生氏一家殺人事件の捜査をしている」
村上警部はそう言って警察手帳を見せた。本当に刑事さんだそうだ。
「私をどこに連れていくつもりですか」
私は強い口調で言った。
「いやぁ、強制じゃないんだ、任意なんだがね、これから裁判が始まればしばらく面会も出来なくなるだろう、今のうちにできればと思ってね、それに日用品も渡してあげるとお父さんも助かるだろう」
「その口ぶりだと、随分厳しい尋問をしているようですね」
「市民に早く安心、安全な日常を取り戻してもらうためだ、もちろんルールの範囲内でやっていることだよ、容疑者であっては人権は保障されているからね」
「そう言われても、信用するのは難しいですけど」
大人の詭弁だ、この人が恐ろしくなる。
「君はどうしたいんだい? こっちはお母さんの代わりでもいいのだけど、このまま静観するつもりかい? それはそれで、可哀想な話だと思うけどね」
ちづるならどう考えどう行動する?、そう一度考えてみたが、それではあまりに無責任な話かもしれない。
自分がどうしたいか、それがきっと大事なんだ、山口さんのためにも。
「それで署まで来てくれるのかな?」
村上警部は急かすように聞いた。一呼吸おいて、私は少し考え決断した。秋葉君のことを見る。
「ごめんなさい、秋葉君は今日は帰って、私、用事ができちゃったみたいだから」
「本当にいくの?」
秋葉君が心配そうに私のほうを見る。私は軽くうなづいた。
「私は大丈夫だから、早く」
「うん、気を付けて」
心配そうに見つめていた秋葉君が玄関の前を離れる。可哀想なことだがこの場は帰ってもらうしかない。期待させておいて悪いことをしちゃったなぁ・・・、何かしらこの穴埋めはしてあげないと。
「支度をするので少し待っていてもらえますか?」
「いいですよ、車で待っていますので、準備ができたら乗ってください」
私は鍵を開けて急いで家の中に入る、本当に家の中は無人だった。
お母さんの部屋にお父さんに持っていく用の着替えやら日用品がまとめて紙袋に入れておいてあることは事前に知っていた。
私は紙袋を掴んで、決意を固めると、迷いを振り払って家を出ると、施錠を済ませて、道路に駐車している警察の車にためらいを捨てて乗り込んだ。
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