第一話「天から来るもの」2/4

ある日、俺(新島俊貴にいじまとしき)が学校から家に帰ってくると、事件は発生していた。


 不本意ながら弟(新島竣にいじましゅん)と同室の子ども部屋の押し入れが開かれ、学校に出掛けている間に荒らされていたのだ。

 それを発見した直後、頭に衝撃が走り、俺は急いで押し入れの中を確認した。嫌な予感は的中し、奥にしまっていたはずの戦友たち(エロ本)が捨てられていたのだ。



「どうしてこんなことに・・・」



 年甲斐もなく俺はその現実に涙した。何という事だ・・・、學校に行っている間にこのような事態になっていようとは・・・、信じたくはないが、信じざる負えない、現に戦友たちは存在しないのだ。


 先に帰ってきていた弟に真相を聞くと「それなら母さんが捨ててたよ」と”それは兄貴の自業自得だろ”と言わんばかりに素っ気なく答えた、俺は目の前が真っ暗になった!


 ”俺は何の罪もないはずなのに! ”同居する弟(竣)と妹(明里)の教育的配慮のために大切な同志(エロ本たち)を見るも無残に母の手で捨てられてしまった! 去年の冬コミで入手した炎上戦隊バズレンジャーや美少女戦士シスタームーンまでも! 毎夜大切な時を過ごした戦友たちの喪失し、俺は絶望に突き落とされてしまったのだった。


 そして、これはまだ事件の始まりに過ぎなかった。


 次の日、戦友たちの救出もかなわず、憂鬱な気持ちを抱えたまま学校へとやってきた俺は昼休み、号令を合図に食堂へと向かった。傷ついた心は胃袋を満たすことで晴らすしかない。俺は次第に早足になり、はやる気持ちを抑えられず急いで食堂へと向かった。


 そして、二階にある食堂に向かうため階段を下りて、階段の踊り場までたどり着いたとき、同じく急いでいたであろう女生徒が同じタイミングで横を向き、向かい合った状況のままこちらに正面から迫って来た。


(”ーーー避けれない!!ぶつかる!!”)


 そう思った時には時すでに遅く、互いのおでこがぶつかり、そのまま倒れこんで意識を失ってしまった。急いでいたため顔まではよく見えなかったが、女生徒の綺麗な黒い髪だけが印象に残った。


 こうして昨日に続き、さらについてない事件が続いてしまった。一体俺が何をしたというのか! だがそんな悪態を付いている間などなかった。



 意識を取り戻すと、そこは保健室の白いベットの中であった。ぶつかってからどれくらい経ったかは分からないが意識ははっきりしている、だが、頭に軽い痛みを覚えながら、俺はベッドから抜け出してカーテンを開けた。


 保健室には自分以外には誰もいない、静かでもう授業中だろうか。ふと、保健室の入口の方に置かれている鏡を見た。

 全身が映し出せるほどの大きな鏡、そこには面識のない女生徒の姿が映りこんでいた。


(これは一体どういうことだろう)


 寝起きで変なものでも見えてるのか、しかし目を凝らしてみてもこれは現実ということで間違いなさそうだ。制服姿からこの学園の女生徒であることは間違いない、どこかで見かけた気がするが思い出せない、俺は咄嗟に後ろを振り返った。そこに女生徒はいない、もちろん正面にも。


 俺は手を伸ばして頬を摘まんでみた、もちろん皮膚の感覚はある、夢なんかじゃない。あれあれ・・・、どういうことだ。


 動きが連動して鏡の中の女生徒も同じように頬に手を付けている、次は手を胸に寄せてみる、同じように鏡の中の女生徒も胸に手を寄せる、力を入れるとぷにぷにと柔らかい感触があった。ゾワゾワっと電流が走るようにとんでもない真実に気づいてしまった。


 次に顔を下に向けると、女生徒の制服と制服で隠れた大きすぎず小さすぎず膨らんだ胸が視線に入った。


 理由も何もわからないが、これはどう考えても・・・。



「どうして女子の身体になってるんだっ!!!」



 誰もいない保健室の中で思わず大声を出してしまった!!

 そしてあらまたびっくり!! なんと声まで女性そのものだった。



 不可思議なことだが、状況から推測するところ、俺はぶつかった女生徒の身体に移り変わってしまったようだ。いや、誠に非科学的な想像ではあるけれど・・・。

 俺は胸ポケットに入っていた生徒手帳から今の自分が”進藤ちづる”であることがわかった。


 あぁ、まさかこんな形で女性の身体を手にすることになるとは・・・、さっきからずっとドキドキが止まらない・・・、冷や汗まで出ている、本当に信じがたいことだが今、自分は女なんだ・・・、夢にまで見た女性の身体になってしまうなんて、一体どうなっているんだ・・・、考えても答えが出るわけがないが、まるでこれからどうしていいのかわからない。


 しばらく、どうすることもできず、ああでもないこうでもないとジタバタして悩んでいると、白衣を着た保健の先生が保健室にやってきた。



「あら、目を覚ましたのね、元気そうでよかったわ。教科の先生には知らせておいたから、もうしばらく休んでていいわよ」



 何事もなかったように保険医は言った。先生は俺のことをまるで疑う様子がない。俺はこの状況を説明するわけにもいかず、本当のことを隠してなんとかその場をごまかした。


 それからチャイムが鳴り、休み時間になると一人の女生徒が自分のところに訪ねてきた。


「ちづる大丈夫?!」


 慌ただしく焦った様子でやってきた女生徒、大丈夫だと告げるとそのまま女生徒に連れられ教室に戻る流れになった。自分の知らない”進藤ちづる”の在籍する教室へと。


 俺を迎えに来た女生徒の名前は佐伯裕子、一番最初に、しかも休み時間が始まってすぐ慌てた様子で自分を迎えに来た辺り、かなり親しい間柄のようだ。  

 俺は動揺を必死に隠したまま佐伯裕子とやり取りをし、自分の座席まで案内してもらった。


「本当に大丈夫? かなり強くぶつかって意識を失くしてたって聞いたけど」


「うん、ちょっと頭が痛いだけだから」

 

 自分から女の声が出るためにゾワっと違和感を覚える感覚に襲われた、こんな感覚、すぐにはとても慣れそうにはなさそうだ。


「そう・・・、本当無理したらダメだからね!」


 佐伯裕子に大きな声で念押しされたが、とりあえず状況を把握するためにも授業を受けておくことにした。慣れないスカートが気になるところだが、そうも言ってられないので椅子に座って次の授業の準備をする。


 なんとかこの場を凌ぐためノートや教科書を出して準備を終えると、そのまますぐチャイムが鳴り授業が始まって、ようやく少し気を落ち着かせることができた。

 何も現状では状況が分からないので、本当のことがバレるわけにいかない。話したところで誰も信じてはくれないだろうけど、今はこの”進藤ちづる”を演じるしかない。

 この先、不審がられないためにも一切の油断は許されない、心から女になったつもりでやり過ごすしかない、”私”は覚悟を決めた。



 授業が始まってしばらくして危機的事態が発生した。授業中にもかかわらず尿意を催してしまった。なんとか先生に一言告げて周りの視線におののきながらお手洗いへと向かう。まさかこんな形で女子トイレを利用することになるとは・・・、私はソワソワしながら周りに人がいないかを再確認して女子トイレに入り、個室のドアを閉めた。


(あぁ~、緊張した・・・)


 そんなことを思いながら便座に腰掛ける。

 そこに委員長の山口未明やまぐちみめいさんがやってきた。先ほど号令をしていたから、声から判断してきっとそうだろうと思った。


「ごめんなさい・・・、心配になったからつい見に来ちゃったの、本当に体は大丈夫?」


 心配性なのか、責任感が強いのか、判断つかなかったが今はそれどころではなかった、なんとかトイレを済ませなければならない、移り変わったばかりの女性の身体で! こんなめちゃくちゃな状況の中、扉越しに心配そうに何度も話しかけてくる山口さんと会話を交わしながら、この大変な状況を私は何とか乗り切った。

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