19.あなた悲しい女の子ですか

 人族と魔族の話し合い、それは過去の長い歴史の中で行われた記録は無い。しかし、無かったとは思えない。

 400年前の勇者キッダルトが遺した手記の中に、両者の戦いが「和解で」終わる様願いが込められていたからだ。


「ちゃ~っす!ササ…勇者さんへお手紙で~す!」

「毎度~。こっちは宰相さんへのお手紙と、お土産~」

 隊商について来た娘、実は魔族の間諜と決死隊の娘がやり取りしてる。

 会談の後ササゲーさんは魔族の記録を探り、人族と魔族の戦いや勇者召喚の歴史を調べ、その調査結果を配下の娘に託して届けてくれている。

 こっちも王都の廃墟に赴き、王城の図書室、幸いにも怪獣戦で潰れていなかった所を探し、或いは神殿の廃墟を掘り返し、更には王都で放棄された学院の図書館を探って調べた結果を送り返している。お土産と一緒に。

 お土産は…お菓子や玩具、そして酒だ。

 廃墟と化した王都の郊外に葡萄を植えて醸した酒が中々好評で、魔王城の女性陣に振る舞っている。温泉が出る土地で採れる葡萄がどんだけものもだか解らないが。石灰質の土地でもないしなあ。でも故郷では甲府とか蔵王とかでもワイナリーあったしいけんじゃね(適当)?


「はあ…ここまで食い違ってると何が事実か解らない」手紙を読んで途方に暮れるライブリー。

「過去700年まで遡ったけど、人魔とも相手を敵と指さし心を燃やしてます」「炎の中に見る侍かな?」「何です?」「ゴメン」

「どれも私達が聞かされてた伝承と同じなのが気に入らないわね」「エンヴォーさん。といいますと?」

「侵略を受けた土地が700年間いつも一緒、しかも私達魔族側も、御主人様達人間側も」「おっと私は人間側じゃないからね」「あ、そうだったわ!」

「ここまで毎度同じだと何か陰謀臭いわね~」「やっぱそう思う?」「仲違いさせるためにやってる感じ?」「流石ジェラリー!」

「えっへん!ウザい男たちはそうやって共倒れさせるのがイチバンよ!」「「「うわぁ」」」そうやってきたんだろなあ…


「じゃあ誰がそれをやったのか、よね」「フラーレン、それがまるで書かれてない」

「ライブリーの読解力なら推察できない?」「無理」

「エンヴィーはどう思う?」

「双方共倒れを狙ってるならとうに決着付けてる筈だけどねえ。ほぼ100年毎戦って、毎回人族が勝って、それでオシマイ。

 作為臭いけど、まさか人死にを一定数出して生贄にしてる訳でも…」

「ありそーじゃん!」

「それならその後にもっと禍々しいカンジの奴でてくるでしょ?それも無いのよ。

 両者の均衡を狙ってるなら人口や生産量の増減があってもいいけどそれも無いし」私と一緒に魔族の資料を解析してくれたフラーレンが説明する。

「ほえ~よくそんなん解るね~」

「ご主人様がイロイロ教えてくれたのよぉ~夜中までね」

 殺気!こっち見んな。


「でも新魔王が立て続けに現れ、元の勇者と戦おうとしたこの時代は、今までの枠からはみ出した感じがする。

 そして何故戦ってるのか肝心な部分がボヤけてて、むしろ戦わなくてもいんじゃないかって気までする。

 だから魔王様と休戦を続けるのは悪くないんじゃないかしら」

「上手くまとめるわねえフラーレン」

「ご主人様の本妻ですもの~」

 殺気!こっち見んな。


「本妻かどうかはさておき」エンヴォーの言葉にフラーレン以外頷く。冷静なライブリーまで?!

「この戦いで利益を得る奴が誰か、何故かを突き止めん限り先が見えてこないわ」

「それがもし意思を悪意を持つ奴なら…」

「「「絶対許さない!」」」みんなの気持ちは一つだ。


「そういえば、あの勇者坊や達は何か掴んだかしら?」

「それがなあ…」「どしたのご主人様」

「賢者クレビーが」「あの阿保娘?」「それがそうでもないんだ」


 今彼女は、勇者の魔法が魔動機で増幅された時の苦痛から魔王を守るための素材を必死に探している。


******


「結界、OKだよ」遺跡の外の荒野にホーリーとクレビー。

 ホーリーの合図で、クレビーは丸い玉に魔力を注ぐと…ホーリーの構築した結界の中に配置した魔石が次々と発火する!火花を浴びるクレビー!

「ちょっと大丈夫?!」慌てて駆け寄るホーリー。

「大丈夫よ」とクレビーが見つめるのは、割れた球と、その中に輝く魔石。

「この素材じゃレイブの魔法は遮れない。あの子がまた苦しむ。もっと別の何かを!」

「結界魔法を込めた魔石も駄目。ミスリルを埋めた鋼も駄目。後は…遺跡の記録に何かヒントがあるかどうかね」

「調べようホーリー!マドーキーの力は絶対に必要になるわ!そうなってもあの子を苦しめては駄目!駄目なのよ!」

「クレビー。無理はしないで」

 かつて五分狩りにされて雨曝しに吊るされた恨みも捨て置き、敵の筈の小さい魔王を守るため必死になっている賢者のため、聖女は強力を惜しまなかった。

「私達を戦わせて喜んでる奴がいるなら、私はそいつを許さない!」

「先入観は判断を狂わせる、飲み込まれては駄目。でももしそんな奴がいたら…」

「「絶対許さない!」」遺跡、マドーベーサーを前に二人の少女も気持ちは一つだ。


******


 魔王城では、宰相ササゲーさんが私達からの手紙を部下達に命じ、魔族と人族の記述の相克をチェックしていた。

「あの魔導士が嘘を吐く理由は無いが、ここまで作為的だと誰でも人為的だと感じるわ…」

「向こうには天才ライブリーに深読みのエンヴォー、そして謀に長けたジェラリーが居ます。あれ?なんか言ってて敵に回したくない人ばっかね」「気にしないの」「はあ」部下の一人が他人の妻にヒドい事を言うのを往なすササゲーさん素敵。


「あと信用できるかどうかですが…勇者の女達が、あの空飛ぶ馬から発せられる魔力から魔王様を守る結界を作ろうとしているとか」

「何?奴等魔王様に気付かれぬ様にした上で魔王城に攻撃を?!」

「いえ、フラーレン様の報告ですが、もし人族と魔族の対立を嗾ける者が居た場合、あの空飛ぶ馬が必要になると考えた女が魔王様を護る為に血眼になっているとか」

「フラーレンか。誤解される事も多かったが誠実な女であった」ウチの奥さん達、色々言われてるけど実力は認めて貰っている様でなんだか嬉しいなあ。

「完全に彼らを信じるのは危険だが情報は交換していこう。魔王様はいずこへ?」

「前庭です。あ、あそこです」

 ササゲーさんは玉座の間に続くバルコニーから、1階下にある前庭を見下ろした。


「いけー!まりゅー!ひゅーひゅー!ぽーぽー!」なんだかわからない掛け声で魔王ペディは同じ年の女の子に命じていた。

「きょえー」「むぽぽむぽぽ」と仲間の女の子達が叫びつつ男の子に襲い掛かる。

「イセカイマンをやっつけろー!」ゴキゲンなペディちゃん。

「うわあやられたー」部下の女子に馬乗りにされる男の子。なんだか嬉しそうだな、幼くしてそういう趣味か?

「かったのじゃー!イセカイマンをやっつけたのじゃあ!これでみんないっぱいおやつを食べられるのじゃあー!」

「「「わーい!」」」みんなゴキゲンだ。

「おやつですよー」メイドの娘が子供達におやつを配る。

 それイセカイマンからのお土産なんだが…まあみんな笑顔だからいいや。

 非っ常ぉ~に複雑な笑顔のササゲーさん。だが。

「あの子の笑顔、あの子達の笑顔を護らなければ。それを奪おうとする奴がいれば…絶対許さない!」

 そう小声で呟いた。


******


 ツッカエーネ王国。その北辺はデファンス辺境伯領と魔族の国が魔物の蔓延る土地を挟んで対峙している。

 南は裕福なカナリマシ王国。王都を中心に幾つかの貴族領に護られ、その外に各国が接している。

 その貴族達が王都を迂回してデファンス領へ向かっていた。いくつかの貴族はイセカイ温泉を経由し、温泉と酒を堪能していた。

「みなさん北へ向かっとるがね~?」なじみ客になって温泉に漬かった貴族に、浴衣姿で酒を進めつつイコミャーが探りを入れる。

「あー。ここ治めてる戦士娘の親父んとこで王国の先行きについて決めるんだとさー。かったりー」

「ご苦労様やー」愛想を振りまくイコミャー。「みなさん、私と戦うんやか?」とあざとくしなを作りつつ聞く。

「ああ、イコミャーちゃん、そんな事しないから。この国の領主達にそんな力ないからね?戦えるのはデファンス辺境伯くらいなもんだよ」

「はあ~そらよかった、安心したがや。もう一杯いこまい」

 どうもここに入り浸っている貴族達、即ち元王都の役人達の反応はみな同様だったそうな。


「それでいいのかはさておき、急に戦いが始まる気配がないのは結構だ。が…」

 戦いに滅多矢鱈に突っ込んで来る癖にめっぽう弱い黒い、あの阿呆騎士が気になる。あんな阿呆一人でも魔族を名乗って戦いを嗾けたら「魔族と人族仲良くしましょ」なんて意見は木っ端微塵だ。楽観は禁物だし備えは必要だな。

 やっぱりマドーキー等キッダルトの遺産は必要だ。


******


 さっきの元?役人貴族が言ってた、国内有力貴族による談判がシルディーの御実家、ラ・デファンスにて行われていた。

「勝手に王が借金して贅沢三昧しただけだ!我等の知った事か!」

「まず王家の領土や横領金で造った離宮を差し押さえ、カナリマシに売ってしまえば?」

「あの成金趣味丸出しの新築がどこまで値が付くか…直轄地に異国の兵が進駐してきたら我等各領地も一つずつ潰されるだけだ」

「そんな事は解っとる!ではどうするのか!」

「いっそシャッポを脱いでカナリマシに鞍替えしては…」

「奴等は領民を奴隷にしようと侵略して来たんだ!我等とて無事で済もう筈がない!」

 まあ、解っていた事だがそう妙案が浮かぶ物ではない。

「いっそ先の侵攻を口実に戦争を吹っ掛けてやるか…」

「「「負けるぞ!!!」」」貴族達が一斉に反論した。やっぱダメだよこの国。


「武勇の誉れ高いデファンス辺境伯!国の守りである貴殿であれば隣国の横暴にも戦えよう?」

 今までの話を黙って聞いていた辺境伯がため息交じりに口を開いた。

「この問題、我等がどう思うかよりも相手がどう思うかであろう」「カナリマシがかな?」

「いや、我が国の廻りの国々もだ。どこも恐らくは借金の担保として隣接地を奪い取ろうと考えている。逆上して反撃しようものなら各国仲良く攻め込んでくるだろう。領地も領民も刈り取り放題だ。情けない…」

「武に優れたデファンス伯でも無理か…」

「いや、我が領だけであれば戦える。しかし貴公等の領を奪った後我が地へ嗾けられるのは同じ国の仲間であった貴公等の将兵だ。士気は上がらぬ」

 怜悧な彼の一言に、どんくさい貴族達も漸く我が身に係わる事と実感できたのだろう。顔色を失った。

「相手は幸いにして怜悧なるアッタマーイ王だ。名分無く無理に攻め込んだのも配下の独断であろう。

 我らが返済計画を立て、承知頂くより無かろう。民には苦労を掛けるが我等貴族も身を切ろう」

「何で我らが!」「いっそ領民の何割かを奴隷に差し出せば」トンでもない事を言い出す奴がいるな。

「そんな事をしてみろ!領民は皆逃げ去って税収は落ちる。返済どころか領が滅んで併合されるのがオチだ!」

 一同は頭を抱えた。

「周辺国へ使者を出し、返済の意思を伝え、正確な借金を把握しよう。吹っ掛けは許さない」

「もしそれで駄目なら、すぐ返せ等無理を言われたら」

「無理を言うなら刺し違えてでも戦う」辺境伯は即時に答えた。

「国内の全領主が覚悟を一にして返済に勤めぬのであれば、他国にろうと等するのであれば、我が領だけとなっても数万の兵と戦う覚悟は出来ている!

 その覚悟が無駄となる事を祈るばかりだ」

 デファンス辺境伯の気迫の前に、他の貴族達は言葉を失っていた。


******


 デファンス領城の憂鬱を他所に、イセカイ温泉は平和だった。酔っ払いの喧嘩を勇者レイブが仲裁する位…そもそも魔王を倒した男に一般人が叶う訳なく、暴れようとした奴も彼を見るや平伏する始末。元王都の騎士が更にレイブに頭を下げる、そんな治安のよい湯煙の街であった。

 見回りを終えて勇者パーティーの宿としてる出城の奥座敷に戻って来た。


「ずっとクレビーが帰って来ないんだ」ガールフレンドに会えずに寂しいか。

「あの子寝る間も惜しんで遺跡で調べ事してんのよ。体壊しそう」ヒドい目に合わされた割にクレビーを案じるホーリー。

「ここの警備はいいから、君が行って根詰め過ぎない様労わってあげなさい」

「どうかしら?逆に必死になりそうな勢いよ」あるかもなあ。

「むしろ、手伝ってくれない?アンタだったら色々解ってそうじゃない?」必死そうな目で訴えるホーリー。人に頼る事は悪い事ではないよ。

「彼女は自分の手でやり遂げたいんじゃないのか?」

「そこは上手く誘導するなり何とか出来ないの?」

「ホーリー無茶言うなよ!魔導士殿はこの街を護らなけりゃならないんだ」「そっか…」


「ちょっと待って」話はきいたと言わんばかりのフラーレン。

「ホーリーちゃんの言う事が正しいかもしれないまね。あの子は魔王様を苦しめようとした自分が許せない。

 魔王様を救い、戦いを終わらせるためって話なら、頑なになってもいられないんじゃない?」

「私もそう思うんだ」と言うや。

「お願い…します!」頭を下げるホーリー。それに続くレイブ。無言で聞いていたシルディーも頭を下げた。

「行ってお上げなさいよ、御主人様!」とクレビーへの差し入れにスイーツを持って来てくれるフラーレン。頼もしいなあ。よし!


「そんじゃ空間移動チェ…」「お待ちください!」「どしたのシルディー?」

「領都にお寄り頂けませんか?貴族会議の結果が気になります!」という訳で領城へ。


******


 辺境伯の優れない顔を見ただけで、上手くいってない事は理解できた。

 渾身の一喝も虚しく、会議は何の結論も出せずお開きになってしまった様だ。


「無駄足を踏ませてすみません!」シルディーは私達に詫びると両親の部屋を通り過ぎて地下のモノレールへ向かった。

「行ってしまうのかシルディーや!」「お父様は御自分のお仕事をお成し遂げ下さい!」「つれないなあ~」

 仕方ないんで私達はヘコヘコ辺境伯に頭を下げつつ後に続いた。


******


 パ〇パスかデ〇ジシューターかって勢いでモノレールはマドーベーサーへ到着、作戦指令室には煮詰まってるクレビーが目を血走らせていた。

 目の前のモニターには階層化されたディレクトリが無数に表示されていた。私はフラーレンが持たせてくれた土産をレイブに渡し、声を掛ける様合図する。


「お疲れ様、クレビー」イケメンスマイルでスイーツを渡すレイブくぅん。

 クレビーは一瞬ホワ…っとするも、再度画面に向き合う。

「何を探しているの?」

「私達勇者の魔力を遮る方法よ。これだけの文章があるとどこに書いてあるのか。全部読まなきゃ」

「それならここに、『勇者の魔力』『遮断』って文字を入れて、この虫眼鏡を押して…」

 レイブのいた世界にはネット検索はあったのね。

 数秒後、いくつかのファイルが表示される。それをクリックすると画面に文字が。

「えーと魔石に勇者が魔力遮断の魔法を流し込み、この魔石をミスリルやオリハルコン等の帯魔鉱物に接触させる事で勇者の魔力を遮蔽できる。敵地に潜入する際や、爆裂魔法を封じ込め敵地に搬入する等に利用できる、だって」


 クレビーがとっても面白い顔してる。

 あ、倒れた「クレビー!!」

「レイブ、ぼくはもう疲れたよ」ほらモニターの中の天使の歌が聞こえる。

 その亡骸に私は思わず

「私はこの子に恐るべき素質を見出しているのです」と要らん事いう。

「このボケ画家がー!」ガバっと起きたクレビー!

「後からから偉そうに言うなー!審査中に言って助けろよー!善人面で駄目押しすんなー!」おお、本放送当時から思ってた事をズバリ言ってくれたなクレビー、元気だな。

 あ、また倒れた。この世界にもルーベンスの絵があるんだなあ。な訳ないか。


 たのしいやり取りを経て、「何事も先達はあらまほしき事なり」と悟った吉田兼好顔のクレビー。

「つまりミスリルで頭を覆って隠匿の魔力を込めた魔石を付ければあの子は苦しまずに済むのね?」

「大体の見当は付きました」と私はミスリルと魔石を空間倉庫から取り出し、「チェースト!」とミスリルの鉄仮面を作る。

 魔石にはレイブに隠蔽の魔力を流し込んで貰って鉄仮面の額に埋め込む。

「勇者の魔力は目に見えませんから可視光線に変えて実験します」と魔力に反応して光る魔石の粉を周囲に舞わせ、レイブに魔力を放ってもらうと、光線状の魔力は鉄仮面に遮られ、反対側には届かない。

「大体どころか完成じゃないですか」と喜ぶレイブ。

「これでもぐもぐ、怪獣が出てももぐもぐ、あの子を傷つける事無くレイブは戦えるわごっくん」といつの間にかスイーツを手に元気になったクレビー。お茶を淹れるシルディー。なんでこうも差が出る物かね。まあ今はいいか。よく頑張った。


「もう無理しなくてすむなクレビー!」

「いえもう一つ気になる事がみつかったのよ」「どんな事?」

「勇者キッダルトが、自分が召喚される前の勇者についての記録を残しているんだけど、そこの部分の言葉が違うのよね。彼を召喚したその国は滅んだみたい」

「ああ、確か彼の暗殺を企んだ国か」

「記録にあるその滅んだ国は今は森の中に埋もれているみたい。そこに行けば、勇者召喚の謎が解るかもって思ったのよ」

「凄いじゃないかクレビー!」勇者は歓喜すると、こっち向いた。私が頷くと「やっぱり凄いよクレビー!」

「何かちょっと引っかかるけど。嬉しいわレイブぅ~!」

「よーし次は亡国の遺跡を探査ーだ!」「その前に」


******


「アローアロー、ミスプぉライムミニストロぁー!」とザ〇ーモフ駐日ソ連大使みたくロシア語訛りで魔王城へ。

 ササゲーさん、ロリ魔王様におやつをあ~んさせていた。「きゃっ!」うむ。親馬鹿だ。

「ななな!何しに!」真っ赤なササゲーさん、普段とのギャップに萌える。

 レイブがクレビーの肩に手を置き、ゆっくり押す。クレビーは照れながら鉄仮面を魔王に差し出す。

 レイブが手の平に力を込めると「んっ!嫌な気分がするのじゃ!」魔王様が嫌がる。

「これがこの間起きた頭痛を凄く弱くしたものよ。この仮面は彼の魔力から貴方を守ってくれる」


 二人が驚いた。魔王はトコトコやってきて鉄仮面を被る。なんか少女鉄仮面伝説というか偽世紀末救世主みたいだなあ、自分で造っといて何だけど。

「ぬ!何か強くなった気がするぞ!」そこで勇者は力を強める。隠匿の魔力を込めた魔石の周囲が光った。

「どう?痛い?」「ん?何でもないぞ?」

 クレビーは遠話の魔術で『ホーリー、マドーキーを作動させて!』と伝える。

 マドーキーは勇者パーティー、勇者と同じ波長を使う者なら誰でも使える、そのため何機もあったのだ。

 天井から発進するマドーキー。

「今ね、この間と同じ様に勇者の魔法を使ってるのよ。痛くない?痛かったらする止めるわ」

「ん~?効かんなあ~」なんか威張るロリ魔王、可愛い。

「そう。よかった」

 魔王は驚いた。クレビーが笑顔で涙を流していた。

 幼い魔王にも、目の前の人族が、自分の無事を泣くほど喜んでくれている事は解った。そして、胸が何か締め付けられた。

「効かぬ。効かぬのだあ~」魔王も涙を流した。ササゲーさんも安堵して魔王を抱きしめた。

 感動的な光景だが…鉄仮面の所為でそこだけブチ壊しなのは私の所為だー!


「まさか人族であるお前達が、我が主を案じてくれているとは」

「あー、勇者の魔力がスタンバイすると額の魔石の廻りの小さい石が光るんで、それが光ったら被ってね」

「信じよう。あの娘の涙を」鉄仮面をいたく気に入ったロリ魔王とクレビーが「あたたた!」と拳法ごっこで遊んでる。拳法を見様見真似で使うのは絶対にやめましょう。

 他の魔族の女の子達も集まって、何かヘンなポーズとって戦いごっこしてる。

 微笑ましい…?女の子が戦いごっこでいいのか?


「ねー何かこの仮面に似合う服ないかのー」「私はその言葉を待っていた!」

 ここはやはりセーラー服で!魔力を流し遮断効果を求めた結果、白いセーラー服になってしまったが。これでバズーカぶっ放し5番アイアンで敵を倒したら完璧なのになあ。

「燃える正義と純潔で!おまんら許さんぜよ!」どこで聞いたか知らんが中〇美穂と南〇陽子がコンビ組んだみたいな謎の決め台詞まで叫んでる。

 何か取り返しがつかない事をしてしまった様だ。どうしよう。

 とりあえずヨーヨーは持って来よう。

 我が子を慈しむササゲーさんの美しい笑顔が眩し過ぎて、何かもう申し訳ありません。


******


 遺跡、もといマドーベーサー。

 円筒形の発進口の壁が開き、巨大な馬車が現れた。馬もいないのに自走する長い車は、先が尖り、二両が連結している。車輪は3つのタイヤが三角状で一組になる、陥没でも段差でも乗り越えるトライスター形状だ。それが前後の車両に付いている…ボ〇ンフリー号とラ〇ドマスターが合体した様な高速装甲車だなあ…

 勇者キッダルト、本当にアンタと飲みたいぜ。


「マドーカーフォワードオン!」また何て言ってるか分かんないアナウンスが発進口に響いた。

「よし、こいつでキッダルトを召喚した国へ行くぞ!」「「「おー!」」」

 車内は7~8人が快適に過ごせそうなスペースがある。前が戦闘区画、後ろが居住区画でリビングにキッチン、風呂もある。だが潜水艦やヘリコプターは付いてない。


 発進口中心のターンテーブルが回転しながらせり上がり、地上と結ぶ橋が伸びる。

「サンキュー、グッドラック!」

 謎のアナウンスにはやし立てられ、レイブの操縦でマドーカーが走り出した!

 不整地をカッ飛ばしてもトライスターが廻ってくれて走行は安定している!

「あ!はいこちらクレビー。ペディちゃん大丈夫ですか?あ、ちゃんと被ってるのね?よかったわ!」

 クレビーがササゲーさんとケータイならぬ遠話で話している。

「またはしゃいでるのね!元気ねー!またお菓子持って行くわ!じゃあね!」

 勇者パーティーとメル友っぽい魔王の宰相っていいのか?これでいいのだ。


 かくてイセカイマンの出番がないまま勇者パーティーと私は謎を求めて探査ーに出動した!

 古の勇者召喚の謎とは何か!出番が無くても戦え私!戦えイセカイマン!


…では また明後日…

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