何一つ特筆して話すことがない日常にて

迷子の鴉

「起」

「話のオチが見えてこないけどさ」

 ある日、一人の青年が公園のベンチで相席した女性に唐突に語り始めた。青年は女性に対し、いきなり自分が生まれてきてから今日まで過ごしてきた人生から、ここ最近の愚痴までを話した。その時間は15分。その内容に対する彼女の回答がこちらである。

「要するに君の人生はつまらないものだってことかい?」

「凄く癪に障る言い方だけど、今のところそう感じることが多くなっていることは確かな事実だ」

 唐突に話しかけておいて、恥も迷惑も知らない不満げな顔で青年は女性の答えを認めた。

 不審で見知らぬ男に対して、15分も時間を割いてくれた上に話を聞いてくれる姿勢だったことに「ありがとう」の一言も言えない青年は、誰が見てもみじめで失礼で情けない男だ。残念ながらそれを指摘することは、青年はもちろん相手の女性にも無いようだった。

「僕は、ずっとつまらない人生を送っていると思っている。少なくともこんな平日の午前中にひとりで公園のベンチに座って読書はおろか携帯でネットサーフィンもしない僕はなんだろうかと。疑問に思うまでもなく僕は僕のことを奇人だとおもう」

 自分語りをまた性懲りもなく語り始めだす青年。そんな彼に女性は薄く化粧を施した顔に苦笑いを浮かべて、話を終わらせるために提案を彼に授ける。

「そんなに悩むことかい?まあ仕方ない。それでは私から、君に気まぐれでささやかなアドバイスを送ろう」

 青年の話を遮って、整った顔を青年に向けてにこやかに告げる。

「バイトを始めてみてはいかがかな?」

「バイトをですか?」

 女性の提案に驚いたのか、ぶしつけな態度から一変して敬語を初めて使った。

「そう。バイト。アルバイトだよ」

 青年はその答えに少し頭を悩ませる。アルバイトなど夏休みに一か月に週1でしただけだったため不安しかなかった。

「人のために働いてみることで。何か新しい発見をしたり、お金を得ることがどれくらい難しいか知る機会にもなるだろう」

 女性の方は青年の悩みなど知らないし、知ったことではないのでアルバイトの良さを告げてベンチから立ち上がる。

 実際に行動を起こすも起こさないのも青年の意思がなければならない。だからお話はここまで。そう彼女の背中は告げるように広々としていた。


「最後に一つ聞かせてくれ」

 青年は別れ際に咄嗟に聞く。

「何故君は。いや、貴方はこんな唐突な不審極まりない僕の話を聞いてくれたんですか?」

 最後の最後になって敬語を使い始めたウスラトンカチ青年は女性に問いかける。

「今更それを言うのかい?まあ、そうだね」


「人生は縁結びと縁切りの連続だからね」

「何と縁結んで、何時なんときに縁切りするか分からないから」

「出来ればどんな変わった出会いでも縁を結びたかったから、かな?」

 そこまで言って彼女は青年のもとを離れ、公園から消え去っていった。





「短期のバイトを、探してみるか…」





 ⁂(承)へと続く、、、

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