第2話公爵子息1
まさかキャロラインがナディアの事を知っていたとはな。迂闊だった。クラスが別だからと油断した。きっと学園の何処かで見られたんだろう。「お二人の事は学園で有名です」などと嫌味を言うとは。相変わらず可愛げのない。婚約を解消すると言って取り乱しもしなかった。嘆き悲しむ事もなければ縋り付いてもこない。冷静沈着と言えば聞こえはいいが、要は、感情が伴っていないだけだ。だが、これでナディアと心置きなく婚姻関係を結べる。
僕は意気揚々と両親にキャロラインの婚約解消とナディアとの婚約を告げた。
それに対して両親はというと――
「ブライアン、お前とキャロライン嬢が婚約して10年が経つ。その間、彼女が何を学んできたか承知の上で言っているのか?本当に理解しているのか?」
「勿論です!ナディアは学年でもトップに入る成績の持ち主です。公爵夫人としての立派にやっていけるはずです!」
「……名門ロードバルド侯爵家の令嬢であり、10年に渡って次期ヘルゲンブルク公爵夫人としての教育を受けてきたキャロライン嬢の立つべき場所に子爵家の娘程度が立てると本気で思っているのか?」
「ナディアなら直ぐに公爵夫人の仕事にも慣れます。ナディアは姿形だけでなく中身も可愛らしいので、きっと夫人方にも可愛がられる事でしょう」
「……本気で言っているのか?高位貴族の御夫人方はそんなに甘くはない」
「父上こそ、何を仰っているんですか?僕が知らないとでも?母上がキャロラインを連れて度々“夫人会”に参加させている事は知っているんですよ。そこでキャロラインが夫人達に我が子の如く可愛がられているという話ではないですか」
「それはキャロライン嬢だからこそだ!」
「おかしな事を仰いますね。夫人達もどうせ愛でるなら可愛いナディアの少女の方が良いでしょう。キャロラインよりもナディアの方が愛らしく愛嬌のある明るい性格ですから夫人達から大いに可愛がられる事でしょう」
「お前という奴は……」
何故か父上に呆れたような目を向けられたが、おかしな事は言っていない。父上の隣に座っている母上は何も言わずに微笑んでいるんだ。母上には認められた。だから大丈夫だ。
この時の僕は知らなかった。
優しく微笑んでいた母上の目は全く笑っていなかった事を。
キャロラインがどういった立場であるのか。
そして、ナディアの成績が良かったカラクリ。
全てを知ったのは全てが終わった後の事だった。
後日、両親にナディアを紹介した。
綺麗な姿勢で頭を下げるナディアは何処から見ても「デキる女」だった。両親もすぐにナディアを認めざるを得なくなる。そう思っていた。
きっと気に入ると踏んでいたのに……。
「確かにお前が言っていたように
考えもしなかった言葉が返ってきた。
何故だ!?
誰がどうみたってキャロラインよりも上だろう!
ナディアがキャロラインよりも劣っている点なんて一つしかない。
「父上、家格の事を仰っているのですか? 今時そんな古臭い考えはよしてください。昨今は実力がものを言う時代ですよ。王宮の文官や武官に家柄が関係なく出世しているのが良い証拠。それを踏まえて仰ってください。家柄で出世出来た昔とは違うんですから」
「……そういう問題ではない。彼女の振る舞い事態が相応しくないと言っているのだ」
はぁ~~~。
どうせ、古臭いマナーの話だろう。
今時そんなことを言うのは古い人間位だ。いや、そう言えばキャロラインも一々煩かったな。ああ、古臭い家柄の人間は先進的な今の時代に取り残されていくんだな。憐れなものだ。やれやれ。父上は公爵家の当主としても父親としても尊敬に値する人物だが、この妙に凝り固まった時代遅れな考えには賛同できない。
「キャロラインよりもナディアの方がずっと公爵夫人として相応しい事を証明してみせます」
「ブライアン。お前は本当に彼女がキャロライン嬢よりも公爵夫人に相応しいと考えているのか?キャロライン嬢がこの10年間何をしてきたか理解して言っているんだろうな?全て承知した上でナディア嬢と一緒になるというのか?最初に言っておくが、
父上の厳しい声が室内に響く。
「勿論です」
キャロラインがやってきた事など所詮、高位貴族夫人達のおべんちゃらに付き合う程度だ。一緒にお茶やお菓子を食べてお喋りを楽しむという非生産的なもの。そんな単純作業、ナディアなら難なくクリアする筈だ。
「寧ろ、キャロラインよりもナディアの方が上手くやれますよ」
凡庸なキャロラインに出来てナディアに出来ない筈がない。トップの成績を修めているナディアだぞ?彼女なら短期間で公爵夫人の教育をマスターするはずだ。場合によっては教育課程をすっ飛ばせるのではないか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます