第6話感化
「それじゃあ簡単に説明するわよ。まず、悪役の新藤くんが柏崎さんとやらを襲って、それを東堂くんが白馬の王子さまかのように振る舞い助け出す。その男気溢れる行動に柏崎さんは一目惚れ。2人は晴れて恋人同士にって寸法よ」
…………は? えーと、どういうことだ? いや、何となくやりたいことは伝わったけど、本気で言ってんのか? 思った以上に簡単で稚拙な説明を受け、俺たちは困惑を隠せずにいた。
「えっと篠原。それ、本気で言ってる? 冗談とかじゃ……」
「本気よ」
隣で俺と同じ説明を聞いていた直人が、冗談じゃないかと確認するが、篠原ははっきり冗談じゃないと言い切る。その真剣でまっすぐな眼差しを見て、一瞬だけ気圧される。
だけど冷静になって考えてみても、無謀というか何というか……。目の前に置かれたワックスとグラサンを見ていると、不安は募るばかりだ。俺たちの納得いかなそうな態度を見ていた篠原は、声に怒気を孕ませて。
「何か不満でも?」
と聞いてくる。こんなに不満しかないことは珍しい。でも言い返すのは何だか申し訳ない気がして言い返せない。それでも隣にいる直人は篠原に不満をぶつける。
「いや、こんなことして失敗したらダサいっていうか……」
気乗りしないことを篠原に告げるが、彼女は露骨に怒った態度をとり、説教するよう直人を咎める。
「ダサい? ダサいからなんなの?」
「いや、柏崎さんにも迷惑がかかると思うし……」
「迷惑? まあ確かにそうかもね。でもその子に迷惑がかかったところで、あなたがダサくなる訳ではないと思うけど」
「いや、それは……」
「結局、怖いのでしょ。失敗して笑い者にされるのが」
「う……」
完全に直人は怯えている。まるで蛇に睨まれたカエルだ。この女に慈悲はないのか。何故だか篠原に怒られて縮こまっている直人だが、そんな直人にも篠原は容赦せず追撃をかます。
「失敗するのは怖い。でも恋人は欲しい。これってあまりにも都合が良すぎるとは思わない?」
「た、確かにそうだけど……」
「失うことを恐れる人間には、何も得ることができない。失う覚悟を持って挑戦した時、人は初めて何かを手に入れる権利を得るの。あなたにはないの? その覚悟が」
「……!」
こいつはいきなり良いことを言うなと思った。篠原の言葉に感化されたのか、さっきまでしょんぼりしていた直人の態度は一変して、いきなり立ち上がると。
「俺は彼女を作るためなら、全校生徒から嫌われたって構わねえ!」
大きな声で、意気込んだ。相変わらず単純な奴……。でもどうやら、直人はやる気満々らしい。なら俺も、篠原の案に乗ってやるか。かくして、直人の彼女作り作戦は幕をあげた。
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