第2話無責任

 1時間めの授業が終わり、校内に昼休みを告げるチャイムが鳴り響く時間帯。多くの学生たちが舞い上がり、各々好きなようにして時間を過ごす。俺はと言うと、母親に作ってもらった弁当を取り出して友人の元へ赴く。


 俺が友人である東堂直人の机の上に弁当を置くと、直人の机の前においてある椅子を勝手に拝借し、弁当を広げる。


「おい直人。昨日の配布石でガチャ回したら、SSR出たぞ」


「マジかよ。いいなー。しかもそれ、一番当たりじゃん。マジ羨ましいわ」


「だろ」


 開口一番、俺たちは最近ハマっているソーシャルゲームの話をする。俺たちに共通する趣味なんてゲームぐらいのもので、それが一番盛り上がるのだから必然的にゲームの話題が多くなる。


 でも、そんな何気無い会話をしている時が一番楽しかったりして、俺は現状にそこそこ満足していた。でも直人は違うのか、浮かない顔で窓越しに映る太陽を見つめだした。


 なんかムカつくなこいつ……。いきなり悟った雰囲気を醸し出した直人に多少苛立ちつつ、俺は「どうした急に?」と尋ねてみる。

 すると直人は、大きくため息を漏らし。


「いやな。俺たちの青春、これでいいのかなって思ってな」


 いきなり訳のわからないことを言い出した直人の顔を見て、さらに腹が立つ。


「なんだよ。俺といるのは不満なのか?」


「別にそうは言ってねぇだろ。ただな、欲しいだろ」


「欲しいって?」


「そりゃ、か、彼女とか……」


 彼女が欲しいと言うのは恥ずかしいのか、頬を赤らめて言ってくる直人。こいつの赤面する顔は気持ち悪いなと思いつつも、言いたいことはわかる。俺だって欲しくないと言えば嘘になる。


 でもそこまで欲しいかと問われれば、別にって感じだ。これは別に気取ってるとかカッコつけてるとか勇気がないとかじゃなくて、本当にどっちでもいいのだ。まあ相手から来たら考えなくもないかなと言ったところ。だから彼女が出来ない訳じゃない。って、俺は誰に言い訳してんだ? ブンブンと頭を振ると、普段あまりしないコイバナとやらを男二人でする。


「彼女ってお前、好きなやつとかいんのかよ」


 直球で質問してみると、直人はサッと目をそらすように廊下の方を見る。


「いやな、まあ好きというか気になってるというか……」


「え? いんの?」


「いやまあな。俺だって年頃の男だしな」


 はははっと気味悪く笑い出す直人に、一抹の恐怖を覚える。てか、直人にそんな奴が居たんだな。すげー気になる。


「で? だれなんだよ」


 気になった俺は、こっそり耳打ちしてもらおうと顔を近づける。すると直人は、恥ずかしそうに。


「バラすなよ……」


 小学生みたいなことを言い始めたので、俺は急かすように言う。


「バラさないから早く言えって」


「本当だな? 絶対だぞ」


「お前もしつこいな……。俺がバラす訳ないだろ」


「それはどうなんだ? まあいっか。実はな」


 腹を括った直人は、ゴクリと生唾を飲み込むと……。


「俺、隣のクラスの柏崎さんが好きなんだよ」


「……へー」


 聞き覚えのない生徒名に、つい反応が悪くなってしまう。俺のいまいちなリアクションに、直人は怒りを露わにする。


「反応薄いな! なんだよお前、あんだけ聞きたがってたのに」


「い、いや悪い。柏崎ってだれだっけ?」


「はぁ……。まあ確かに目立つ子じゃないけど。でもなんと言うか、だからこそいいと言うか……」


 いきなり聞いてもないのに柏崎とやらの良いところを次々あげ始めた直人。俺はコイツと一年から同じクラスで、一緒にいる時間が長い。なのにコイツと柏崎とやらが一緒に話しているのを見たことがない。


「いつから仲良くなったんだよお前ら?」


 俺が聞いてみると、直人は訝しむ眼差しを向けてくる。


「お前何言ってんだ? 俺と柏崎さんは喋ったことすらないぞ」


 当たり前! とでも言いたげな表情に驚かされる。てことは一目惚れってやつか?

 接点がない相手のことを、ああも褒められるなんてコイツすげーなと感心する。


「じゃあお前、話したこともない人と付き合おうとしてんの?」


「まあ、そうだな……」


 俺の発言にグサリと刺さるものがあったのか、直人はまたもため息を吐いて落胆する。そして次の瞬間、縋るように俺の肩を掴むと。


「なあ刀鬼とうき。俺はどうすれば柏崎さんと付き合えるんだ? 俺の恋を、叶えてくれ!」


 若干の涙目になりながら必死になって聞いてくる。そんなこと出来るか! と一蹴してやるのは簡単だが、こんなにも必死で迫られると断りにくい。それに、コイツが俺に頼ってくることなんて珍しいし……。


 色々な考えが頭の中を駆け巡り、気がつけば俺は、無責任にも引きつった笑みで。


「おう。俺に任せろ」


 なんて言葉を返してしまう。

 

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