54話 大物VTuberの裏の顔
選択肢の集計結果は、
3が一票、4が四票、2が七票でした!
みなさま、投票していただきありがとうございます!
◆◇◆◇
俺は思い切って、フローティアさんへの想いの丈を口にする。
「今はまだ互いを高め合う
「ふむぅ……一理、あるな…………ティアの
「ユウマ!
「わっ、ティアさんっ!?」
「逃すなら包んでしまえ、大胸筋!」
陛下の御前でありながら、フローティアさんは飛びつく勢いでハグをしてくる。
あまりにも豪快すぎて、俺は思わず転がってしまう。
その瞬間、右足に何か当たる感覚があり————
「
おおおおおう!?
おじいさんのっ! 陛下の頭を蹴っちゃったよおおおおお!?
しかし、おじいさんは何事もなかったかのように、もつれる俺たちを見下ろしながら語り掛けてくる。
「ふむ。英雄殿の覚悟はしかと受け取った。であるなら、フローティアから聞かされておった話……空賊船で我らがアキレリア難民を空輸するというのも信じよう。全面的に協力させてほしい」
「受け入れていただき、感謝します」
「ありがとうございます!
それからフローティアさんはハッとした顔になり、すぐに配下としてふさわしい慎ましかやな礼をする。まるで自分が無礼を働き、わびるような態度だ。
「ふぉっふぉっ……ティアがそう呼んでくれるのは何年ぶりかのぅ。これも英雄殿が成しえる人徳なのかのう?」
陛下はご機嫌な様子で、茶目っけたっぷりのウィンクをかましてくる。
どうやら俺たちが先ほど働いた無礼は不問のようだった。
「早くひ孫が見たいのう」
ん……?
どうしておじいさんは俺をそんなに凝視するんだ!?
◇
「あれが空賊の船団……」
「壮観だな」
フローティアさんと空を眺めては感嘆の言葉をもらす。
【剣の盤城アキレリス】の上空には何十隻もの飛空船が船舶の許可を待っている。
「ここまでは順調か……」
すでに『束の間』での一悶着から三日が経つ。
何度かに渡って
ここまでヒカリンとロザリアの完璧な手はずによって、無事にアキレリア人の難民を空賊経由で【時間獣の封域】へと誘導できたのは偉業に等しい。
「あれほどの数を動かせるとは……ヒカリン殿はよほど偉大な人物らしいな。無論、ロザリア殿のご尽力あってのことだと重々認知しているが……」
感謝してもし切れない。
そんな気持ちが言葉の端々でフローティアさんから感じられた。
「それにしても空賊とは不思議な魔道具? を使用するのだな?」
「確かに空賊船の周囲を舞ってる羽根ペンは気になりますよね」
ロザリア曰くあれは古代人の遺産、
【都市喰らいの本】のために遠隔で情報収集し、【空を描く羽根ペン】は蓄積した情報を記す役割を持っているのだとか。
つまりあの羽根ペンと共に飛行すれば【都市喰らいの本】は敵対せず、襲われないといった原理だ。
飛空船にその羽根ペンを無数に紐で取り付けている。
それら羽根ペンが自動で空中に魔法陣を描き、その魔法効果で飛行しているのが空賊船の正体だった。ちなみに空賊船の飛び方は様々で、今回は【空を描く羽根ペン】を所有する空賊にロザリアが恩を売って条約を結んだらしい。
その際はヒカリンの威光も役立ったらしいが、その辺は詳しく教えてもらっていない。
「ここまでお膳立てしてもらったんだ……あとは俺の出番。配信活動をがんばるぞ!」
なにはともあれ、難民たちの入港許可が下りたところで俺は四日ぶりの配信をスタートする。
「どうも、『おっさんと妹』のおっさんです」
『VIP:うおおおおおおおおおおやっときたああああ!』
『配信の告知ぐらいしておけやああああ!』
『くっ……まじかよ! 仕事早退するわ!』
『VIP:◆ツブヤイッターで告知してきます!◆』
『もうダイヤ姫にマネージャーしてもらえよw』
『四日も待たせやがって!』
愛のある罵倒に心なしか顔がほころんでしまう。
「んっ、ユウマが言っていた背信? とやらを始めたのか?」
「そうです。これからアキレリアの人々の現状をより多くの人に知ってもらいます」
「頼む」
『んっ? なあ、おっさんの隣にいる青髪の美女……美少女どっかで見た事ないか?』
『おいおいおいおい最近、突如として出てきたなんとかーっつぅ国のお姫様じゃん!』
『だから言ったろ! 前からおっさんの配信に出てるって!』
『ガチだったのか……』
「シンプルに説明すると
『じゃあ……シバイターからフローティアちゃんを守ったから、現実でもフローティアちゃんが現れたってことなのか?』
『死なずに済んだから……?』
『いやいやいやいやいやw』
『さすがに信じられないって』
『VIP:だがそう考えた方が辻褄が合うのである』
「ってなわけで。こっちじゃ絶賛アキレリア人は滅ぼされそうなんだよ……このままじゃたくさんのアキレリア人が死ぬ」
『なんだよそれw』
『ゲームのイベント説明にしては顔が真剣すぎるんだよなあ』
『きっつ! 演技きっつ!』
『証拠見せてみろ証拠を』
「わかった。どうかみんな覚悟してくれ……」
そうして俺はフローティアさんに案内され、最もひどい惨状の難民たちがいる空賊船へと移動する。
「ぢぐしょおおお……俺の足がああ……」
「だのむ。俺のことはどうでもいいがら! どうか、どうか俺の娘を助けにいっでやってぐれ。絶対に死んじゃいない!」
「最後に……夫への言葉を……愛していると……伝えて、……」
圧倒的に重傷者が多い。
すぐ傍で息を引き取る人もいれば、痛みに呻く人もいる。
周囲ではせわしなく治療にあたる救護班がつきっきりでいるものの、状態は芳しくない。
『証拠ってそういう証拠かよ』
『このゲームまじでグロいよな……』
『なんてゆうかリアルだわ』
『VIP:この惨状には心が削られる』
リスナーたちの反応もさすがに軽口を叩ける状況ではなかったようだ。
俺はそれから子供たちの多い飛空船へと案内してもらい、少女にインタビューをしてみる。
「こんにちは。ここには家族と逃げてきたの?」
「……お母さんも、お父さんも……じんじゃっだぁあああああ」
『おっさんwwwインタビュー下手かww』
『子供を泣かせたのはこいつです』
『お巡りさんこいつです』
しまった。
トラウマを思い出させるような軽率な質問をしてしまった。
俺は慌てて少女に謝り、泣き止むまで一緒にいる。どうにかこうにか元気づけようとあがいてみたり、安心させようと四苦八苦するもなかなか上手くはいかない。
「少女よ。名前はなんと言うのだ?」
「ひぐっ、うぐっ……」
見兼ねたフローティアさんが少女と同じ視線になるまで屈む。
そして優しい声音で自己紹介を始めた。
「
「ひぐっ……ローゼ、シュタイン?
「いかにも。英雄神アキレリア様の神血を継ぐ
「…………」
「みなを守れず、不甲斐なく思う。許してくれ」
「ひぐっ。ローゼシュタイン様は何も悪くないです……自分の筋肉の惰弱さを、他人の筋肉のせいにはしません……!」
「……そうか。良き英雄の血を継いでいるな」
それからニコリと笑いかけたフローティアさんは少女の頭をなでる。
「二度とこのような暴力に負けないよう、次代の筋肉に語り継ぎたい! 敵はどのような輩で、どれだけ卑劣なのか!」
「わっ、我らが筋肉に栄光あれ!」
いつの間にかフローティアさんの周辺に子供たちは集まり、彼ら彼女らが如何に凄惨な戦場で生き延びたかを語る。
「
「俺の弟も……妹も首をもがれました……」
「あいつら、にんじんを食べるみたいにガリガリって母ちゃんの筋肉を……」
「女王様みたいのが命令してました!」
「変な武器? 物を投げる男にもいっぱい殺された! 私のお父さんもあいつに……!」
「白い服の人達をたくさん引き連れて、僕の村を壊したんだ!」
「許せないです!」
「私たちは何もしてないのに!」
「筋トレしかしてないのに!」
怖い体験を思い出すのは非常に苦痛なはずだ。
それでもフローティアさんに導かれた少年少女たちは、瞳に折れぬ心を宿している。
そして消えぬ炎を胸中で燃やし、小さな英雄たちは口々に話してくれた。
「男の方は【錬金勇者まじめしゃちょー】ね。あいつ、あたしと遭遇しないように上手く立ち回ってるのよね……」
俺たちのインタビューに声を挟んできたのはヒカリンだった。
これにはすぐにリスナーたちも沸く。
『悲報:まじめしゃちょーは虐殺犯w』
『まあゲーム内の設定だしな』
『本当だったらガチでエグすぎだろ』
『ゲーム、だよな……?』
リスナーたちが驚愕と疑問を抱くなか、俺は続けてヒカリンに質問を浴びせる。
「じゃあ、子供たちが言う女王様っていうのは?」
「……
ヒカリンの口から出たのは、今をときめく大人気VTuberの名前だった。
チャンネル登録者400万人超えの実力者。
ものすごい愛らしいキャラクター性、決して憎めない寂しがり屋のうさぎさん。そんな彼女がアキレリア人を大虐殺しているというギャップは————
リスナーの間では大きな話題となり、コメントは荒れに荒れた。
◇◆◇◆
あとがき
新作、始めました!
『どうして俺が推しのお世話(執事)をしてるんだ? え、スキル【もふもふ】と【飯テロ】のせい? ~推しと名無しのダンジョン配信~』
お読みいただけたら嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます