15 もう一人の回帰者
「処刑されたところ。シオンに会いに行ったというからその前の記憶で途絶えているかと思ったが」
大した性格だとアルバートは感心していた。
「何で、アルバート様は……何で、回帰したことを知っているの?」
アルバートも回帰者なのだろうか。
アリーシャが処刑された時のことを覚えているのか。
「俺が時間を戻したからだ」
足を組みなおし、告白された内容にアリーシャは動揺した。
何もかも疲れて首を斬られて、この世からさようならをしようとしたのに何故再び自分はここにいなければならないのだ。
「どうしてっ! 何でこんなことをしたの。こんな王宮に放り込まれた時に戻して、嫌な思いをまたさせて、何の嫌がらせなの!!」
アリーシャは立ち上がりアルバートの胸元を掴んで叫んだ。アルバートはアリーシャの首を掴んで押しのける。
今首を触れられるのはアリーシャにとって恐怖だというのに躊躇ない。
「回帰してもお前は自分のことだけしか考えないんだな」
心の底から見下した声で言われてアリーシャは唇をかんだ。アリーシャはアルバートのことが嫌いだった。
侯爵邸を訪れた時この男はアリーシャに優しい言葉をかけることもしなかった。
侯爵家養女になった後も花姫に相応しくない、侯爵家の面汚しになるから出ていけとまで言われていたのを思い出した。
何でこんな風に言われなければならないの。
「自分のことを考えちゃ悪いの。このままいけば私は処刑されるのよ。早く花姫をやめたいのになかなかやめられないし」
「そりゃ、やめられないよな」
王宮執事たちが言っていた例外以外は辞退できないという言葉を思い出す。
「そこから飛び降りて足でも折ればいいのかしら、それとも堕胎薬を大量服薬して不妊症になればいいのかしら」
「やめられたら困るんだよ。お前でも必要だ」
アルバートは改めて言い、アリーシャの前にぽとりと紙を落とした。随分古く色あせた紙であった。
広げられた紙に書かれている方陣をみてアリーシャはぞっとした。
「何ていうものを見せるの」
アリーシャは心の底からアルバートを嫌悪した。そこまで自分を嫌っているのか。元から自分も嫌いだが。
「頭の回転は遅いが、それが何かはすぐにわかったか。さすがメデア村出身」
アルバートが見せたものは呪いの方陣であった。これを呪いたい者の部屋や身に着けているものに潜ませれば周りの不和を引き起こさせる。
効果は弱いが呪いに対して耐性のないものは強い苛立ちを不安感、嫌悪感を増強させる。
「それがどこにあったか知っているか?」
そんなことを聞かれても知るわけないだろう。
「どこにあったの?」
「この部屋の扉、お前でも気づかないようにうまく隠されていたよ」
そんなはずはない。
先ほどアルバートが言った通りアリーシャはメデア村出身である。
メデア村は別名魔女の村と呼ばれる魔法に秀でた者たちが集まる村であった。
血縁以外には排他的であり、謎に満ちた村であった。
時々外に出る村人が周りに乞われるまま自然災害や魔物の対策や、病気についての治療や呪いについての解決を提案していく。
この村出身の為か、アリーシャの魔力は強かった。軽くであるが風を操る魔法もできる。
だからアリーシャはアルバートの言葉を信用できなかった。
本当に、アルバートが言う通り扉に呪いの方式が潜まれていれば気づけていたはずだ。
「何重も誤魔化しの魔法をかけていたから気づかったんだ。お前の魔力は強いけど、ちょっと知識があって風を少し呼び寄せる程度しか役に立たない。ろくな教育を受けていなかったから仕方ないがな」
くつくつと笑うアルバートにアリーシャは腹を立てた。だが、彼の言っていることは事実であった。
魔力はあるが、アリーシャの魔法も、知識も未熟である。魔法使いとしての腕前はアルバートの方が上だった。
アリーシャが村の人間としてまともな魔法の教育を受け始めたのは母が死んだ後である。
それでも他の花姫よりは魔法を使えている方であるのだが。
形骸化した花姫に求められているのは魔力と血筋である。
魔法使いとしての能力ではない。
国王より優れているのはあまり好ましくないと言われ始めたから花姫に本格的な魔法学は教えられなくなったとフレート夫人が小話してくれたことを覚えている。
たいへん悔しいが、アルバートの方が上であった。
アルバートは強い魔力を持っていると判明しすぐに優秀な魔法の師匠を用意された。
アリーシャもきちんと幼少時から教育を受けていれば、アルバートから魔力だけと馬鹿にされずに済んだのだ。
むしろアルバートよりもずっと優れていたかもしれないのに。
祖母も、父も早く死んでしまったのが悔やまれる。
アルバートは彼女の祖母・父への恨み言に同意した。
「責任もってお前を育てなかった親にも落ち度があるな。魔力だけ強く持ってても、よくない。暴走して自滅するなら良いが、まんまと悪用されてしまって大迷惑を被ってしまった」
急に口にされる迷惑という言葉にアリーシャは疑問を持つ。
「どういうこと?」
自分は花姫に相応しくなく、侯爵家の名誉を汚してしまったという意味での迷惑とは別の意味に聞こえた。
「ろくな教育も受けずに中途半端に強い魔力を持った為に、お前は気づかないまま呪いに中てられて、死んで呪いの人形になってしまった」
アルバートは頭の整理が追い付けないアリーシャに対して容赦なく彼女が死んだ後のことを話し始めた。
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