遺された日記帳〜毒をのんだ令嬢〜
アーエル
お恨み申し上げます
ここに一冊の日記帳がある。
色褪せたそれの持ち主はすでにこの世にはない……
初めの頃には令嬢らしく幸せそうな令嬢の桃色の生活が彩られていた。
『春色の花咲く王城の庭には、レースを飾ったテーブルに美味しそうなお菓子が並べられていたわ。
でもね、どんな花も頬を染めて恥ずかしげに俯いてしまったの。
だって誰よりも鮮やかな光をまとった王太子様が登場されたから』
この日は王太子の婚約者を選ぶお茶会。
候補の令嬢が7人選ばれて、その中から一人が……この日記帳の持ち主である令嬢が選ばれた。
『ああ、私が……あの、世界に選ばれた王子様のお嫁さまに選ばれたなんて!
ねえ、私は夢を見ているの?
私は死に瀕していて、意識がないままベッドで横になっているの?』
幸せを叶えるために、令嬢は王太子妃となるべく王妃より教育を受ける。
この頃より、令嬢の日記帳にはくらい内容が綴られるようになる。
『今日も王妃様に叱られた。
「お前みたいな出来損ないは王太子妃に相応しくない。
今すぐ遺書を書いて私の前から消えろ!」
わたし、頑張ってるのに……増えるのは王妃様の叱責と両腕に残された鞭の跡』
『王太子様、なぜ?
私はあなたに相応しい妃になれるように頑張っているのに。
両腕に侍らせている令嬢たちは誰?』
『今日も王妃様に罵られた。
「お前に魅力がないから王太子は女にだらしなくなったのだ」と。
私の背を蹴り、背を足を鞭で叩く。
ミミズ腫れに鞭を重ねた。
「私のときはもっと大変だったのよ!」
そんなこと、私は知らない。
私には、関係ない』
『「やーだー。まだ生きてるの?」
そう言われてふりむいた。
そこに立っていたのは王太子様といつもの令嬢たち。
「母上も甘いな。
テラスから落として殺してしまえばいいのに」
王太子様、王妃様に私を殺すように仰っていたのですか?』
この日、恐ろしい言葉が王妃より放たれていた。
『「お前は生まれると同時に母親を殺した母殺しだ。
そんな女を王太子妃に選ぶはずがない。
お前を甚振り死を選ぶように仕向けるためにお前を選んだだけだ。
お前は父にも兄にも好かれていない。
当たり前だ、生まれたときから人殺しのお前なんか誰も愛さない。
だからお前は納戸でゴミ同然に育てられたんだ。
それを根拠にお前は部屋など与えられていない。
お前の代わりに娘を、そういった女は公爵の後添いとしてお前の家にいる」
何も言えなかった。
だって私は父にも兄にも会ったことはない。
誕生日の祝いなんて一度もしてもらったことがない。
母と実の娘という2人が幸せそうにしているのを見ただけ。
私はいつも下着一枚で物置に一人でいる』
公爵家の妻と娘、として実際に公爵家にいた母娘がいる。
周りは『後妻と実娘』と思っていたらしい。
そして日記帳は遺書となった。
『お父様、お兄様。
お母様を殺して生まれた私をお許しください。
お二人は憎い私がいるから家に帰ってこられないのですね。
私がこの世から消えます。
だから、お二人は愛する家族と共に笑顔でお過ごしください』
『王太子様。
王妃様に私の殺害を願い出ていたそうですが、お母様にそのような罪深いことを頼まないでください。
私は自らこの生命をたちます。
「まだ生きているのか」
もう私は消えます。
望まぬ婚約をさせられたことが憎いと私に何度も仰られました。
ですが、もうそれも終わりです。
このような『生ゴミ』など早く忘れ、どうかお幸せに』
『国王陛下、王妃殿下。
「公爵家の娘だから仕方なく選んだ。
本当なら母親と共に死ねばよかったものを。
母親ではなくお前が死んでいれば」
そう仰られた国王陛下。
あなたの大切な従姉様を私が生まれることで死なせてしまったこと、お許しください。
あの日に戻れるなら、是非とも私を殺して従姉君をお救いください。
「お前の母が結婚しなければ、妹は後妻にならなくてすんだはずだ。
お前が母親を殺したから」
王妃殿下、
「私を八つ裂きにしたい」毎日そう仰って、
毎日「殺されないだけありがたいと思え」と鞭を振るい、
毎日土下座を強要して「お前は賓客をもてなすための娼婦になるのだ」と仰られ、
「王太子は国王陛下のお子ではない」と。
私もどこかの王族の子を成せば王太子妃に認められると仰られました。
来週から従者と閨の実践だと。
わたしにはそのようなこととても無理です』
最後には亡き母親にあてた遺書がのこされていた。
『わたしなんかに生命を奪われたお母様。
わたしなんか産まなければよかったのに。
国王陛下との不貞でわたしができた。
その罰でお前の母は死んだ。
なのになぜお前は生きている。
毎日わたしは家でそう言われて生きてきました。
お前のせいで。
執事からも「旦那様と坊っちゃまが帰られないのは母殺しのお前が生きているからだ。許されるなら今すぐにでもお前を八つ裂きにしてやりたい。
お前なんか公爵家の娘だと思ったこともない」
そう言われて叩かれ蹴られて生きてきました。
お母様、わたしをなぜうんだの?
お恨み申し上げます』
これを最後に日記は絶筆している。
公爵令嬢は、学園から王城に護送される馬車の中で毒をのんで床に倒れていた。
座席には真っ白なレースのハンカチが広げられ、その上に日記帳が置かれていた。
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