12:決勝戦 VS王竜水

二章全体を大幅に書き直しております。改訂が多く、大変なご不便をおかけしておりますが何卒ご理解の程よろしくお願いいたします。


また、頂いた感想については、持ち越すことはできませんでしたので、せめてと思いスクリーンショットで余すところなく保存させていただいております。折角頂いた感想が消えてしまったのは大変心苦しいですが、見返して今後の糧にしていきたいと思います。


以下に主な大きな変更点をまとめておりますので、併せてご確認ください。


・鬼月と陽菜がそれぞれ別の大会に出場する

・パーティーメンバーとの会話を、接客スペースではなく通話に変更

・『大会当日 選抜試験』において、展開を大きく変更

・『一回戦 VS田淵』において、新たな展開を付加

・要のパーティーメンバー登場シーンを、『影響 ※掲示板回有』に移動

・『影響 ※掲示板回有』において、展開を若干変更

・『三回戦目 VS篠藤』の後半部分を『10:最終日』に移動

・『決勝戦 VS王竜水』において、戦闘シーンの追加、展開の変更


・また、以上の変更点に合わせて、全体的に展開の追加、話数の変更


また、大幅な改訂に伴い、改訂前版の二章を別の作品として投稿し直しております。


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【集え】第6回近接術大会実況スレpart2【ツワモノ共よ】



122:名無しがお送りいたします

田中はよく頑張った


123:名無しがお送りいたします

アイツは俺達中年オヤジの希望の星だよ。まあ一瞬で負けてたけど


124:名無しがお送りいたします

試合後、会場の屋台でやけ酒してて草


125:名無しがお送りいたします

ルイン相手は仕方ない。打つ手がないもの


126:名無しがお送りいたします

魔法には魔力で対抗できなきゃ一方的に殴られるだけだしな。実際ルインの魔力を散らせなかったから、氷の弾丸を砕いてたら武器を冷却されて碌に持てなくさせられてたし


127:名無しがお送りいたします

運を味方に付けて勝ち上がっていったようなもんだし、運の余地が介在しない本物の実力者相手ならまあそうなるわなって感じ


128:名無しがお送りいたします

むしろ王竜水の一撃を一回防いだり、ルインの氷の弾丸を何度か防いだりできただけでも褒められるべきだろ


129:名無しがお送りいたします

腕自体は悪くなかったし、スキルが増えたら化けるかもなー


130:名無しがお送りいたします

次は狐面VS竜水か。クッソ楽しみなんだが


131:名無しがお送りいたします

狐面はまだ色々隠し持ってそうなんだよな。


132:名無しがお送りいたします

ルインの時の空中ジャンプは見た時顎が外れたレベルだったわ


133:名無しがお送りいたします

殺傷力も高くて機動力も高いとか、首狩りの異名に適正在り過ぎて草


134:名無しがお送りいたします

尚本人は微妙な表情の模様


135:名無しがお送りいたします

首狩りって言われる度にしかめっ面してるの分かりやすいな


136:名無しがお送りいたします

流石に王竜水が勝つだろ。アイツ今まで本気を一切出さずに余裕で勝ち上がってきてんだぜ。地力が違い過ぎる


137:名無しがお送りいたします

無所属の冒険者と超有名クランの期待の新人。普通なら勝ち目なんてある訳ないんだが、正直期待してしまうな


138:名無しがお送りいたします

クラン所属のメリットは経験や設備の差だろ?設備は大会には関係ないし、経験も狐面としての功績もあるしちゃんと積んできてる。むしろ王の方は実力にかまけて本気出さずに油断して足を掬われそう


139:名無しがお送りいたします

狐面信者うぜえ。王竜水にはあんなぽっと出野郎とっととぶっ潰して心を折ってほしい。この業界はガキが這い上がっていける程うまくいかないってことをとっとと分からせてやれ


140:名無しがお送りいたします

>139 コンプレックスを前面に押し出す文章、嫌いじゃないけど好きでもないよ

俺の中じゃどっちも五分五分だし、早く試合が見たいよ


141:名無しがお送りいたします

噂じゃあのガキ冒険者始めたのが8月くらいらしい、絶対何か不正してるだろ


142:名無しがお送りいたします

カナメたんをブルーレイクから奪ったクソ野郎に鉄槌を


143:名無しがお送りいたします

カナメって誰だよ


144:名無しがお送りいたします

美少女冒険者パーティーのブルーレイクのマスコットキャラだった女冒険者。辞めて別のパーティーに移籍したが、その移籍先がカミノの所なんじゃないかって噂になってる


145:名無しがお送りいたします

スレチだから他所でやれ。ここは大会の実況用スレだぞ


146:名無しがお送りいたします

カミノ関連のスレでユニコーンが大量に湧いてアンチ活動してて草


147:名無しがお送りいたします

冒険者相手によくやるよ。一歩間違えたら即前科持ちやぞ


148:名無しがお送りいたします

うおおおおカミノ!応援するぞおおお!


149:名無しがお送りいたします

ぽっと出野郎に負けるな王!お前が王だ!


150:名無しがお送りいたします

盛り上がってきたああああああ11


151:名無しがお送りいたします

元ニートが見守ってるぞ、狐面!!!







「ついにこの時が来たか…!」


 響き渡る大声援の中、ユーゴは身を乗り出して眼下の舞台に上がった一人の少年に注目していた。


「志島押しの大門寺弘雷、ヴォルフ押しの篠藤、ルーファ押しのルイン…後は我覇真さん押しの王竜水を倒すだけだぞ!ここまで来たら俺にとことんマウントを取らせてくれよ、坊主!」

「性格わっる…」

「楽しそうで結構だなー」

「はあ…この人のこういう所、苦手だなぁ…」


 ルーファが思わずキャラを崩してぼそりと呟き、ヴォルフは特に気にした様子もない。志島はげんなりした表情でため息を零した。


「ふっ、確かにユーゴの言う通りあの男は目を見張る才を持っている…だが、正直言って竜水に届くかと言われたら首を傾げざるを得ないぞ、ユーゴ」

「殺し合いは総合力だ。アイツの打開力なら必ず勝機を見出すはずだぜ?」

「ならばそれすらも上回るのが竜水という男だ!」

「何ぃ?いやいや坊主はそれすらもだな!」

「当然、竜水はそれすらも!」


 志島が思わず腰を浮かせた。


「やめてくださいよちょっと!一応オンオフ出来るとはいえマイクあるんですよ!?一級の貴方達が世間に醜態を晒してどうするんですか!ルーファさんもそろそろ何か言ってくださいよ!」

「知りませんよ。私には関係なき事です。諫めたければご自分でどうぞ。私はルインが負けてなんだかやる気無くしちゃいましたので後はお任せします」

「…えっ…?」


 拗ねてる?まさかの事態に志島は固まって、そして涙目になった。


「あの、一応これお金貰って仕事してる状況なのですが…マジで何なのこの人達…」

「あっはっは!お腹いてー!」

「引き受けなきゃよかった…」


 志島は肩を落としたが、しばらくして口を開いた。


「篠藤君も下した彼…やはり気になりますか?」

「んー?まあ気になるっちゃ気になるな。ただ、私はお前やルーファみたいに篠藤にそこまで入れ込んでなかったから、そういう意味では特に気にしてないぞ。篠藤は最後に明らかに弱体化したからなぁ。実力が安定しない奴は正直扱いきれないし、興味は失せたな」

「カミノ選手はどうです?機動力も高く、殺傷能力も非常に高いのです。実力はかなり高いのでは?」

「おう。だからこそこの試合だ。実力は十分、戦闘センスも一品級…最後に、格上を相手にどう攻略するのか…見せてもらおうじゃねえか」


 気が付けば騒動も終わり、誰もが注目していた。





12:決勝戦 VS王竜水





「ようやく君と戦えるね。この時をどれほど待ち望んでいた事か」


 会場に上がった俺は、向かいから上がってきた優男にそんな言葉を投げかけられていた。


 竜水。糸目の男は余裕を感じられる表情でその場に立っていた。客席からの黄色い声援も、実況の声ももう届いていないように見える。その目はただひたすらに俺をまっすぐ見据えていた。


 会話をするのは食堂の時以来だ。だが、相変わらず竜水は俺に対してフレンドリーに接してくる。


 思わず怪訝な顔をしてしまう。


「どうして俺にそこまで期待を?」

「え?そりゃ勿論、話題の実力者と戦いたいから…っていうのもあるけど。君の目を見てもっと戦いたくなったんだ」


 俺が無言で続きを促すと、竜水は笑みを浮かべる。


「本気度って言うのかな。何か目指すものがあって、それを叶えるための手段の一つとしてこの大会に出ている。そう感じたんだよ」

「なるほど?」

「ほら、そういう人って強いだろ?大門寺さんしかりルインさんしかり…それで、僕にとって強さってのは結構重要なものなんだよ。だって、強い奴と戦う方が楽しいし、強い奴に負けた方が悔しい。そして、強い奴に勝利したらさらに嬉しい!」


 竜水は背中からシミターを逆手で抜いて、それを曲芸のように回して順手で構えた。背筋を伸ばした堂々たる構えだ。


「評価されるのは嬉しいけど…勝つのは俺だ」

「いいね…顔に似合わず好戦的で結構…!」


 糸目が見開かれて、俺を見据える。だが、俺はふと思い出して口を開いた。


「そうだ、戦う前に質問してもいいか?」

「ん?なんだい?」

「変な事聞くようで悪いけど…前世の記憶とかってあったりする?」

「はははっ。おおっと、それは予想外な質問だね。うーん、そうだな…もし君が僕に勝てたら、その時に答えよう。そっちの方がやる気出るだろ?」

「…上等」


 俺は口角を上げて、刀を抜いて構えた。


 陽菜と鬼月に負けていられない。俺も勝利する。そして三人で高級焼き肉店と回らない寿司屋をはしごする。それが俺の今の目標だった。


『会場の皆様お待たせいたしました!舞台はついに整った!幾回もの試合を制し、勝ち上がり、ついに決勝戦へと足を進めたのはこの男たち!』

『剣に愛された類まれなる天才、優勝候補最強の男!王竜水選手!』

『無名の状態から上へ上へと這い上がってきた狐面の侍!カミノ選手!』

『今、ついに戦いの火ぶたが切られる!最強の名を手にするのは一体どちらだ!それでは…試合、開始!』


 歓声が爆発すると同時に、竜水はその場から消えていた。そして低い位置からの切り上げに俺は即座に対応する。


「行くよ!」


 竜水の声が上がり、瞬時に俺を追い詰めるように斬撃による包囲網が広がった。時が加速する。首、手足、心臓。俺の意識の隙間を縫うような巧みな連撃に火花が散る。


 俺はカウンターを放つが余裕を持って受け止められて、刃に滑らされて流された。即座に地面を蹴って身体を捻り後方へジャンプ。砕けた遺跡の破片を掴んで投擲し牽制する。


「ふー…」


 着地し、俺は冷や汗をかいて息を吐き出していた。


「速い!良いね…楽しくなってきた!」


 楽しそうに笑みを浮かべる。声に力が入り、竜水が岩盤を割りながら踏み込んできていた。


 放たれたのは最速の二連撃だった。十字に斬り込まれる、剣以上の質量さえ感じさせる凄まじい剣圧。一回目は避けて二回目で吹き飛ばされた。十数m後方へ押し出されて、俺は何とか地面に足を付けて勢いを殺す。そして顔を上げた時には既に竜水の姿はなかった。


 強化した刀が欠けていた。真正面から受けたらあっという間に武器を失うだろう。じんじんと衝撃が響く両手で刀を握り直して周囲を鋭く見渡す。


「っ!」


 ―――影。俺はその場から飛びのいた。


 次の瞬間には轟音。風を切り裂く音が響き、地面に巨大な亀裂が生まれる。


「っ、シィッ!」


 飛びずさり、すぐさま刀を翻して連撃を放つ。風刃と斬撃で逃げ場を無くす。既に見せた技はどうせしっかり対策されているだろうから、消耗が少ないものに限り使用は制限しない。


「後ろに目でもついてんのか…!」


 だが、竜水はそれを全て避け切った。後ろから放たれた風刃もするりと避ける。


 最後に圧を込めた一撃を放つと、竜水はシミターでそれを受け、その威力を利用して後ろに飛んだ。


 そして、俺と竜水は奇しくも同時に地面を蹴って加速した。俺は全力で強化した足で、竜水は見た目素のままで、一歩、二歩で数十mを移動し、地面を踏み砕き、足場にした遺跡を破壊しながらぶつかる。


 舞台のあちこちで火花が散り、衝撃が響き渡った。


 地面を蹴り砕いて方向を制御、竜水に対してフェイントも交えた斬撃を繰り出す。刀がシミターとぶつかり、俺はあまりの威力に後ずさる。


 これ、ステータスでは完全に負けてるな。当然だけど…!







(凄いな…何が凄いって、防御が特にうまい…!)


 竜水は目の前の少年に対して、感嘆とわずかな嫉妬を感じざるを得なかった。


 ステータスも経験も上のはずなのに攻めきれない。それは偏に、圭太の受け流す技術が異様に高い事と、一手二手先を読む戦術眼の所為だろう。


 どれだけ強い一撃を放とうが、当たり前のように弾かれ、流され、受け流される。


 そして攻めようとすれば防御に回られ、少し引けば攻撃に転じられる。あまりにも自然に対応されるから、もはや心でも読まれてるんじゃないかと思える程だった。


(その上、あの強化魔法…器用な事するよね!)


 強化魔法と思われるエフェクトが描かれた刀を見る。あみだくじを引いたみたいなラインが引かれたソレは、刃の部分と峰の部分で、別々に強化されていた。


 刃の部分は堅く、峰の部分は柔らかく…日本人ならば誰もが知っている刀の基本構造を思い出して、竜水はただひたすらに感心する。


(そして、強化対象の切り分けが出来るってことは…彼の強化魔法は存在力の強化だ)


 強化魔法は、大まかに分けると汎用的なものか限定的な効果のものかで分かれる。そして前者の汎用的な強化魔法の大部分が存在力を強化するという効果だ。


 評価としては、大体どっちも長所と短所がある。具体的に言えば汎用的な強化魔法は使い勝手は良いが効果が薄く、限定的な強化魔法は使い勝手は悪いが効果が高い。


(でも、僕の中では圧倒的に汎用的な強化魔法の方が評価は高い!)


 理由は圭太が実践している。汎用的な強化魔法は、使いようによっては限定的な強化魔法の効果量に迫れる。


 圭太はそれを実践しているのだ。竜水は嬉しくなると同時に、油断ならない強敵だと更に再確認することになった。


(これは、流石に手の内を隠したままではいられないかな…!)


 竜水は笑みを深めて、シミターを握る手をさらに強く握りしめたのだった。






 


 竜水の足元が爆ぜ、更に一撃。二撃。三撃目。刀を全力で強化し、受け流しを狙うが威力が高すぎて衝撃が突き抜けてくる。斬り払って後ろに下がり体勢を立て直し、もう一撃を今度は横に跳んで避ける。


 一閃。それを読んでいたかのような竜水の一撃が見舞われ、俺は後ろに弾き飛ばされる。


 足から魔素が噴出する。俺はそれを片手で押さえて刀を構え直した。


「今のも避けられるのか。ステータスに差がある中でここまで食い下がられるとはね…ちょっとプライドが傷ついたかな」

「…それにしては楽しそうだな」

「ああ、楽しいよもちろん!そしてこれからはもっと楽しくいこう。さあ、正真正銘本気でいくよ…!」


 竜水はそういうと、腰を落として刃を空に向ける独特な構えを取った。構えを取った…たったそれだけなのに、俺の生存本能がけたたましく警報を鳴らした。


 上段からの一撃が放たれた。俺はそれを受けようとして、すぐさまやめて刀に風刃を付与して流そうとする。風の奔流がぶつかったのは、炎…否、竜のアギトを象って、シミターにまとわりつく熱の塊だった。


 竜と来て炎となれば、あれは恐らく『ドラゴンブレス』の一種なのだろう。モンスターであるドラゴンの吐息は魔法そのものらしく、冒険者の一部にも数は少ないがドラゴンブレスに関連する魔法を使う者がいる。


 一時期その名前の派手さからドラゴンブレスを使える冒険者がスターのような扱いを受けていたりと、知名度はかなり高い。俺でも知ってるくらいだ。


 効果は個人によって多岐にわたるが、まあ大体は炎よりもずっと高温だったり、生き物のように動いたりと厄介な事この上ない。


 背後に吹き飛ばされる。否、何とかそれだけに抑えることが出来た。


 しかしどうしたものか。どう考えても不利過ぎる。対抗手段が【風刃】による刀への付与しかないが、それはあまりにも燃費が悪い。


 …いや、その為の魔力操作だろう。弱気になるな。やるしかない。


 俺は付与した風刃を抑えて、風の流れを把握して抑えた。そして必要最低限の風を纏わせて安定させる。


「へえ!君も似たようなことが出来るのか!」


 そう言いながら、竜水が斬撃を放ってくる。


 俺はさらにその炎の流れを、目を強化して出来る限り読み取って風で受け流す。爆炎が巻き起こり、俺の周囲を焼き尽くした。そして刀とシミターが素肌同士でぶつかり合い、周囲に暴風と大量の火の粉が巻き起こる。


 当然それも受け流して、俺は付与した【風刃】をほぼゼロに抑えながら足元に風の流れを集中させて、爆炎も掬い取る様に操って壁にし、滑るように竜水の背後に移動した。


 そしてカウンターの一撃を背後から放つ。竜水はそれを、背中に回したシミターでガードした。


 ええい、マジで…もう、ズルだろそれ!


「勘が驚くほど良いようだが、それもスキルか!?」

「っ、はは、いや、勘が良いだけだよ!」

「嘘つけ!」


 次の瞬間、俺と竜水は滑るように会場を移動しながら風と炎の刃をぶつけ合った。凄まじい速度で打ち合い、火災旋風と火花だけで出来た巨大な花火が所々で弾けまくる。


 ―――軍配が上がったのは、俺だった。


 ついに刀が竜水の剣を弾いた。流れるように次の一撃を準備する。放つのは首への横なぎの一撃。入った、とそう思った。確信した。それが悪かったのだろうか。


 竜水が、それよりも早く、先ほど見た、刃を空に向ける独特な構えを取っていた。その目を見てぞっとする。


 すぐさま準備を中断。刀を下ろして居合の構えを取ろうとする。


(遅かった!)


 間に合わない。俺は鞘に納めるのを諦めて咄嗟に【風刃】による加速を使用。魔力を放出して、足の裏を地面に食い込ませた。


(使うしかないか…!)


 正真正銘、最後の奥の手を切る。


 俺は【強化】を走らせる。すると、これまでの強化とは比べ物にならない程の変化が俺の身体に生じる。全身に幾何学模様が浮かび上がったのだ。まるで回路のように脈動し、俺の身体能力が一気に引き上げられる。


「一の剣―――――【九頭竜断ち】」

「【一閃 平一文字】!」


 高速の一太刀が斬り下ろされる。そしてそれに付随して八つの斬撃が同時に放たれる。合計九つ、まるで九体の竜の顎のような剣圧を放つ絶技に対し、俺は死に物狂いで叫んでいた。


 そして、【一閃】と竜水の【九頭竜断ち】がぶつかり合い、衝撃に吹き飛ばされ、俺は弾丸と化して瓦礫と化していた遺跡に突っ込んでいた。


「…くそっ、やられた…」


 わき腹の部分に大きな切れ込みを入れられ、そこから魔素が噴出している。片手で押さえながら瓦礫を退かして這い出る。


「…はははっ、これも、防ぐか…ああ、危なかった。首がまだヒリヒリしてる…!」

「…ハア、ハア」


 冷や汗を流す竜水に、俺は無言で笑みを浮かべて刀を構えた。


 幾何学模様はすでに消えていた。


 今のは俺の本当の奥の手。『ステータスそのものの強化』だ。


 当然これも修行の合間に身に着けた。


 というのも、魔力操作の練習で使っていたのが強化の魔法だったのだ。


 強化のラインで図形を描いたりして色々遊んでいたら、ある時二の腕に付けられた謎の痣…今は神の字に塗りつぶされているが、そこに強化の線を伸ばすと、そこがまるで穴のようになっていて、中に魔力の線を入れられるようになっていることに気が付いた。


 当然、『中』というのが体内そのものを指すわけではない。そこは…分かり辛いことを承知で言えば、霊魂やら精神体やらの…そういうスピリチュアル的なものへの入口だったのだ。


 イメージとしてはぽっかりと穴が開き、それが延々と深淵に向かって続いているようなものだ。


 何とか魔力の線で辿ってみると、最終的に一番奥に光る何かを見つけることができた。痣から伸びる禍々しい何かもその光に向かっていたが、途中で止まっていた。


 その光の中には、何か巨大な力の塊が隠れていた。


 当然、そこまで来て何もしない訳がない。俺は恐る恐るとだが、強化の線を使ってその光に干渉しようとして―――その結果できるようになったのが、先ほどの強化…すなわち、【ステータスそのものの強化】だったのだ。


 全身に謎の幾何学模様が浮かび上がり、俺の戦闘力を大きく向上させる。そう聞くと随分と地味に聞こえるが、実際に何が起きているかというと、ステータス自体を底上げするというとんでもない能力だった。


 ステータス自体を底上げするので、当然全てのステータスが強化される。近接も魔法も技巧も敏捷も、あらゆる能力がだ。


 その上で、スキルの火力も大きく跳ね上がった。ここまで来るともはや覚醒である。スーパー●イヤ人並みの変化だ。


 この結果には個人的に物凄く大きな成果だと思ったが、これが痣由来のものだと分かると即座にリリアや陽菜、サルサさんにそれはもう怒られた。


 あまりにも軽率よ、心配しましたどうしてこんな事を、リリアはケイタをそんな子に育てた覚えはありません!等々、協会にまで連れて行かれて検査までさせられたが、身体には特に問題はなく、結局この現象が何なのかは最後まではっきりしなかった。


 判明したのは、この【ステータス強化】で具体的に俺に何が起きているのかというと、強化している間、俺のレベルが一時的に上がっているという事だった。


 一応、一時的にレベルを一つ上げるスキルというものは存在する。物凄く貴重で希少なスキルで、もし判明したら有名クランがこぞって勧誘するであろう超レアスキルだ。


 俺はどうやら、それを【強化】という魔法の応用だけで出来るようになってしまったらしい。


 鴻支部長は、『その幾何学模様は、恐らくステータスが可視化したものなのではないか』と推測していた。


 そもそも、ステータスは神から与えられたもので、これ自体がオーバーテクノロジーのようなものだ。魔力学が発展している今この時においても、ステータスは観測すらできないブラックボックスなのである。


 ただ、推測はされていた。ステータスはまるで外部装甲のように冒険者の肌を覆い隠しているのではないか、という見方だ。


 その考え方は正解だったのかもしれない…というのが分かる貴重な現象だと言われた。


 更に言えば、それこそが件の『魂』なのではないか、という話まで出てきたが…それに関しては可能性は低いらしい。


 むしろ、俺が見つけた塊は魂ではなく、『ステータスのコア』の様なものである可能性が高いという事と、古代の魔術であるとされている謎の痣を経由することでステータスのコアを発見できたということは、ステータスそのものが、魂に関連する一種の古代の魔術の一つなのかもしれない、という事だった。


 まあ、そう簡単に魂が見つかるなら、古代の魔術はここまで正体不明にもなっていないだろう。


 さて、そんな『ステータス強化』だが、まず魔力の消耗は【強化】がベースの為そこまで多くはない。ただしその効果量は【強化】のそれと比べると数倍以上という燃費の良さをしている。


 問題は、だからと言って何も消費していない、という訳ではないという事だろう。


 恐らく魂にまつわる謎のエネルギーが消費されているのだろう。『ステータス強化』は継続使用、連続使用も含めて一分ほどしか続かず、それ以上強化しようとすれば、魔力は有り余っているのに凄まじい倦怠感に襲われ、実質戦闘能力を失ってしまう事になる。


 余裕を見ても40秒も使えない。それがこの『ステータス強化』の大きな弱点だった。


 さて、これは本当は使いたくなかったが、勝つには使うしかなかった。そして、これで奥の手は本当の最後だ。後は出揃ったカードで戦うしかない。


 魔力も風刃の連続使用と【一閃】で使ってしまってほぼからっけつだし、どうしたもんかな。


 大会での報酬は複数用意されており、1位から順番に取っていく形式となっている。


 竜水がピンポイントで《ダンジョンの楔》を選ぶ可能性も無くも無いけど、相談すれば話自体は聞いてくれそうだし、交渉もできなくはないだろう。二位でも十分な結果だといえる。


 ならばここで満足できるかというと…それはない。むしろ勝つ気しかない。


 ここからどう勝機を掴む?


「ふうっ…さて、追い詰めたぞ。逃げに徹すればHPはどんどん減っていくし、ちょっと攻めてみれば簡単に斬れそうだ。どっちに転んでも僕が勝ちそうだけど…君はここからどうする?」

「…逃げに徹する?そんなつまらない方法で勝ちを拾いに来るような奴じゃねえだろ、お前は」

「ははっ、もちろん!」


 竜水がシミターを構える。…ドラゴンブレスは使わないのか。意外と魔力消費が激しかったのだろうか?ブラフのことも考え頭に入れておくことにする。


 ともかく選択肢は一択だ。俺は刀を構えて立ち上がる。


 HPの減りは徐々に進んでおり、もう後十数秒ももたないだろう。


 なら、その間に勝負を決めるしか――――ない!


 俺はステータスを強化して全力で竜水に切りかかった。そして流れるような斬撃を見舞う。


 『流水の理』を、防御に使わず攻撃に使う、一転攻勢の戦法。一撃でも貰えば終わりだが、どうせ背水の陣だ。事ここに至っては、攻める他ないのである。


「「うおおおおおお!」」


 互いに負けじと雄たけびを上げ、筋肉を膨らませて全力の打ち合いを始める。


 刀でシミターを弾き、そして竜水そのものを後方へと押しやる。竜水は回転しながら宙に跳び、シミターを後方に構える。俺は一気呵成に飛び込むが、それこそ罠だった。


 竜水の背に隠されていたシミターに、ドラゴンブレスが付与されていたのだ。誘い出された。


 真正面から行くしかない。そう思い、俺は一切速度を落とさず流水の懐にとびこもうとして…そして、咄嗟に地面を蹴る直前に、『ステータスの強化』を辞めていた。


 スピードがガクンと落ちる。竜水の放つ斬撃の打点がズレ、俺はそれを刃の上で滑らせ、そして一閃。


 竜水の首を切っていた。


(…勝った…?)


 すれ違いざまに上空へと出る。次の瞬間、どす、と俺の胸に衝撃が走った。


 見てみると、シミターが突き出していた。後ろを見ると、首からHPを漏出させながらも、シミターを投擲した竜水の姿があった。


 俺と竜水は同時に舞台へと消えていったのだった。




『なんと、なんと最後は相打ちだあああああ!このような熱い戦いを、果たして見たことがあったでしょうか!?まさしく最終決戦にふさわしい、迫力満点の試合でした!』

『カミノ選手がまたやりましたね。彼はピンチになるほど凄まじい打開力を見せてくれます。また、王選手もやはり強かった。彼らの実力は、もはやプロ並みです。今後もまだ成長していくかと思うと、怖くすらありますね』

『圭太ー!よくやった、お前の勝ちだああああ!』

『竜水、良い戦いだったぞ!勝利はお前のものだあああ!』

『『ああ!?』』

『ちょっと、そこ、誰かマイク切ってください!』


 解説席でどたばたと何やら騒ぎがあったが、すぐに実況が声を入れた。


『勝敗の行方は、どちらが先にHPを消失させたかの記録を見るまで持ち越しとなりました。ただいま準備中ですので、今しばらくお待ちくださいませ』


 しばらくして、ついにモニターに結果が映し出された。


『結果が出ました!勝者は―――王竜水選手だあああああ!ついに、ついに、最強のルーキーが決定しました!しかし聞いていただきたい!カミノ選手との差はなんとコンマ0.6秒ほどのみ!つまり、どちらが勝ってもおかしくは無かった!会場の皆様、熱い戦いを見せてくれたこの男たちに、どうか万雷の拍手を!』


 会場が爆発した。その様子を、俺は転移先の小部屋の中から眺めていた。


 …負けちゃったかぁ…。


 俺はそのまま後ろに倒れ込んで、小さく息を付いて歓声に耳を傾け、目を閉じたのだった。

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