8:影響 ※掲示板回有

 眼下で倒れ伏し、その場から消える大門寺弘雷の姿を見て、志島が立ち上がった。


「…嘘でしょう…ッ!」


 解説席で、志島ががびーん、と頭を押さえて驚愕のポーズを取った。そんなあからさまなリアクションをしてしまう程、これは予想外の事だったらしい。


 それを見て、ヴォルフが腹を抱えて笑う。


「はー、面白!ショック受けちゃってまあ。何が『お互い恨みっこ無しですよ』だ。負ける事なんて想像すらしてなかったくせに!」

「いや、だって!実際明らかに最後まで優勢だったじゃないですか!ああもう、どうしてあからさまな誘いに乗ってしまったのですか、大門寺先生!」

「はっは…!彼の御仁も、心まではいつまでも若かったように見える!もしくは、若き剣士の挑戦に正々堂々受けて立ちたかったのだろう…いやあ、しびれる最後だったな…!」

「最後の攻撃、よく見切りましたね。いえ、見切ったというより、あれは…」


 ルーファは首を横に振る。


「いえ、ともかく、これは予想外の駒が現れたものです。まさしくダークホース…誰もが想像していなかった刺客」

「…ええ、そうですね。認めましょう。彼はルーファさんの言う通り、注目すべき選手…いや、冒険者です」

「おっ、もしかして疼いたか?鍛冶師としての本能が…やめとけやめとけ、どうせすでに他の鍛冶師に唾を付けられてるよ」

「な、何を馬鹿な事を!私とて一級鍛冶師の端くれ。節操もなくルーキー冒険者に武器を打ちたくなるなど、ましてや腕が疼いたなど、あり得る訳がないでしょう!」

「へえへえ…にしてもカミノか。狐面の正体見たり、だな。…ん?」


 にやにやしながらも、カミノを視界に捉えるヴォルフ。その時だった。冒険者部とやらがカミノの勝利をたたえ、それに対してカミノがバッサリと一蹴したのだ。


「ぶはははは!あ、アイツ!アイツ絶対私のクランに入れるわ!マジでほしい!」

「全く、衝動に身を任せた行いはいつか自分に返ってくるというのに…若いですねえ」

「だが、その豪胆さは良し!願わくば、彼にはぜひ最後まで勝ち残り、竜水としのぎを削ってほしいものだ」


 会場を後にするカミノに対して、口々に評価を述べるプロ冒険者達。


『…え、えー、ちょっと予想外な事になってしまいましたが!まだまだこの先も試合は続きます!あらゆる期待と感情を背負い戦う選手たちに、この先もどうぞ応援と喝采を!』


 静寂に染まった空気を立て直すように実況者がまくし立てる。ざわざわと会場に喧騒が戻ってくる。


「…それにしても」

「…うむ、喋らんな」


 ここにきて、全員は一切喋る事のない冒険者に目を向けた。


「…ふっ」

「…む、ムカつく…!」


 ユーゴはニヒルに笑い、志島は額の血管を浮き出させたのだった。


 





【集え】第6回近接術大会実況スレ【ツワモノ共よ】


356:名無しがお送りいたします

うおおおおおおお!お前狐面だろ!カミノお前狐面お前お前お前!


357:名無しがお送りいたします

>356 落ち着け

カミノォ!お前の事を待ってたんだよぉ!


358:名無しがお送りいたします

狐面:刀使い。強化魔法持ち。見えない斬撃を放つスキル持ち

カミノ:刀使い。強化魔法あり。斬撃については解析班が解析中だが高確率で所持


お前お前お前!狐面お前!


359:名無しがお送りいたします

マジで高校生じゃねえか!しかも大門寺弘雷をやりやがった!超新星なんてもんじゃねえぞ!


360:名無しがお送りいたします

【朗報】誰も注目してなかった首狩り君、今大会一のダークホースだった件www【驚愕】


361:名無しがお送りいたします

>360 既にカミノ専用スレが出来てるんだよなぁ

真宵手高校で狐面名乗ってる奴いたけどアイツじゃなかったんけえ!正直今年一番の衝撃なんだが!?


362:名無しがお送りいたします

カミノが元ニートワイを助けた高校生や!似てる似てる思ってたけどやっぱそうやったんやな!うおおお、密かに応援してたけどこれからはしっかり応援するぞおおお1


363:名無しがお送りいたします

>362 似てるって思ってたんなら教えとけよ!報連相しっかりしろやニート豚ゴラァ!君仕事できないねって言われないィ!?


364:名無しがお送りいたします

>363 元ニート定期

いやだって他の生徒が狐面だって言ってたから、ほなら俺の記憶間違いなのか?とか自分を疑う事になってもおかしくないやんけ。ワイ自己肯定感皆無の元ニートやぞ


365:名無しがお送りいたします

【悲報】自称狐面君の動画を出してたアカウント、荒らされまくる【荒らしはやめようね】


366:名無しがお送りいたします

>365 さっきからちょくちょく出てる自称狐面って何のこと?


367:名無しがお送りいたします

>368 自分の事を狐面だって言って匂わせてた奴が真宵手高から出てきてたんだよ。確か田淵だか田口だか言う奴で、女子たちと一緒に写真撮ったりお礼でもらった品を見せびらかしたりしてる動画を、その田口の知り合いがSNSに投稿して一時期話題になってた。

まあ実際に狐面に助けられた人たちがこぞってこいつは違うと言い張ってたから、若干炎上してその後話題に上がらなくなったんだけど…マジで偽物だったとはな


368:名無しがお送りいたします

怒りで手が震えるんだが。そのアカウントが狐面への支援用として開いてた欲しいものリストやファンボックスに普通にお金と商品送ってたんやが、これって詐欺で訴えて勝てる奴?

普通人の感謝を騙して搾り取る奴おる?高校生でも許される事じゃないだろ


369:名無しがお送りいたします

>368 本気で訴えたいなら落ち着いて弁護士に相談してみろ。多分イケるはず。

っていうかその辺はスレ違いになるから、こっち>>【偽物】偽狐面に騙された被害者の報告スレ【注意】でやれ。わざわざ建ててやったんだから感謝しろよ


370:名無しがお送りいたします

>369 ありがてえ

しっかり事実確認するべきだった。命を助けられた恩を返したいばっかりに盲目的になってたわ。それはそれとして田口やら田淵やらは絶対許さんが


371:名無しがお送りいたします

【速報】SNS、たった十数分で狐面がトレンド入りする


372:名無しがお送りいたします

ついでに真宵手高校冒険者部もトレンド入りしてるわwwおめでとう部長!これで有名になれるね!


373:名無しがお送りいたします

あれよく分かってないんだけど、結局部長氏はカミノに何をしたの?


374:名無しがお送りいたします

カミノの言葉をそのまま抜粋すると、『冒険者部には入るつもりはそもそも無かったのだが、急に部長に話しかけられて一方的に『雑魚はいらん』宣言をされた』ってことでしょ?


375:名無しがお送りいたします

だとしたら部長氏、どうしてあんなに横断幕貼って派手に応援してたんだよ。面の皮どうなってんねん…


376:名無しがお送りいたします

ワイ真宵手高生徒。知り合いの冒険者部に話を聞くとどうやらこうらしい。


最初の頃「見るからに地味やし雑魚やんけ。どうせ冒険者部に入りたがってるだろうし釘刺しとこw」

最近「狐面ってやつが真宵手高校の生徒の中にいるらしい。とりあえず冒険者を片っ端から勧誘して探し出して、絶対に狐面を我が部に入れるぞ!」

今「選抜で見て分かったけどカミノが狐面やんけ!応援して事実入部させたろ!」


ってことらしい。


尚生徒内では、普段学校で威張り散らかしてる一部の冒険者部部員に対してうっ憤が溜まっていたらしく、カミノのファンになる生徒が続出中


377:名無しがお送りいたします

>376 どうでもいいけどもし君がもし本当に高校生なんだったとしたら、こんなスレで内部事情を話さない方がいいよ。

そして情報が本当だったとしたら、因果応報で草


378:名無しがお送りいたします

>377 ネットリテラシー、よし!

まあ、若さゆえの過ちってことで許したれ。自分が賢いと勘違いした馬鹿が馬鹿して痛い目見ただけみたいだし


379:名無しがお送りいたします

カミノの返しが秀逸すぎて好き。一気にファンになったわ


380:名無しがお送りいたします

そ れ な


381:名無しがお送りいたします

カミノの次の試合が待ち遠しい






 巨大な古い遺跡群が延々と続く中級ダンジョンにて、要を含めた冒険者パーティー『ブルーレイク』の面々は安全地帯にこしらえた一時拠点で休息を取っていた。


 既に目標のボスは討伐していて、今は帰路についている途中だった。後1,2週間ほどでダンジョンを脱出できるだろう。


 本来なら祝勝ムードに包まれていてもおかしくない状況だが、そこは険悪な空気に包まれていた。


 ただ一人、要だけが平気そうにしている。そんな要に、黒髪のメンバーの1人が声を上げた。


「…なんで教えてくれなかったの?」

「何を?」

「次のパーティーに、男がいるってことを!」


 空気が険悪になっている原因はそれだった。


 要がパーティーを抜けると言い出したのが8月の中旬程の事。最初はメンバー全員が別れを悲しみ、要が新しい歩みを進めることを祝福していた。そしてそれ以降、ブルーレイクは要が抜けることを前提に動いてきたのだ。


 そんなブルーレイクに衝撃が走ったのは、要を連れた最後のダンジョン攻略が始まった直後の事だった。


 要が男が含まれたパーティでダンジョンに潜ろうとしている姿が盗撮され、拡散されていたのである。


 雰囲気は一気に険悪になった。配信や動画ではいつも通りに振舞ってはいるが、裏ではこの通りの様子だった。


 軽い注意喚起をしてはいるものの、今の所特に効果は無く、いわゆる荒らし行為が頻発している。


 そして、ボス戦が終わった帰り。ついにメンバーの一人がうっ憤を爆発させた。


「これ、このカミノって人がその男なんでしょ?寄りにも寄ってどうしてこんな、目立つような男の所にいくのよ!」


 叩きつけるようにそう糾弾するメンバーに、当の本人がそちらに顔を向ける。


「逆に聞くけど、そんな事、どうして教えなきゃいけないのよ」

「分かるじゃん!うちらの立場を少し考えたら、それがヤバい事だってことくらい!見てよ、コメント凄い荒れてるじゃん!男絡みの事は皆気を付けてたのに、どうして要はそうしてくれなかったの?」

「気を付けてたわよ。ただ、盗撮はどうしようもないでしょ」

「…いつも思ってたけど、その投げやりな感じ、うざいから辞めてよ。要、人気あるんだから、こんな事したらこうなることくらい分かってたでしょ?」

「そりゃまあ、悪いなとは思うけど。でも、それじゃあどうしろって言うの?」

「どうしろって…それ以前に、普通男がいるパーティを次に選ぶ!?私達の事を考えたら、ほとぼり冷めるまで待つでしょ!?」


 そんな言葉に、要は目を吊り上げた。


「どうして私がそんなことしなきゃいけないのよ。そもそも、私が全部悪いって本気で思ってるの?」


 そんな要の言葉に、他のメンバーも表情を険しくして、静かに尋ねた。


「…それって、どういう事?」

「このパーティーが方向転換して、動画配信し始めた時に、私は言ったわよね。私には私の目的があるから、いずれはこのパーティーを辞めるかもしれない。それに素直にそういうのが煩わしいから、配信とかするつもりもないし、動画にも出ないって。それを勝手に映して動画に出したのはどこの誰だったかしら」


 要がそういうと、それまで要を責めていたメンバーが狼狽えた。


「そ、それに関しては、謝ったじゃん…それに、わざとした訳でもないし…」

「そーね。それ以降もちょくちょく私が動画に映るようになったし、本当にわざとじゃなかったのかは甚だ疑問だけど、ソレに関しては一度は許したわ。でも、それで私は認知される事になった。私のミスではなく、そちらのミスで。で、宣言した通り辞める頃になって、『人気になったんだから、気を使え』って?随分と虫のいいことを言うのね」

「それは…」

「私は目的のために動いているの。次のパーティーに移るのも、目的のためなのよ。私は宣言通りにしか動いていないわ。確かに盗撮されたのは私が迂闊だったし、ブルーレイクにもあちらのパーティーにも迷惑をかけたと思ってる。でも、そもそも私が注目されて、盗撮されるような状況にしたのは貴女でしょ?責任転嫁はやめてほしいわね」

「…でも、それでも人気になったのは、事実じゃん!だったら、人気になった人にふさわしい動きをするもんじゃないの!?有名税って言葉知ってる!?」

「知らないわそんなもん。少なくとも、私はそんなものビタ一文も払うつもりないわよ。だって、人気になるつもりなんて一切無かったんだから」

「っ、それ、配信してるうちらの事馬鹿にしてるの!?」

「えっ、どうしてそうなるの?嫉妬?」

「っ…!」

「二人とも、ちょっと落ち着きなさいよ…!」


 黙って聞いていた青髪のメンバーが、流石に止めに入る。黒髪は顔を真っ赤にしているが、立ち上がりかけていた椅子に座り直した。


「リコ、要の言うことも最もだと私は思う。でも要も、あまり煽らないで。私達は冷静に話し合うべきでしょ?」

「私はそうしようと努めてはいるけどね」

「…ごめん」


 青髪は、ため息を吐き出して、事態を静観し続けているリーダーに目を向けた。


「…コムギも、そろそろ何か言ってよ。こういう時のリーダーでしょ?」

「…」


 コムギ、と呼ばれた少女は、その名の通り黄色がかった麦色の髪をしていた。コムギは閉じていた目を開ける。


「…要は、目的のためにパーティーを移るんだよね?件の男の子と付き合ってるから、とか、そういうんじゃなく」


 コムギの言葉に、要は眉をひそめた。


「…ふーん。そういう事聞いてくるのね。私の事情を知ってたら、そんな発想出てこないものと思っていたけど」

「ごめん。でも、それが事実なんだね」

「そうよ。アンタが諦めた事を、私はまだ諦めてない。それだけなのに、どうしてこうなるのかしら」

「…本当にごめん」


 そんなやり取りに、二人のメンバーは入る事が出来なかった。要とコムギは古い知り合いで、二人にしか分からない何かがあるというのは薄々感じてはいたが、中身を知る機会は最後まで訪れることはなかったのだ。


 コムギは目を閉じて一拍間を空けた。


「つまり、要はただひたすらに自分の目的を果たす為にパーティーを移動した。動画に映ったのもこちらの不手際なら、要は別に悪い事なんて一切してないよね。なら、それをそのまま視聴者に伝えて、理解してもらうしかないんじゃないかな?ちゃんと説明して、後はほとぼりが冷めるまで待とう。というか、それしか道はない」

「…リーダーが、そういうなら…」

「了解。なら、告知しておかないとね…」


 良くも悪くも、空気が動き出した気がした。要は小さく息を付く。


「要も、応援してくれたファンがいたことは事実なんだから、最後に挨拶くらいはしてもいいんじゃないかな?」

「勝手に動画に出されて、勝手に応援されてるだけでしょ?挨拶なんてするつもりないわね」

「とことん媚びないねえ。利益さえあれば媚びまくる性格の癖に」

「え?それ誰の事?」


 多少空気が軟化し、話し合いが始まる。要はふてくされたように肘をついた。


(女だからとか、人気者だからとか、男がどうとか処女性がどうとか…くだらなすぎ)


 目を閉じて、今のパーティーメンバーを思い浮かべる。


(迷惑かけちゃった…圭太に幻滅されてなきゃいいけど…)


 要は密かにため息を飲み込む。


(とりあえず、盗撮犯は絶対に許さない)


 そして、怒りと共に今は見ぬ盗撮犯に殺意を滾らせたのだった。





9:影響





 控室から宿泊施設へ戻ると、大門寺が廊下で壁に背を付けて突っ立っていた。俺を見るなりにっと笑い、身体を向けて手を挙げてくる。


 俺は怪訝に思いながらも、会釈した。


「ふっ、まだ若いというのに慎ましいものだ。敗者に対して頭を下げるなんてな」

「…いや、ここはリングの外ですから」

「ククク、止せよ敬語なんて。試合中の肝の太さはどこに行った?」

「テンション上がってたんですよ…それに、俺お爺ちゃんっ子なので、基本年長者は敬うのが当たり前というか」

「…ふむ、ちと寂しいが、そこまで言うなら退くとしよう。寂しいがな。さて、よくぞ我が奥義を打ち破った。賞賛を直接送りたくて待っていたのだ。そして、礼も言いたい。新たな壁を見せてくれて本当にありがとう。お陰でもっと強くなれる道を見つけることが出来た」

「…あれ以上強くなるって…レベル上げですか?」

「もちろん違う。剣士としての話だ。ワシの剣術はもっともっと強く、鋭くなるぞ!その時は、是非また仕合ってくれ」

「…喜んで」


 握手を交わす。


「それから、これも渡しておこう」

「名刺?」

「うむ。表にはワシが営んでおる道場のホームページのURLがある。剣の腕を磨きたいと思った時は連絡してくれ。君ほどの者ならすぐに受け入れよう。そして、裏のQRコードを支援デバイスで読み込むと、フレンド登録ができる。カミノ、君とは冒険者としても共に戦いたいものだ。何かあれば気軽に連絡してくれ」

「…ありがとうございます」

「ふっ…竜水殿にはお前からよろしく伝えておいてくれ。…ではな!」


 髭面を笑みで持ち上げて、呵々としながら背を向けて手を振ってきた。俺はその背中を見送って、名刺を懐に入れたのだった。


 さて、今日はスケジュール的に、午後にもう一戦あるはずだ。試合の結果次第だが…もしかしたら、篠藤の奴と当たる事になるかもしれない。


 やけに縁のある奴と当たるが、流石にこれが困難って訳じゃないだろうし…普通に運が悪いだけか。


 さて、試合まではなるべく休息を取りながら過ごそう。


 ラインを開くと、当然のように大量の通知が来ていた。俺はそれらの中から、知り合いのものだけ選ぶ。


 まず黒永さんから大興奮のメールが来ていた。俺の試合を見てインスピレーションが沸いたらしい。新しい刀を作る際は絶対自分に!との事だ。


 次に綾さん達からだが、なんでも今は大変なことになっているらしい。というのも、田淵が嘘つきで、俺の功績を奪っていたという事実がかなりの影響を与えているようだ。田淵の周囲を固めていたメンバーが酷く居心地悪くしているようだ。


 坂本からはさらに、冒険者部への風当たりが強くなったと聞いた。彼らは真宵手校で最も大きな組織だったし、かなりの権力と発言力があった。故に学校内でかなり調子に乗っていたそうだが、それに対して不満を持っていた少なくない生徒たちがかなり活気づいているそうだ。


 そういや、疲れていてあまり覚えてないけど、そんな事もしたな…間先輩には悪い事したか?罪悪感を感じるっちゃ感じるが、恨むなら馬鹿な事をやり始めた部長を恨んでくれよ。


 しばらく待っていると、陽菜から通話がかかってきた。


『圭太君!すっごくかっこよかったですよ!』

「ありがとう、陽菜」


 カメラに映るなり輝く笑顔を見せてくれる陽菜に、俺は素直に笑顔を浮かべる。


『圭太、よく頑張ったな。あの大門寺弘雷に打ち勝つなんて凄い事だぞ!』


 今度は爺ちゃんが顔をにゅっと出してきた。


「爺ちゃん、大門寺さんを知ってるの?」

『俺と年が近いから、そりゃ知ってるさ。俺が趣味で剣術を習っていたころには既に、天才剣士現る!って話題になってたもんだ』

「有名な人だったんだ。道理で強かったんだな。正直、最後の賭けに乗ってきてくれてなかったら俺が負けてたよ」

『だが、結果的に勝ったのはケイタだヨ。おめでとウ!』

『ケイタ、強い!おめでとう!』

「鬼月、ありがとうな。あと、リリアも。リリアのお陰で勝てたようなもんだ。本当にありがとうな」

『えへへ、どういたしまして!』


 その後通話しながら試合を観戦していると、篠藤が勝ち上がったため俺の次の試合の相手は篠藤で確定してしまった。


 これには爺ちゃんと婆ちゃんも若干微妙な顔だ。


『元友達だったとはいえ、縁切りを宣言してきた無礼者です。圭太、遠慮せずぶった切りなさい』

「分かってる」


 婆ちゃんが眉の間にしわを作りながらそういうので、頷いておく。当然、遠慮するつもりは一切無い。ただ敵を斬るだけだ。


 と、ここでドアがノックされた。俺は一声かけて、通話を繋げたままスマフォを置いて玄関まで行ってドアを開ける。


「申し訳ございません、カミノ様。篠藤様がどうしてもカミノ様とお会いしたいという事で…あの、都合が悪ければこちらでお引き取りいただくよう言いますので…」


 と、職員が凄まじく申し訳なさそうな顔でそう言ってきた。


 無視したいが、俺に何の用なのか気にならないと言ったら嘘になる。俺は少しだけ考えて、そして扉から出たのだった。

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