うちの畑にダンジョンができたので冒険者になってみる~気が付いたら見下してきていた冒険者を実力でぶち抜いたり美少女婚約者が出来たりしていた件
たうめりる
序章
1:プロローグ ダンジョンに向けて
ある朝起きたら、家の畑にダンジョンができていた。
夏休みも始まった直後の事である。
「うわああああ!俺の可愛いトマトちゃんたちがあああああ!」
とムンクの叫びみたいな迫力で地面に膝を突き嘆くのは俺の爺ちゃん。
俺、神野圭太は爺ちゃんと婆ちゃんと三人暮らしだ。
その爺ちゃんは若い頃に金を稼ぎまくり、今は田舎に家を建てて畑を趣味で育ててスローライフを満喫している所だった。
そのはずだったのに、だ。
畑の片隅、最も野菜が植わっていた区域だったそこはこんもりと人一人分くらいの高さの山ができていて、中は洞窟となって奥へと続いていた。
教科書にも載っている。現在人類が糧を得ていると同時に、頭を悩ませている不思議な存在。ダンジョンである。
「あらあら…困ったわ。これどうしたらいいんでしょうね」
「どうしたもこうしたもあるか!今すぐ中にいる奴らに立ち退きを要求してくる!」
「お爺さんったら、もう若くないんだから無茶はおよしなさいな」
「いだだだだ!わ、分かった、婆さん!分かったから、それ耳って言うよりも腰が痛いから!」
困った顔を浮かべる婆ちゃんだったが、突貫しようとした爺ちゃんの耳を引っ張り上げた。そのお陰で無茶な体制になった爺ちゃんは腰にダメージを受けた。
「はあ、しょうがないから、俺が冒険者免許取ってどうにかしてみるよ」
仕方なく俺が手を上げてそう言った。
高校1年生。俺はもう冒険者免許が取れる年齢だ。実際、クラスメートの何人かは既に冒険者免許を取っていて、学校も休んで冒険に明け暮れている。
ちなみに俺は学校ではボッチだ。最初の頃は幼馴染や中学から続く悪友がいたりしたが、二人とも冒険者になって忙しくなり、俺と会話する機会はめっきり減った。
「なんだと!いやダメだ圭太!そんな事可愛い孫にさせられるか!」
「あら、貴方も男(おのこ)なのだから、一度剣を抜けば後へは引き返せませんよ。大丈夫なの、圭太」
「玉肌に傷が一つでもついたらどうなる!お婿に行けなくなるじゃないか!」
「貴方にその覚悟があるのなら私もお爺さんも引き止めはしません。本当に頼んで良いのね?」
喚く爺ちゃんを婆ちゃんは耳を引っ張って黙らせた。そして真面目な顔で覚悟を聞いてきた。
「ダンジョンは魔物を間引かないと氾濫するけど、冒険者を雇うと高いじゃないか。国に相談しても、土地ごと取り上げられそうだし、自分たちでできることは自分たちでやるべきだと思うんだ」
まあ、それだけじゃなく、冒険者になればお小遣いを1人で稼げるのではないかという浅ましい思いもない訳じゃない。冒険者って言うのにも憧れはあったし、いい機会だと思うことにした。
「俺の畑の為にそこまで…!孫の成長を見られて、爺ちゃんは、爺ちゃんは…!」
しかしそんな俺の本音とは裏腹に、爺ちゃんはむせび泣いた。
ごめんよじーちゃん。
1:ダンジョンに向けて
資格自体は簡単に取る事が出来た。中学数学レベルのテストと常識問題テスト、冒険者の知識のテストに合格することで資格を取る事は出来るのだが、一夜漬けで何とか行けた。それだけ簡単な内容だったのだ。
ダンジョンの発見届を出した後、手に入れた冒険者カードとスマフォ型の支援デバイスを持って、俺は街に早速必要なものを揃えに出かける。
家からバスで数十分で着く、俺の通っている高校もあるこの街は、ダンジョンバブルの波をもろに受け、田舎であるにもかかわらずかなり発展していた。
特に冒険者協会が存在する建物の周囲はショッピングモールが広がっており、様々な冒険者専用の店やダンジョンの特産品を扱う店が立ち並んでいて、一般人、冒険者両方が集まって賑わいを見せている。
俺はそこで、爺ちゃんから貰った軍資金と俺の貯金で武器と防具を購入することにした。
暑い日照りの中を移動してショッピングモールに入る。中は吹き抜けとなっており天井がある為日陰で多少涼しい。
更に、見つけた適当な武器防具店に入ってみると、ガンガンに冷房が効いた空気が俺を出迎えてくれた。
「いらっしゃい!お、お客さん初心者かい?今なら初心者ウェルカムキャンペーンでお安く買えるよ!」
中にいた若い女性の店員に話しかけられ、チラシを渡される。
何々…初心者限定で、一部の武器防具が2割引き、とな。
俺としては安くなるに越したことはない。貯金と言ってもバイトもしたことが無い高校生の貯金なんて高が知れている。
とりあえず見てみるか。
キャンペーンをやっている場所に行くと、確かに割引されていて他の場所よりも安く売っているようだった。
スマフォで相場を調べてみても、確かにお得。つまり悪くない。
俺はその中から武器と防具を選んで店員に声をかけた。
「お買い上げありがとうございまーす!」
武器は今一番人気の刀にした。本来の刀とは違い、冒険者用の刀は魔玉鋼というあらゆる面で刀を作る為に生まれてきたみたいな金属が使われており、丈夫で軽く、その上火力も出るという事で人気なのだ。
防具は服の上から取り付ける、簡易的な革防具だ。帽子、胸当て、籠手、足と要所要所を守ってくれる。
「…ねえねえ、神野君って冒険者始めるの?」
「え?なんで俺の名前を知ってるんですか?」
店員がこそっと耳打ちしてきて、俺は思わず怪訝な目を向けてしまった。すると彼女は「神野君もそういう冗談いうんだね!」と笑った。
「クラスメートの鈴野だよ。ここ家族で経営してる店なの…本当に知らないとか言わないよね?」
「あ、あー…もちろん冗談だよ、冗談…ははは」
鈴野?あー、確かに、いたようないなかったような。
ヤバい、気まずい。まさかクラスメートが店員をやっているとか思わなかった。というか、普通に年上のお姉さんだと思っていた。だってこの人、背が高いしモデルみたいな体形してるんだもの。
「誰にも言わないから安心してよね。顧客は大事にしないと!頑張ってね、神野君!」
ばちこん、とウィンクする鈴野さん。
「あ、うん…ありがとう」
と、予想外の出来事が起きつつ、俺はその店を出たのだった。
その後はいろんな店を見て回って、最終的にインナー用の服と靴、バックパックを買った。これで軍資金も俺の貯金も底を突いてしまった。懐が寂しい。
冒険者用具は他にも大量に存在する。例えば後ろを自動追尾してくるライトだとか、見た目以上に水を入れることのできる水筒とか。際物だと、ダンジョンの中から配信を行える配信セットも売ってあった。自動追尾ライトと同じように、自動で付いてくるカメラなどだ。
しかしどれもこれも高い。車一台買える程の値段はそこら中にあるし、家を買える程度の値段のものもちらほら見かける。
これじゃあ、俺の数万円の刀や防具が随分とみすぼらしく思えてしまう。数万円も十分高価のはずなんだがな。
スケールの高さに圧倒されつつも、こうして冒険への準備は着々と進んでいった。
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