第8話:お兄さんは狩り上手! ②
「ココ。この二匹はこの小屋に入るのか?」
「ハハ……。無理そうですね……」
小屋へと到着したが、もちろん大きなイノシシが二匹も収まるはずもなく、こんな大物は僕も解体した事がない。
それに、例え解体しても食べきれるかも謎だ。
それならば、厨房の横にある解体場にイノシシを運んで、ダンさんに解体をお願いしてもいいかもしれない。
けれど、リアムさんの存在はお屋敷には内緒にしているから……こっそりと運び込めば大丈夫かな?
ちょうど今は夕食の仕込みが始まったばかりだから、解体場には誰もいないはず……。
「よし……。リアムさん。イノシシを解体場に持って行きましょう」
「解体場?」
「はい。お屋敷の裏側にあるんですが、そこならこのイノシシも解体できると思います。僕一人じゃ解体は難しいので運んだら解体の上手な人に頼もうと思います。ただ、リアムさんの事はお屋敷の人にバレちゃいけないのでこっそりと向かいましょう!」
「分かった」
リアムさんはコクリと頷き、イノシシを担いだまま解体場へと向かった。
人がいないか確認しながら使用人が使うお屋敷の裏口から入って行く。幸い人の気配はなくリアムさんに来てくださいと手招きすれば機敏な動きで僕の元までやってくる。
あんな大きなイノシシを二体も担いでるのに素早く動けるリアムさんに驚きながら解体場までの道のりを進んでいき……無事に誰にも見つからずに到着する。
「リアムさん。ここの台の上に置いて下さい」
「分かった」
小声で会話しながらリアムさんが解体台へとイノシシを下ろし終われば任務完了だ……!と、思いホッと胸を撫で下ろした時……地を這うような不機嫌な声が解体場に響き渡る。
「おい、ここで何やってんだ……」
「ひゃぅっっ!!」
声に驚きビクンッと体を震わせながら恐る恐る声のする方へと振り返れば……しかめっ面の強面の顔が。
「ダ、ダンしゃん……」
解体場の奥の方でダンさんはこちらを見てくる。
僕を見た後にダンさんはリアムさんを見つめ眉間に皺を寄せる。
「そいつは誰だ?」
「この人はそのぉ……」
「ココ。お前の知り合いか?」
「知り合いというか……そのぉぉ……」
何と答えればいいのか僕がモジモジしているとダンさんの眉間の皺はさらに深くなる。
調理場を仕切る料理人のダンさんは口数が少なく寡黙な強面の人で、いつも不機嫌そうな表情を浮かべている事が多い。でも実際は顔が怖いだけで優しい人なのだが……リアムさんの存在に少しピリついているようだ。
何も言わない僕にハァ……と大きくため息を吐くと、ダンさんは厳しい視線をリアムさんへと向ける。
「おい。お前は一体誰だ」
「俺は……リアムだ。ココの世話になっている」
「ココの……世話に……?」
リアムさんの正直な答えに再び僕に向けられるダンさんの鋭い視線……。
「はい……。実は……」
僕はその視線に耐える事ができず、ダンさんにリアムさんとの出会いや一緒に住んでいる事を話す。
ダンさんは僕の話を聞いた後、頭をガシガシと掻きまた大きなため息を吐く。
「お前は何やってんだよ……」
「すみません……」
「拾った犬や猫を飼うならまだしも、こんなデカくて可愛げのない男を飼ってどうするつもりなんだ」
「えっと……リアムさんの記憶が戻るまでは僕が責任持たなきゃと思って……」
「だからといって素性の知れない奴を世話するなんて……。お前に何かあった時に悲しむのはレノー様だぞ」
「はい……。でも、リアムさんは決して悪い人なんかじゃないです」
「……なんで分かるんだ」
「リアムさんはレノー様と同じように優しい人なんです。一緒にいると凄く心が安らぐんです。それに、逆に僕の方がお世話されちゃってて……」
エヘヘと笑いながらそう答えればリアムさんは恥ずかしそうな表情を浮かべ、ダンさんは何度目かのため息を……。
「あぁ~もう分かった分かった。ココがお人好しなのは今に始まった訳じゃないからな。それで……そのデカいイノシシはどうするんだ。今から解体するのか?」
「はい! でも、僕にはこんな大物解体できなくて……ダンさんにお願いしようかと思ってたんです。あの……お願いできますか?」
「解体せずに腐らせちまうと狩られたコイツらに失礼だろ。それに……こんな大物は久しぶりだからな。おいリアム。お前も手伝え。吊るして血抜きするぞ」
「分かった」
「ダンさん。僕も手伝います!」
ダンさんは慣れた手つきでイノシシの解体を始め、僕もリアムさんも一緒になってお手伝いをする。3人で行えばあっという間に解体が終わる。
食べられる部位に切り分けて、保存用とすぐに食べる分と分け終えフゥ……と息を吐く。
「凄い量ですね」
「まぁ、あれだけデカいとな。ほら、お前さん達の分だ」
ドサッと手渡されたお肉の塊に僕とリアムさんは目を輝かせてしまう。
「こんなにいいんですか……?」
「何言ってるんだ。お前さん達が狩ってきたんだからこれ位は当たり前だろう。干し肉が出来上がればまた渡す」
「ありがとうございます!」
「ダンさん、ありがとう」
リアムさんと一緒に頭を下げ、小屋へと帰ろうとするとダンさんから呼び止められる。
「おい、ココ。デュークやゲスターには、リアムの存在はバレないようにしておけよ。あいつらにバレればレノー様と主従契約をしているとはいえ、お前を追放する理由にしてくるかもしれないからな……」
「はい。気をつけます」
ダンさんの言葉に深く頷き、僕たちは小屋へと戻っていく。無事に小屋へ戻り、夕食に今日のイノシシの肉を食べようと準備を始めるが……なんだかリアムさんの表情が暗い。
「リアムさん。どうしたんですか?」
「ココ……。俺はここから離れた方がいいんじゃないか? もし、ダンさんが言っていたように俺の存在が知られてはいけない奴らにバレれば……」
「大丈夫ですよリアムさん。デュークさんやゲスター様はこんなオンボロ小屋になんて来ませんから。お屋敷に近づかなければ今日みたいに誰かに見つかる事もありませんよ」
「だが……」
「記憶のないリアムさんを一人なんて出来ません! もし、バレてしまった時は素直に謝ります。きっと、デュークさんやゲスター様も事情を知れば許してくれますから」
「そうか……。俺もココの負担が増えないように気をつけて生活していく。だからこれからもよろしく頼む」
「はい! こちらこそよろしくお願いしますね、リアムさん。さぁ、今日はご馳走ですよ! お肉はステーキにしましょう!」
笑顔を向ければ、リアムさんも微笑み返してくれる。
それからすぐに夕食の準備を始め、カットしてもらったお肉を焼き始めれば食欲をそそる匂いが立ち込め僕とリアムさんはゴクリと喉を鳴らす。
焼き上がったステーキとパンとサラダが並び豪華な食卓にテンションが上がる。
久しぶりのお肉に僕とリアムさんは目尻を下げる。
「美味しいかココ?」
「はいっ! すっごく美味しいです!」
リアムさんは自分のことのように喜び、また獲物を狩ってくると言う。
こうしてリアムさんの初めての狩りは大成功に終わる。
残ったイノシシのお肉達は僕たちだけでは食べきれないので、マーサさんやダンさん厨房の人達で分け合ってもらった。
マーサさんによってイノシシ肉は様々な料理へと変わり、僕達は数日間美味しい料理に頬を緩ませたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます