第5話:お兄さんに名前を付けよう!

朝からやらかしてしまった僕は赤くなった顔を冷やそうと外に置いている水瓶から水を汲み顔を洗う。

冷たい水で顔を洗い寝ぼけていた頭もスッキリしたところで、お兄さん用の水桶とタオルを持って部屋へと向かう。


「あの、朝からすみませんでした。寝ぼけてお兄さんの腕を枕だと思って抱きついてしまって……」

「気にする事はない」


笑顔でそう言ってくれるお兄さんの優しさに感謝しつつ、顔を拭いて下さいと濡れたタオルを渡す。

頭に巻いていた包帯は寝ている間にズレてしまったようで、お兄さんに椅子に座ってもらい包帯の巻き直しがてら傷の状態を確認させてもらう。


「血は止まっているみたいですね。でも、後数日は薬草を貼って包帯で保護していた方がいいかもしれませんね」

「分かった。ありがとうココ」

「いえ、僕のせいで怪我させてしまったのでこれくらい当たり前です」


昨日採取していた薬草を傷口につけ包帯を巻き終えた僕は仕事へ向かう準備を始める。


「お兄さんすみません。早朝の仕事があるので僕はお屋敷に行ってきますね。仕事が一旦終われば朝食を持って戻ってくるので、それまで待ってて下さい」

「あぁ、分かったよ」


お兄さんにそう言って小屋を出てお屋敷へと向かえば朝からマーサさん達が忙しそうに朝食の準備を始めていた。

僕もその中に加わり雑用をこなしていく。

野菜の皮むき、水汲み、皿洗い……朝はいつも忙しくあっという間に時間が過ぎていく。


ゲスター様の朝食がすみ後片付けも終われば、僕達使用人の遅めの朝食が始まる。

今日の賄いは卵焼きとパンとスープだった。


「マーサさん。今日の朝食は小屋で食べてきますね。あと……スープを少し多めにもらってもいいですか?」

「ん? ココがそんな事を言うなんて珍しいわね。スープくらい余るほどあるんだから沢山持っていきなさい」


マーサさんはそう言うと大きめのお椀にたっぷりとスープを注いでくれる。マーサさんにありがとうございますとお礼を言って、スープを溢さないように気をつけながら小屋へと戻ればお兄さんは大人しく小屋の中で僕の事を待ってくれていた。


「お兄さん。お待たせしました! 朝食にしましょう!」


お屋敷から持ってきた卵焼きとパンを机に置き、スープは昨日と同じく具材を追加していく。

今日も干し肉や干し野菜を入れてスープを温めなおせば朝食の完成だ。


手を合わせて朝食を食べれば、お兄さんは昨日と同じように美味しそうな顔をして食事を食べてくれる。

卵がある分、昨日よりも豪華に見えるが、大きなお兄さんにとっては物足りない量かもしれない。


「こんだけの量じゃ、お兄さんには足りないですよね……」

「そんな事はない。料理が美味しいから量が少なくても満足できている」


相変わらず優しいお兄さん……。そう言えば、ずっと『お兄さん』と呼んでいたけど、これからも『お兄さん』って呼べばいいのかな?

名前も分かんないから何て呼ぶのが正解なんだろう……?


「あの……お兄さん」

「ん? どうした?」

「お兄さんを呼ぶ時は何て呼んだらいいですか? 今までみたいに『お兄さん』でいいのならそのまま『お兄さん』って呼びますけど……」


僕の問いかけにお兄さんは少し考えて口を開く。


「じゃあ……ココに俺の名前をつけてほしい」

「ふぇっ!?」


まさかの返答に、僕は持っていたお椀を落としそうになる。


「ぼ、僕がお兄さんの名前を付けるんですか!?」

「あぁ。俺はココに捕まえられたからな……。ココに名前を付けてもらいたい」

「ふぇぇぇ……」


お兄さんにそんな事を言われたら断りたくても断れない……。

僕はう~ん……と、腕組みをしながら必死にお兄さんに合う名前を考える……。


「じゃ、じゃあ……『リアム』って名前はどうですか?」

「リアム……」

「はい……」


大きくて強そうなお兄さんを思い浮かべながら考えた名前だが……お兄さんは気に入ってくれるだろうか?


「ココ、素敵な名前をありがとう。リアム……凄く気に入ったよ。なぁ、俺の事を名前で呼んでくれないか?」

「………リアムさん」


ドキドキしながら自分で付けたお兄さんの名前を呼び視線を向ければ、目尻を下げて嬉しそうな表情を浮かべてくれる。




こうしてお兄さんの名前は『リアム』に決定した。

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