第2話:お兄さんをお家に連れて帰ります!



お兄さんを連れて屋敷へ戻る途中、お兄さんに何か覚えている事はないか聞けばお兄さんは自分に関する記憶だけが抜けてしまっているようだった。

自分の名前や出身地、家族構成や何をしていたかなど……思い出そうとするとズキズキと頭が痛むと言う。


思ったよりも色々と重傷なお兄さんの状態に僕は気が気じゃなくなってしまう……。


「本当に僕のせいですみません……」

「いや……本当に君のせいかは分からないのだから謝らないでくれ……。それどころか、こんな俺を助けてくれた君に感謝しているくらいなんだ」


見た目はいかついのに、優しく微笑みを浮かべるお兄さんに僕は少しホッとする。

お世話をすると言ったもののお兄さんは大きくて見た目もどちらかと言えば……怖い。


顔は凄くイケメンなのだがきりっとした鋭い目はいつも何かを狙っているように感じる。無言の時のお兄さんは、オーラだけで人を倒せそうな感じだ。

それに、がっしりとした体格なのに動作は機敏で隙がない。


きっとお兄さんは騎士の仕事をしていたのかもしれない。

剣の鞘には紋章が刻まれていて、それを調べればすぐにでも身元が分かりそうだ。

そんな事を考えているとお兄さんが僕に声をかけてくる。


「なぁ……君の名前は? なんて呼べばいいだろうか?」

「はっ! 自己紹介がまだでしたね……。すみません。僕の名前はココです。ヴァントーラ公爵家に仕えている使用人です。といっても……身分は奴隷なんですけどね」

「ココか……。いい名前だな」

「ありがとうございます! この名前はご主人様が付けてくれた素敵な名前なんです! 僕も凄く気に入っているんです」

「そうか。優しいご主人様なんだな」

「はい。レノー様はとても優しいお方なんです。でも……数ヶ月前から体調を崩されて今ではずっと寝たきりなんです……」

「そうなのか……」


僕がレノー様の話をしてしょげていると、お兄さんは大きな手で優しく頭を撫でてくれる。


「あ……すみません。一人で落ち込んでしまって」

「いや……構わない。レノー様は病気なのか?」

「そうみたいです……。少しずつ体調を崩してしまわれて、かかりつけの医師も原因が分からないと言っていて……」

「そうか……。早く良くなるといいな……」


お兄さんはそう言って僕を励ますように優しく微笑みかけてくれる。お兄さんと話をしていると長い帰り道もあっという間で……お屋敷が見えてくる。


「あ! もうすぐ到着ですよ!」

「……大きなお屋敷だな」

「はい。とても大きくて立派なお屋敷なんです。あの……お兄さん。実は一つ謝らないといけない事があって……」

「ん?」


どうしたんだ? と、小さく傾げるお兄さんに僕は黙っていた事を打ち明ける。


「僕の住んでるところなんですが……」


そう言ってお屋敷の玄関前を通り過ぎ、裏側の方へと歩いて行くと古びた木の小屋がポツンと建っているのが見える。


「僕が今住んでる場所は……ここなんです」


お兄さんの面倒を見ると言って大口叩いたのに、案内された家がこんなボロ小屋だなんてガッカリしただろうか?


そう思いながらお兄さんを見上げると、お兄さんは少し険しい顔をしていた。

やっぱりこんな所は嫌だよね……と、思っているとお兄さんが口を開く。


「ココはどうしてこんな所に住んでいるんだ……?」

「??」

「ご主人様は優しい人なのだろ?」

「はい。そうですけど……」

「ならば何故あの屋敷に一緒に住まないんだ?」

「あ……。えっと……ちょっと訳があって……」


お兄さんにそう言われて僕はどう答えていいものか悩んでしまう。


僕がこの小屋に住んでいる理由は………


なかなか答えを言わない僕に申し訳なさそうな顔をしてお兄さが声をかけてくる。


「すまない、色々と聞きすぎてしまったな……」

「いえ! 僕の方こそ答えられずにすみません。あの、中にどうぞ。見た目通り小さくて狭いん所ですが」

「ありがとう。じゃあ、お邪魔するよ」


お兄さんを小屋の中に案内し、ぎぃ……と軋む小屋の扉を開く。入り口もお兄さんにとっては低く少し体を屈めて小屋の中へ。


この小屋は以前お屋敷の警備をしていた使用人が使っていた場所だ。小さな机とイスとベッドがあるだけだったが、僕が住みだし一年かけ小屋の補修をし少しずつだが家具も揃えた。

けれど、人を招くなんて考えてもいなかったので色々と足りない物もある……。


「お兄さんはそこの椅子に座って下さいね。僕はちょっとお屋敷の方に行ってきます」

「あぁ……」


お兄さんはそう言って椅子に座るが、おんぼろな椅子はキシキシと軋みながらなんとかお兄さんの体重に耐えている。


……お兄さんの椅子作らなきゃいけないな。


そう思いながら僕はお屋敷の方へと向かった。

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