第26話
魔法石が二次試験の合格を通達してくれたので、僕はいよいよ最終試験へと臨んだ。
……ここからが本番だ。
三度目になる学園への訪問。試験の内容自体にはそれほど恐怖していないが、この最終試験ではルークとしての強さが求められる。
失敗するわけにはいかない、そんな緊張が胸中で蟠った。
「……あ」
会場に着くと、リズがいた。
「リズ、来ていたのか」
「ええ……ルークも、合格していたのね」
リズがくるくると髪を弄りながら言う。
「それにしても、妙なところに呼ばれたな」
僕は周りを見回しながら言った。
ここは旧校舎と呼ばれるところらしい。僕たちはその一階にある大広間に案内されていた。
旧校舎は大きな二階建ての建物だが、旧と名がつくように普段から人がいる様子はない。照明の数が少なくて昼間だというのに薄暗かった。
「他の受験生は、普通の校舎に向かっていたけど……」
リズも疑問に思っていたようだ。
この会場に集められた受験生は僕たちを含めて七人。中には一緒に面接を受けたマステリア公爵家の令嬢もいる。
「皆、注目して」
階段から一人の女性が下りてきた。
彼女は僕たち受験生の顔ぶれをざっと確認し、
「うん、ちゃんと七人揃ってるわね。……私はこの学園の教師、イリナ=ブラグリーよ。今から皆に最終試験の説明をするから集中してちょうだい」
「あの! 質問があります!」
「はいどうぞ」
眼鏡をかけた真面目そうな男子が挙手をした。
「ライオット=シャールスです。……何故、ここには七人しかいないんでしょうか」
「それは君たちだけを特別扱いしているからよ」
イリナ先生は説明する。
「十年前、魔導王シグルスが世界大戦を終わらせたのは皆も知っているわね? 彼はその後、ここ――シグルス王立魔法学園を創設し、人々が自由に魔法を学べる環境を作った」
それは誰もが知っている歴史だ。
「けれど、大戦が終わったからといって、急に世界中が平和になるわけでもない。それを悟ったシグルスは、この学園に特殊なクラスを作ることにした」
先生は続ける。
「それは、とびきり優秀な子供を集め、国家を守るための人材を密かに育成する教室。それは、魔導王シグルスが培った知識と経験を惜しむことなく継承させ、この国を引っ張れる次代のエリートを育てる教室。……それこそが、君たちがこれから通うことになるかもしれない、特級クラスよ」
特級クラス。
遂にこのキーワードが出た。
これこそが、レジェンド・オブ・スピリット学生編のメインストーリーである。
特級クラスの生徒たちは教室で授業を受けるだけでなく、諸外国を訪問して各地の情勢を学んだり、国内の大規模な事件へ介入して解決に協力したりする。
学生とは名ばかりの、国家直属の特殊部隊のようなものだ。
このクラスに選ばれることで、ルークは少しずつ名を馳せるようになる。
「さて、前提を話し終えたところで本題に入りましょうか」
未だ戸惑う受験生たちに、イリナ先生は説明を再開した。
「試験の内容はいたって単純。この学園の地下にある迷宮を探索し、その最深部にある宝玉を持って帰ることよ」
「宝玉は人数分あるのでしょうか?」
「ううん、皆で一つ持ってきて」
ライオットの質問にイリナ先生は手短に答える。
その答えが意味するところは――この七人には競い合いではなく、連携を求めているということだ。
「スケジュールがギリギリだから、そろそろ始めましょっか」
そう言ってイリナ先生は、掌を僕たちの方へ向けた。
次の瞬間、何らかの魔法が発動して、僕たちの立っていた床が崩壊する。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
「え?」
「は?」
「ちょっ!?」
床の下には縦長の穴があった。
受験生たちは混乱しながら次々とその穴へ落下していく。
――最終試験が始まった。
重力に従って落下しながら、僕は鞘から剣を抜く。
(サラマンダー)
『うむ、上昇気流じゃな』
原作では、この落下によって誰かが負傷することはない。しかし僕は既に原作とはかけ離れたシナリオを歩んでいる。
万一、ここで誰かが怪我を負うと後々の戦いで不利になりそうだ。
なので、全力で手加減した《ブレイズ・エッジ》を放ち、炎の上昇気流を生み出す。落下している受験生たちは、気流によってその衝撃を和らげ、軽やかに着地した。
「皆、無事か?」
僕は全員の無事を確認するべく声を発した。
熱くて、雄々しくて、堂々としている――ルーク=ヴェンテーマを演じて。
◇
「うーん……」
穴に落ちていった受験生たちを、イリナは複雑な顔で見送った。
この程度で怪我をするような鈍臭い受験生は、最初から特級クラスの候補生に選んでいない。なので躊躇なく受験生たちを穴に落としたが、その直後に魔力のうねりを感じた。どうやらこの想定外の事態にも迅速に対応できる猛者がいたらしい。
多分、あの子だろうなぁ……とイリナは思う。
「イリナ先生、お疲れ様です」
「あ、お疲れ様です」
二階から男性の教師が下りてきて、イリナは軽く会釈した。
「どうですか、特級クラスの候補生たちの様子は?」
男性の教師が尋ねる。
「今年も粒揃いですよ」
「はっはっは、まあそうでしょうよ。近衛騎士団の団長の息子に、ヨルハ自警団のエース。そして、あの超人を姉に持つマステリア公爵家の次女。……皆、将来有望な若者たちですよ」
「そうなんですけど……」
血筋で人の優劣を語るなら、やはりあの子の名前は挙らない。
イリナは先程からずっとあの少年のことしか考えられずにいた。
あの炎のような赤髪の少年――ルークのことを。
(あの子……私より強くない?)
なんか一人だけ、とんでもない子が混じっている。
私が彼に教えられることってあるのだろうか……? そんな教師としての素朴な疑問をイリナは抱いた。
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