幼なじみは勇者候補で俺はヒモ

大然・K(だいぜん・けー)

第01話 「レプト」はクズ男の代名詞



 日が暮れて通行人の姿もない裏路地。


――ガキン。


 金属同士のぶつかり合う音が響く。


 次の瞬間。


――ドサッ。


 ナイフを持った男が、足元に転がった死体を見下ろしながら、


「くそう。こんな所にまで入り込まれてるとは……」


 悪態をついたこの男、一部ではクズ男として名を馳せる――――レプト・サスキン、その人だ。


 殺人現場を誰かに見られると厄介事になる。


 レプトは羽織っていたマントを脱いで、足元の死体を運びやすいように包むと、戦闘の痕跡を消し去った。


 面倒くさそうにマントの端をつかむと、引きずりながら歩き出した。




     ◆




 主夫・レプトの朝は早い。


 汗ぬぐい用のお湯を沸かし、朝食の準備をする。


――ガチャ。


「おはよ~」


「おはようクォーク。よく眠れた?」


「とっても寝た~」


 寝起きでポヤポヤしているのは、レプトの同居人。


 12歳の洗礼の儀で【剣豪】を授かり、15歳で冒険者デビューした、クォーク・ニルセン。


 冒険者としての活躍もあり、次代の勇者候補に指名され修行を頑張っている。


 レプトの幼なじみで、いまは恋人。


「いい匂い」


「今日はトマトスープだ」


「寝汗、流してくる~」


 クォークはとても代謝がよく、人一倍汗をかく。


 こうして毎朝・毎晩、大き目のタライで汗を流すのが習慣になっている。



 クォークが、タオルで髪の水滴を拭きながらキッチンに戻ってきた。


 レプトは、いつものように食事を持て成す。


「ありがと~」


 クォークは礼を言い、スープを一口。


「う~ん、オイシイ!」


「クォークの笑顔を見れて良かった」


 これが、いつもの朝食の風景だ。



 朝食を終えたクォークは、出かける準備をするため部屋に戻った。


 外出用の戦闘服に着替えたクォークは、


「今日の分」


 レプトに1Gを握らせる。


「いつも、ありがとう。大切に使うよ」


「そう言って、またカジノ行くんでしょ? も~」


「バレた?」


 レプトは渡された1Gを握りしめ、おどけてみせた。


――ガチャ。


 レプトは玄関を開けて、


「行ってらっしゃい。気をつけて」


――チュッ。


「行ってきまーす」


 朝日が昇る、ほんの少し前。


 空が明るさを取り戻しはじめるころ、クォークは家を出て剣術道場へ向かった。


「さてと、掃除するかぁ」


 クォークを送り出したレプトは、家の中に戻った。


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