第40話 モードチェンジ(意味深)

 血のように赤い満月が空に浮かぶ夜。

 レストーヌの東部に位置する都市の一つは、異様な静けさに包まれていた。


 誰もが自宅の中に引きこもり、窓と扉を全て固く閉ざし。

 これから襲い来る【脅威】が過ぎ去る事を、震えながら祈っている。


「マスター、いよいよですね」


「ああ」


 そんな都市の入り口前に立ち塞がるのは2人の男女。

 巨大な戦斧ルディスを背負う俺と、そのポイントカードであるピィ。

 さらにその背後からは、1人の女騎士が歩み寄る。


「街の住人達への勧告は済んだ。この都市、数万人の命……全てお前に託そう」


 自国の民を守るため、親友の体を乗っ取ったクソッタレの討伐を願うカルチュア。

 彼女の想いを無駄にするわけにはいかない。


「……!」


「来たか」


 その時、低い地鳴りのような音が鳴り響き……大地がわずかに鳴動する。

 月明かりによって照らされている視界の最奥に、蠢く影を発見したのも……まるで同じタイミングであった。


「アレは……魔獣の軍勢か!」


 カルチュアが叫んだ通り、こちらに向かってくる大量の影の正体は……以前、森の中でメルディが倒した黒い魔獣であった。

 そしてその数はまさしく、軍勢と呼ぶに相応しいほどの数。


「魔女め……! そこまで、リュートの力を恐れているというのか!?」


 腰の鞘から剣を引き抜いたカルチュアは、後方に控える兵達に号令を飛ばす。


「お前達!! 何があろうとも、リュートと魔女が一騎打ち出来るように持ち込むんだ!!」


「「「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」」」


 軽く数千近い魔獣の数に対し、こちらの兵力は百ばかりの兵士。

 いくらなんでも、この戦力差では犠牲が出かねない。


「カルチュア、下がっていてくれ」


「リュート!? しかし……」


「距離が離れている間に、数を減らしておく」


『あはっ! 新技の出番ってわけね』


 俺はルディスを手に取ると、精神の集中させていく。

 そうして発動させるのは、新たに得たばかりのスキル。


『アックス強化・魔力付与』(消費5000)

・魔力によって、斧の形態を魔法変化させる


「はぁぁぁぁぁぁっ!」


『んっ……はぁん♡』


 俺が魔力を流し込むことで、ルディスの形状に変化が生じる。

 両刃はそのままに、先端部の先に太い砲門が伸びていく。


「ルディス・バーストモード……ってところかな」


『なんだか可愛くないけど、まぁ今はそれでいいわ』


 俺はルディス(砲)を回転させ、その照準を迫り来る魔獣達へと向ける。


「連射はキツイから、一発でイクぞ!!」


『いつでもいいわよ!!』


 俺が魔力を籠めると、砲門からコォォォォォッと音が鳴る。

 ルディスに吸われた魔力は熱を帯び、赤く発光を始めていく。

 そしてそれが臨界点に達した時、俺は柄部分のトリガーを引いた。


「シュート!!」


『アックス・ブレイカァァァァァーッ!!』


 瞬間。

 急に夜明けが訪れたと錯覚するほどの、膨大な光の奔流が世界を包む。

 

「「「「「!!!!!」」」」」


 音を置き去りにした炎の光線が、魔獣の軍勢に着弾。

 一瞬にして巨大な爆発と火柱が巻き起こり、遅れてドグォォォォォォォンという轟音が、凄まじい爆風とともに襲いかかってきた。


「な、なんて破壊力だ……!」


 唖然とするカルチュア。


「うわぁ、まるで魔獣がゴミのようです……」


 いつの間に装備したのか、サングラスを掛けたピィが呟く。


『はぁ……♡ 気持ちよかった♡』


「ふぅ……でも、流石に力を消費したな」


 久しぶりに、体に倦怠感を感じる。

 【体力】おばけの俺ではあるが、今回は【魔力】の消費であるので仕方ない。


「よし、リュートのおかげで魔獣達は大打撃を受けた!! この隙に、生き残りを叩くぞ!!」


「「「「「ハッ!!!」」」」」


 カルチュアの号令に合わせて、兵士達は魔獣達に向かっていく。

 爆心地から遠い位置にいた魔獣は、まだ健在だからな。


「さて、もうひと仕事しないとな」


 魔獣はあくまでも囮や揺動だろう。

 このドサクサにまぎれて、街を襲撃しようとする魔女を見つけ出さないとな。


「ルディス、続けて行くぞ」


『もう、あんなにいっぱい出したのに♡ まだ足りないの?』


「いやらしい言い方すんなっての」


 俺はバーストモードのルディスの両刃を、左右の手で握る。

 それから再び、魔力を込めながら……次なる形態変化を念じていく。


『んぁっ……♡ 今度は優しい感じなのね♡』


 するとルディスは中心部から左右に分かれて、二本の手投げ斧サイズに変わる。

 そしてそれぞれの柄部分からは鎖が伸び、お互いを繋げ合っていた。


「ルディス・アサルトモード……かな」


『まぁ、悪くないんじゃない?』


『アタシはこっちの方が好きよ』


 二本に分かれた影響か、ルディスの声が2人分に変化する。

 なんだか双子みたいで可愛いと思う。


「アサルトモードは風属性のイメージ……空気の流れを読めるか?」


『やってみるわ』


『んー……あっ、感じるわ』


 右手のルディスがピクリと反応を見せる。

 俺はそれを受けて、右のルディスを鎖鎌のようにブンブンと振り回す。


「目を回すなよ!!」


『こ、これくらいだいじょ……ぶぇおろろろろっ』


『あー。こっちじゃなくて本当に良かったわ』


「そらぁっ!!」


 俺は何も見えない夜空に向かって、振り回したルディス(右)を放り投げる。

 するとルディス(右)は自らの意思で向きを変えて、まるで獲物を定めた蛇のように動きを変えながら空を登っていく。


「なっ!?」


 そしてそのまま、ルディス(右)は空に潜む何かの腕に鎖ごと絡みついた。

 当然、不意打ちを受けた人物は驚愕するしかない。


「ようやく見つけたぜ」


 俺は鎖を掴むと、背負い投げのような体勢で強引に引っ張る。

 鎖に捕まった人物はその勢いに抗えず、空中から地面へと引きずり落とされ……激突。


「ぐぁっ!?」


 土煙を巻き上げ、凄まじい衝撃に呻く何者か。


「痛みで、姿を隠す魔法も維持できなくなったか?」


 だんだんと土煙が晴れていくにつれて、明らかになる人影の正体。

 それは予想通り、俺のよく知っている姿であった。


「おのれぇ……っ!! 人間風情がぁっ!!」


 メルディの顔と体。

 褐色の肌に、ドス黒いオーラを漂わせる……全ての元凶。


「よう、お久しぶりだな。吸精の魔女さんよ」


「お前さえ……!! お前さえいなければぁぁぁぁぁぁっ!!」


 立ち上がった魔女は、俺に手を向けて大量の氷のつぶてを飛ばしてくる。

 しかし俺はそれら全てを、ルディス(左)で簡単に振り払う。


「うっ、ぁっ……!?」


「今、どんな気持ちだ? あともう少しで完全復活を遂げられるというところで……その希望が完全に閉ざされる感覚は」


「黙れぇっ!! 黙れ黙れ黙れ黙れっ!!」


 がむしゃらに、ありとあらゆる魔法を放ってくる魔女。

 しかしそのどれもが、俺にダメージを与えるには至らない。


「うるさいな」


「ぎゃうんっ!?」


 俺が鎖を軽く引いただけで、魔女は無様に転んでしまう。

 魔力はそれなりでも、身体能力においては俺に遠く及ぶはずもない。


「もう沢山だ。アイツの顔、体、声で……これ以上、無様な姿を晒すな」


「くそぉっ……! 完全体に、完全体にさえなれれば……!! 憎き人間如きに、妾が負けるはずが無いのにぃっ……!!」


「ふーん。完全体とは、それほどまでに凄いのか?」


 俺は訊ねながら、ルディスの形態変化を解除する。

 俺の左手の中でルディスが通常のアックス状態に戻った事で、魔女を捉えていた鎖も消え去ってしまった。

 それを魔女は、都合のいいように解釈したようで。


「あ、ああ! そうだとも!! この街の住人達を全て喰らえば、妾は真の姿に戻れる!! お前を満足させるほどの強さをも……!!」


「だから?」


「ひょ?」


「いや、俺をどこぞの戦闘民族扱いすんなよ。人を犠牲にしてまで、戦いを求めるような真似はしないっつうの」


 残念でした。そう続けると、魔女の瞳が深い絶望の色に染まる。

 ほんの一瞬、俺を乗せてしまえば復活出来ると期待でもしたのだろうが。

 本当に、愚かな奴だ。


「そういうわけで、お前はここで終わりなんだよ」


「やめろ……!! く、来るなぁっ!!」


 尻もちを付いたまま、震えながら後ずさる魔女。

 しかし俺は意に介する事なくルディスを振り上げる。


「言い残す事はそれで終わりか?」


「っ……!! こうなったら……!!」


「!!」


 その瞬間、魔女は最後の手段を選んだ。

 以前にも、俺からのトドメを免れた……外道の手段。


「あ、れ? お兄さん……?」


 依代であるメルディに意識を譲り渡し、自身は体の奥深くに逃れる。

 これで俺達に迷いを生じさせ、トドメを躊躇させる作戦だ。


「はははははっ!! 待っていたぜ!! この【瞬間】をよォ!!」





      !?




 俺は心の中でガッツポーズをすると、ルディスを地面に突き刺してからメルディに駆け寄っていく。

 そして呆然とする彼女の頭の上に手を乗せると……今回、もう一つ新たに覚えておいたスキルを発動させた。


『強制ロリ化スキル(消費10000P)』

・美女に限り、肉体を若返らせてロリ化させる事が可能となる


「ほぇ……!?」


「モードチェンジ(ロリ化)の時間だぁぁぁぁぁ!!」


 さぁ、ここからがショータイムだ。

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