第21話 決勝戦(VSカルチュア)後編
俺の攻撃を回避し、空へと避難したカルチュア。
翼が生えているのは槍なのだが、浮遊効果はカルチュアにも及んでいるらしく……彼女は涼しい顔で空に制止している。
『どうする? またアタシをぶん投げてみる?』
「いや。距離が離れているし、あの素早さだと当てるのは難しいよ」
『チッ、面倒ね。でも、打つ手が無いというわけじゃないんでしょ?』
「そうだなぁ」
空を見上げながら、俺はルディスと共に作戦会議を行う。
幸いにもカルチュアとの間合いは離れている。
相手が痺れを切らして近付いてこない限り、落ち着いて対策を練られるだろう。
「貴様を相手に接近戦は得策ではないようだ。ならば、こちらは距離を置いて攻めさせてもらおうか」
俺を見下ろしながら、カルチュアはボソリと呟く。
それから槍をこちらへ向けて、とんでもなくゲスい笑みを浮かべる。
「せいぜい、生き延びてくれ。我が夫よ」
カルチュアの呟きと共に、バハムートとかいう槍の矛先が形を変えていく。
「バハムート・咆哮形態」
刃から龍の頭のような形。
そしてその大きな顎を開いた中では、黒い炎が球体状に渦巻いている。
「なっ!?」
「焼き尽くせ!! 神龍の吐息(メテオ・フレア)!!」
ドンッ、ドンドンドン!
バハムートの口から巨大な火炎球が連続で吐き出され、俺の頭上に降り注いてくる。
「ルディス!!」
『まっかせなさい!!』
俺はルディスを使い、飛来してきた火炎球を叩き落としていく。
しかしいくら防いでも、カルチュアは一切攻撃の手を緩めてこない。
「フフフ、いつまで防げるかな?」
「ぐっ……調子に乗るなよ」
俺は一歩後退すると、両腕にありったけの力を籠める。
今までに一度も試した事はないが、斧の武器適正が1001もあるのなら、きっとやれるはずだ……!
「せいやぁぁぁぁっ!!」
「!!」
振り上げたルディスを、その場で思いっきり振るう。
当然、その切っ先は上空にいるカルチュアへは届かない。
しかし、高速の斬撃は空振りしてもなお、空気を極限まで圧縮して押し出し……見えない刃となって放たれる。
「ぐぁっ!?」
俺が飛ばした斬撃は、降り注ぐ火炎球を砕きながらカルチュアへと接近。
回避しようとした彼女の右肩を切り裂いていく。
「飛び道具には飛び道具だ!」
「我に血を流させるとは……リュート。貴様は我をどこまで喜ばせれば気が済むんだ?」
左手で肩を抑えながら、カルチュアは地面へと降りてくる。
追撃のチャンスか……と、ルディスを構え直したところで気付く。
「傷が癒えている……?」
カルチュアが肩から手を離すと、そこには傷一つ無い綺麗な肌。
それなりに手応えはあったはずだというのに、一体何が起きたんだ?
「これが我のスキルだ。女神様からの寵愛と祝福を受けて生まれた我は、どのような怪我やダメージも瞬く間に回復する。言うなれば不死身という事だ」
「不死身……そりゃまた反則なスキルで」
「抜かせ。獄炎を無効化したり、腕力のみで斬撃を飛ばしたりする貴様の方が…よほど反則的な強さだ」
言うが早いか、カルチュアが鋭い突きを放ってくる。
俺はそれをギリギリで躱そうとするが、槍先から獄炎が吹き出して俺の体を焦がす。
「常人ならばとっくに灰燼となっているぞ!! リュート! 貴様のその屈強な肉体にはどんな秘密があるというのだ!? どうすればそのように強くなれる!?」
「知りたいですか? だったらまずは、ポイントカードを作る事から始めませんと」
「ポイントカード?」
「そいつをコツコツ、10年間貯め続ける。それが強さの秘訣です……よ!!」
炎を振り払い、俺は再びカルチュアへと接近する。
ファーガス戦の時に見せた、ステップを使った高速移動……【分身疾駆】によって、今のカルチュアには俺の姿が2人に見えているはず。
「何度やっても同じ事だ!! 貴様が地にいる限り、我は空に逃げるまで!」
再びバハムートの翼を利用して、空に逃げるカルチュア。
俺はすかさず、飛ぶ斬撃を分身と同時に放つ……が。
「2度も同じ手は食わん!!」
バハムートの顎が俺の放った斬撃を噛み砕いて無効にする。
さっきは不意打ちのような形で成功したが、相手が最初からガードするつもりなら効果は無いらしい。
『担い手!! どうするのよ!? このまま逃げ回られちゃ、ジリ貧よ!』
「相手は不死身。俺は高い体力と防御力でダメージこそ少ないが、ほんのちょっとずつ削られている……持久戦は不利だな」
もっともそれは、カルチュアの狙いでもある。
だが、短期決戦に持ち込もうにも……空を飛ぶカルチュアを捕まえるのは容易じゃない。
「……ルディス、俺に良い考えがあるんだけどさ」
『……!! ええ、それしか無さそうね』
武器適正1001という数値は、俺の頭の中にありとあらゆる斧の使い方を閃かせる。
そしてその意識は、どうやらルディスにも筒抜けのようだ。
「でも、その前に心配なのは……」
俺はその場に立ち止まると、ピィがいる観覧席の方へと視線を向ける。
「マスター!! ステータス更新ですか!?」
いつの間にか観覧席の最前列までやってきて身を乗り出していたピィ。
どうやらカルチュアに苦戦する俺の為に、いつでもポイントを割り振れるように待機してくれていたようだ。
「……いや、そのつもりはないよ。ただ、今からすげぇ危ない攻撃をするから……巻き込まれないように一番後ろの列に下がっておいてくれ」
「は、はい! 分かりました!!」
俺がそう忠告すると、ピィはコクリと頷いてから駆けていく。
よし、これでもう大丈夫だろう。
「あの愛らしい娘は……いつぞやの連れか。我がリュートとの子を宿した暁には、乳母として傍に置いてやらなくもないぞ」
「そんな事にはならないですよ。次の攻撃で、俺は貴方を倒しますから」
「何?」
俺は両手でルディスを強く握りしめ、スゥーッと息を深く吸う。
精神集中し……神経を研ぎ澄ましていく。
『担い手……いつでもいいわよ!』
「ああ、目を回すんじゃないぞ……!!」
『勝利の為なら、どれだけ辛くても耐えてみせるわ!!』
「よっしゃ! 行くぜぇぇぇぇぇっ!!」
掛け声と同時に、俺はハンマー投げの選手を彷彿とさせる動きで回り始める。
グルグルグルグルと。
両手で握るルディスは、遠心力によって外側に強く引かれ……俺の目線辺りの高さをキープしたまま回転。
「なんだそれは? まさかそうやって勢いを付けた斧を……我に向けて放り投げるつもりか?」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
グルグルと回転を続ける俺には、カルチュアの声は聞こえない。
しかし、彼女が何を考えているか……おおよそ分かる。
きっと彼女はこう思っているはずだ。
こんなものは【子供騙し】だと……
「拍子抜けだな。リュート、そのような【子供騙し】が我に通じ……っ!?」
ブンブンブンブン。
グルグルグルグル。
一歩も動く事なく、駒のように回り続ける俺。
しかしその回転は徐々に速度を上げていき……俺を中心とした空気の奔流が発生。
「体が……引かれ……!?」
回転によって生じた空気の渦は回転が加速する度に大きくなり、やがて巨大な竜巻となって俺と一体化する。
「うぁぁぁぁぁぁっ!?」
「きゃあああああっ!?」
観覧席の観客達はその場にしがみつき、飛ばされないように身を寄せ合うしかない。
しかし、空中という何も掴まる物が無い場所で……巨大な竜巻と直面したカルチュアはどうなるか。
「ぐっ、ぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
吸い寄せられるように竜巻に体が流されていくカルチュア。
もはや翼をいくら動かしたところで、荒れ狂う気流に巻き込まれるだけ。
「リュゥゥゥトォォォォォォッ!!」
いよいよ竜巻に飲み込まれたカルチュアは、空中できりもみしながらもバハムートのメテオ・フレアを乱射する。
しかし、闇雲に放った攻撃は見当違いな方向に落ちていくだけ。
「これだけ回転すれば普通、目が回って【混乱】するところだけどさ。生憎と俺は状態異常にはかからないんでね」
『うぇぇぇぇっ……ぎぼぢわるいぃ……おぼぇろろろろろっ……!』
「……ルディスは別だが」
竜巻の中心。そこは唯一、風が落ち着いている箇所。
十分に竜巻が育ち、カルチュアを捉えた事を確認した俺は……いよいよ動きを止めて、ルディスを握り直す。
「ああああああああああっ!?」
「あそこか」
上下左右、行ったり来たり。
強風の日のビニール袋みたいに悲惨な目に遭っているカルチュアを発見。
「終わりだ」
高く跳躍してカルチュアの元へ迫ると、俺はルディスを横薙ぎに一閃。
「がっ、はぁ……!?」
バハムートごとカルチュアを切り裂く。
「こんな、はずが……我が、負けるなど……」
真っ二つに折れるバハムート。
右肩から腰までに深い傷を負うカルチュア。
「……っととと!」
カルチュアに一撃をお見舞いし、地面へと着地した俺だが。
俺の体も竜巻に引っ張られそうになる。
「お前の役目はもう終わりだよ……と!!」
振り向きざまに、俺は飛ぶ斬撃を荒れ狂う竜巻へとぶつける。
すると竜巻の勢いは簡単に相殺され、みるみるとしぼんでいき……やがて完全に消滅。
「…………」
「ほいっと」
ひゅぅぅぅぅぅぅんっと、糸の切れた人形のように落下してくるカルチュア。
俺はルディスを背中に戻すと、落ちてきたカルチュアを両手でキャッチする。
「どうです? 参りました?」
「その甘さが命取りだ……!!」
俺が受け止めたカルチュアの身を案じた瞬間、彼女は右手に握っていたバハムートの半身を俺の首筋へと突きつけてくる。
「……」
しかし、その矛先が俺の首を貫く事は無かった。
寸前で動きを止めたカルチュアは、フッと笑い……全身から力を抜いていく。
「……眉一つ動かさないとは、完全に見抜かれていたか。バハムートを失った我に、もはや貴様を倒す術は残っていないと」
カランカランと音を立てて、地面に落とされるバハムート。
俺に両断された瞬間、この槍が放っていた独特のプレッシャーは完全に失われた。
だからもはやこの槍がただの棒きれに過ぎない事は分かりきっていたのだ。
「傷はすぐに癒えるが……壊された武器はどうしようもない。この勝負、我の完敗だ」
俺の腕の中で、カルチュアは敗北を認める。
そんな彼女の表情は今までの高慢さが失われ、まるで憑き物が取れたように穏やかだ。
「ああ……悔しい。敗北など、生まれて初めての体験だ」
「最初は辛いですが、すぐに慣れますよ」
「ふふっ……そういうものかもしれんな」
とは言っても、敗北だらけの人生だった俺の感覚は普通の人……特にカルチュアのような王女様には通じないだろうけど。
「リュート……貴様を手に入れる事は叶わなかったが。せめて、これくらいのワガママは許してくれ」
「えっ!?」
カルチュアは俺の首に手を回してくると、頭を強引に引いて……俺に口付けをしてくる。
『はああああああああああああああああああああああああああっ!?』
「あああああああああああああああああああああああああああっ!?」
闘技場内に響き渡るルディスとピィの絶叫。
「ふふっ……次は布越しではなく、直接口吸いをしたいものだ」
「あ、え? いや、その……」
ドキドキドキ。いくらマフラーで口元が覆われているとはいえ、女性に口付けされた事に気が動転してしまう。
しかし、そんな浮かれた気分も……そう長くは続かない。
『担い手……? 覚悟は出来ているのよね?』
「マスター……? 少し、お話……しましょうか?」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
「ヒェッ」
どう足掻いても修羅場不可避な状況。
せっかく武道大会で優勝したというのに……俺はちっとも喜べないのでした。
【ネクスト リュートズ ヒント!】
・ロリロリちゅっちゅ(2倍)
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