第16話 3回戦(VS反則のファーガス)
武道大会3回戦。
その相手となるのは、俺に強気な挨拶をしてきたファーガスという男だ。
身長は190cmほどで、体型はかなりガッチリした筋肉系。
俺より少し若い顔立ちだが、タイプはまるっきりヤンキー器質といった感じ。
「それでは! 3回戦第2試合!! ファーガス選手VSリュート選手の試合を始めます!!」
審判のお姉さんの掛け声に合わせて、俺とファーガスは互いに向かい合う。
俺が戦斧(ルディス)を持っているのに対し、ファーガスは手ぶら。
最初は格闘で来るのかと思ったが、拳にバンテージを巻いているわけでもない。
「よく逃げずに来たな! 俺は嬉しいぜ!!」
「ああ。勝てる試合から逃げる必要なんて無いからな」
嬉しそうな顔のファーガス。
そんな彼の頭上に浮かぶレベルは44。
そこまで高いわけではないが、3回戦まで勝ち進んで来ている以上……かなりの強者である事は疑いようがない。
「ハッ! 言うじゃねぇか!! 俺のスキルを破る策でもあんのか? 言っておくが、ちょっとやそっとの対策なんかで、俺を倒せると思うなよ!」
自信たっぷりに語り、不敵な笑みを見せるファーガス。
しかし、一方の俺は首を傾げるしかない。
「……スキル?」
「えっ」
「お前のスキル……知らないんだが」
「あれ……? 俺の試合、一度も見てねぇのか?」
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が流れる。
するとそれを見かねたのか、審判のお姉さんが口を挟んでくる。
「あの、試合開始の宣言をしてもよろしいですか?」
「あ、どうぞ」
「では……」
「ちょーっと待ったぁ!!!」
「「!!」」
「俺はリュートの試合を見ているのに、コイツは俺の試合を見ていねぇんだ! このまま俺のスキルで勝っても……なんかモヤモヤしちまう!」
ファーガスは審判のお姉さんの言葉を遮り、俺の方にビシッと指を差してくる。
「見ていろリュート! 今から俺のスキルを披露してやる!!」
『うわぁ。コイツ、バカじゃないの?』
「……ずいぶんと親切な事で」
「フェアに戦いてぇからな!」
『やっぱりバカじゃーん』
俺の手に握られているルディスがすっかり呆れている。
まぁまぁ、せっかく相手が手の内を見せてくれるというのだから、お言葉に甘えておくに越した事はない。
「おーい!! 何をごちゃごちゃとやってんだー!!」
「さっさと試合を始めろー!!」
「レベルゼロのまぐれ野郎をボコっちまえよー!!」
「マスター!! マスタァァァァァ!! マーーースーーーターーー!!」
試合が中々始まらない事に、外野から野次が飛び交い始める。
「ふんがぁっ!!」
ファーガスはそんな声を完全に無視し、握りしめた右拳を地面へと叩きつける。
しかしその威力はそれほどでもなく、地面が抉れたり、ヒビ割れたりはしていない。
「……何をしたんだ?」
「おっと! 驚くのはこれからだぜ!」
「!!」
ゴゴゴゴゴッという地鳴りの音。
何が起きるのかと見守っていると、ファーガスの周囲の地面から土がボコボコと盛り上がり始め……それがどんどん大きな塊へと変化していく。
「これは……ゴーレムか?」
完成したのはファーガスよりも一回りほど大きな岩人間。
その頭上にはレベル50という数字が表示されている。
「そうだ! 俺のスキルはゴーレムを生み出す力だぜ!!」
『ブッサイクなゴーレムね。もうちょっと可愛い感じに仕上げて欲しいわ』
「ゴーレム……」
「どうだ!? かっけぇだろ!?」
『グォォォォォォム!!』
生み出されたゴーレムは両手を上げて咆哮する。
その威圧感は中々のもので、あれほど騒ぎ立てていた観客達も水を打ったように静まり返っている。
「そうだよ。アイツのゴーレムはメチャクチャつえぇんだ」
「これでまぐれ野郎も終わりだろ」
「ああ。あのゴーレムに、1回戦と2回戦の相手は瞬殺だったからな」
「……うぅ、ちっとも可愛くないゴーレムです」
ヒソヒソと聞こえてくる観客達の声。
やはり、ゴーレムは相当な力を秘めているらしい。
「どうだリュート!! 俺のゴーレムに勝てるか!?」
「……少し、気になる事があるんだが」
「おう! 何でも聞いてくれよ!!」
「このゴーレムが……戦うんだよな?」
「当たり前だろ! 俺の自信作だ!!」
「……これ、武道大会じゃなかったのか?」
「「えっ」」
『グォロム!?』
俺の指摘に対し、ファーガスと審判のお姉さん……それとゴーレムが同時に声を上げる。
「そう言われてみれば……ゴーレムって、反則なのでは?」
「えっ」
『グォ……?』
審判のお姉さんは大きな胸の前で腕を組んで、うーんとうなり始める。
その間、ファーガスは冷や汗を流しながら狼狽えるばかり。
ゴーレムもどこか慌てている様子だ。
「で、でもよぉ! コイツは俺と一心同体なんだぜ!」
『グォォォォ!』
「いや、武道大会というのは本人の持つ武を競うものですし」
「そんな……!」
『グォロロロ……』
ガックリと崩れ落ちるファーガスとゴーレム。
なんというか、見ていてかなり可哀想だと思う。
『あらあら。ここもまた不戦勝で行けそうね』
「……いや、そうはしないさ」
『担い手?』
確かにこのままだと俺の不戦勝になるだろう。
だけど、俺がこの大会に出場した理由は名声を得る為だ。
不戦勝を繰り返して、優勝にケチが付くような真似は避けたい。
そして何より、ファーガスはいい奴だからな。
「それでは、この試合はファーガス選手の反則負けと……」
「待ってくれ。俺は別にこのまま試合を始めても構わない」
「……リュート!?」
『グォォォム!?』
俺がそう伝えると、ファーガスとゴーレムが揃って顔を上げる。
「リュート選手、よろしいのですか?」
「ああ。それに俺だって、一人で戦っているわけじゃないからな」
ルディスをクルクルと回転させ、俺は刃の先をファーガスへと向ける。
「俺もこの子と一緒に戦っているんだし、それと同じ事だろ? フェアに行こうぜ」
『担い手……♡』
「リュート……♡」
『グォーム……♡』
「リュート選手……♡」
いや、ちょっと待ってくれ。
格好つけたのは認めるけど、何人か反応がおかしくね?
「ハハハハッ! そうこなくっちゃな! リュート! やっぱりてめぇは最高だぜ!」
「ああ、せっかくの大会だ。細かい事は抜きにして、楽しくやろう」
立ち上がったファーガスとゴーレム。
審判のお姉さんもフッと笑い、片手を高く掲げる。
「それでは、3回戦第2試合……! 試合開始ぃっ!」
ジャアーンと鳴り響く大銅鑼。
先に動いたのはゴーレムであった。
『グォォォォォロム!!』
「ハァッ!」
こちらに突進してきたゴーレムを、俺はルディスで真っ二つに両断する。
いくら岩で出来ているとはいえ、俺の【力】とルディスの切れ味の前ではバターのような……
『グゴォ!!』
「!!」
しかし、両断されたゴーレムはそのまま突進を続けてきた。
そしてその右腕が俺の腹部へと一撃をお見舞いしてくる。
「っ!?」
痛みはさほど無いが、衝撃は殺しきれず。
俺は殴られた勢いでぶっ飛ばされる。
「油断したな!! 俺のゴーレムはその程度じゃ死なねぇぜ!!」
『グォォォォロロロロロロ!!!』
「っと!」
俺は空中で体を捻り、闘技場の壁に激突する前に着地。
一方のゴーレムはというと、右と左に別れた体をくっつき合わせている。
「なるほど……言うだけあって、かなり強いな」
『感心している場合じゃないでしょー!! 何をやってんのよ!!』
「そう怒らないでくれって」
ルディスも俺の不甲斐なさにお怒りのようだ。
これはちゃんと、名誉挽回しないといけないな。
「ちょっと本気を出すか」
とーん、とーんと俺はステップを踏むと。
体を左右に揺らしながら、ファーガスの方へと駆けていく。
「なにぃっ!? なんだこの動きは!?」
凄まじい速度で走りながら、体を揺らす。
その結果、周囲からは俺の体が残像となり……分身しているように見える事だろう。
「どっちが本体か分からねぇ……でもよぉ!!」
ファーガスは叫びながら、左の拳を地面へと突き立てる。
それにより、また新たなゴーレムが生み出されていく。
「だったら! 両方ぶっ飛ばせばいいわけだ!!」
『ンゴゴゴゴゴォ!!』
『グロォォォォム!!』
息を揃えて突っ込んでくる二体のゴーレム。
俺はゴーレムコンビと衝突する直前で急ブレーキを挟み、握っていたルディスを思いっきりぶん投げる。
「おぉらぁっ!!」
本体と残像の俺が同時に放り投げた二本のルディスは、まるでブーメランのように回転しながらファーガスへと迫っていく。
『ンゴォ!?』
『グォロム!?』
俺に迫ろうとしていたゴーレム達だが、それを見て動きを一瞬止める。
「構う事はねぇ!! 俺は自力でなんとかするから、お前達はリュートをやれ!!」
『『……』』
ファーガスはゴーレム達に指示を出す。
しかし、二体は言う事を聞かなかった。
『『ゴォッ!!』』
俺が放り投げたルディスに向かって飛びつくゴーレム達。
コイツらは直感的に気付いたのだろう。
ここでルディスを止めなければ、確実にファーガスが大怪我を負ってしまうと。
『グォ……!?』
ファーガスを守ろうとして身を挺した結果、右のゴーレムがルディスに直撃してバラバラに砕け散っていく。
その忠誠心……実に見事だ。
「くっ!?」
しかしそれこそが俺の狙いだった。
粉々に砕け散ったゴーレムの破片が周囲に飛び散り、目隠しの役目を果たす。
その隙を俺は見逃さない。
「この距離ならゴーレムは呼べないな」
ゴーレム二体の妨害をくぐり抜け、ファーガスの目の前に迫る。
そしてちょうどこのタイミングで、ゴーレムとの衝突で勢いの弱まったルディスがひゅんひゅんと飛来してきた。
俺はそれを振り返る事なくキャッチ。
「オラァッ……!」
「遅い」
最後の抵抗としてファーガスは俺に殴りかかろうとするが、それよりも先に俺がルディスをファーガスの首筋に押し当てる。
「……ちくしょう。リュート、俺なんかよりも……てめぇの強さの方が反則的だぜ」
「ああ、お前も強かったよ」
「俺の……負けだ」
両手を上げて、降参を認めるファーガス。
審判のお姉さんはそれを見て、深く頷いた。
「勝者!! リュート選手!!」
その瞬間、観覧席から割れんばかりの大歓声が湧き起こる。
「すげえええっ! なんだよ今の試合!」
「アイツ本当にレベル0なのか!?」
「ゴーレム使いをあんな簡単に倒しちまうなんて!」
「私のマスターです!! アレは私のマスターなんですよ!! 私の大好きなマスターなんですよ!! えっへん! どやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
続けて大量の拍手、口笛。
闘技場全体が揺れるほどの賛辞が、俺に注がれていた。
『……やったわね、担い手』
「ああ、なんというか。人に認めて貰えるのって、嬉しいもんだな」
胸の奥底からこみ上げる感情。
これまでにない高揚感を感じつつ、俺は観客の声援に応えるように右の拳を高く突き上げるのだった。
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