スキルポイント99999の使い方~閉店したスーパーのポイントをステータスに割り振ってみたら異世界ハーレム無双でした~
愛坂タカト
第1話 (神)ポイントカードはお持ちですか?
交際経験ゼロ。24歳独身。童貞。
平凡でうだつの上がらない、ブラック企業勤務のサラリーマン。
そんなどこにでもありふれた男。
それがこの俺、
容姿、頭脳、身体能力、財力。
何一つ取り柄の無い俺にとって、唯一誇れる取り柄があるとすれば……
それは、常人よりも遥かに根気強いという事だろう。
「お買い上げ、ありがとうございましたー」
一週間。休日出勤も含めて、仕事終わりはいつも同じスーパーで買物をする。
その名も神丸スーパー。周囲の店に比べて、特段安いというわけでもないこの店に通い詰めている理由はただ一つ……ポイントカードの存在だ。
「お客さん、凄くポイントを貯めていらっしゃるんですね」
「えっ、あっ、はい……」
「いつかどーんと使ってくださいね!」
「……う、うぃっす……」
若い女の店員に声を掛けられてしどろもどろになりながら、俺は足早に店を出る。
その手に握られているのは、一枚のポイントカート。
神丸スーパーで100円買物する度に1ポイント。
会計の際に1ポイント1円として利用できる。
毎週水曜日は冷凍食品のポイント2倍。
毎月0の付く日はポイント5倍。
水曜日に10、20、30が被れば冷凍食品のポイントがなんと10倍にもなる。
「ついに……ついにここまで来たんだよな」
俺はそんなポイントカードを高校生の頃から10年近くも愛用し続けてきた。
ずっと夢に見ていた10万ポイントまで……残り1ポイント。
そう。このカードには今、99999ものポイントが付与されているのだ。
「う、うへへへへっ……」
ここに来るまで、本当に長かった。
ろくな友達もおらず、両親からも半ば見放されて育った俺にとって……このスーパーのポイントを貯め続ける事だけが生き甲斐だった。
そして明日、俺の25歳の誕生日に――このカードはポイント上限の10万を達成。
俺はそのポイントを全て豪勢に使うつもりだ。
「その為に、上司に土下座までして有給を取ったからな」
入社してから数年以上。
ただの一度も消化させて貰えなかった有給をなんとか必死に一日だけ勝ち取った。
明日は店の営業開始と共に100円の買物をし、その後は念願のフィーバータイム。
全て使い切る事などは無理だろうが、とにかく好きなものを買いまくってやる。
「ああ……楽しみだ」
いつもなら、翌日の仕事の事を思って憂鬱となる帰り道。
しかし俺は人生で初めて、明日が来るのを待ち遠しいと思えた。
こんな俺でも、数年を掛けて……これだけの偉業を成し遂げられた。
そう思えば、これからの自分の人生を生き抜く活力が湧いてくる。
限りなく低い自己評価を覆し、前向きに生きられると――
この時の俺は、本気で信じ込んでいた。
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翌日。
ウキウキで神丸スーパーへと赴いた俺が目にしたのは……
閉ざされた自動ドアに貼り付けられている一枚の張り紙。
【閉店のお知らせ】
今まで神丸スーパーを長年ご愛顧頂きまして、誠にありがとうございました。
このスーパーはオーナーが営業に飽きてしまったので、昨日を持ちまして閉店させて頂く事となりました。
ポイントカードにつきましては、返金・返還などの対応は一切行えません。
※利用規約にも当店が閉店される場合にはポイントカードが無効となる旨を記載しておりますので、何卒ご了承くださいませ。
「……は?」
ガヤガヤガヤと、俺と同じようにスーパーに買物に来た客達がざわついている。
しかし、そんな人混みはばからず……俺は自動ドアに手を添える。
「なぁ……おい? 嘘、だよな?」
ドン。ドンドンドン。
「なんで、だよ……! なんで、後1日……! 後1日だけ、待ってくれなかったんだよぉぉぉぉぉぉぉっ!」
慟哭しながら、何度も何度もドアを叩く。
しかし堅く施錠されたドアはびくともしない。
「ああああああああっ!」
10年以上も続けてきた努力が、呆気なく紙くずとなったショックか。
あるいは元々の運命か、それともブラック企業務めの反動か。
「うっ……ぐっ、ぁっ……!」
俺は心臓麻痺を起こし、その場に崩れ落ちる。
周囲から悲鳴や慌ただしい声が聞こえてくるが……もうどうでも良かった。
生きる意味を失った俺は、死を受け入れるように瞳を閉じた。
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「目覚めなさい、人の子よ」
「……うっ?」
ズキズキと痛む頭。
ぼんやりとした意識の中、俺はゆっくりと目を覚ます。
「ここは……?」
顔を上げた場所は何も無い真っ白な空間。
そして床に座り込む俺の目の前には、一人の美しい女性が立っていた。
「女神様?」
思わず、そんな言葉が漏れてしまう。
それくらい、俺の前にいる女性は神々しい存在であった。
キラキラとイルミネーションのように色を変える虹色の長髪。
妖艶な輝きを放つ真紅の瞳。
グラビアアイドルも真っ青なグラマラスな体は、神話とかに出てきそうな純白のローブによって包まれている。
「ええ、我が名は女神インポティ。人の子よ、ひれ伏しなさい」
「は、はい」
鈴の音を思わせるような透き通る声。
その身から放つ圧倒的なオーラに、俺は素直に従うしかなかった。
「無様で哀れな人の子よ。たかがポイント如きで死んでしまうとは情けない」
「え?」
今のは聞き間違い……だよな?
だって、仮にも神様があんなに酷い事を言うわけが……
「貴方のようなクソ雑魚無能ナメクジは本来、問答無用で魂を消滅させてしまうのですが。今回は私の営業していたスーパーが死因ですからね」
「女神様が営業していたって、まさか神丸スーパーの事ですか?」
「…………」
俺の問い掛けに、女神様はニッコリと微笑んで頷くだけ。
そうなるとつまり、あの張り紙に書かれていたオーナーっていうのは……
「お、お前がっ! お前のせいでっ! 俺が必死に貯めてきたポイントが!」
激情に任せて女神に飛びかかると、俺の手が届く寸前で女神がパチンと指を鳴らす。
次の瞬間、俺の意識はフッと途切れ……視界が真っ黒に染まっていく。
「貴方にもう一度チャンスを与えましょう。その大切なポイントで新たな人生を切り拓くのです」
最後に耳に残ったのは、女神インポティの一言。
俺の事を心底見下し、馬鹿にしているかのような――そんな声であった。
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