第157話 最悪

一方、断られたガンマはミロアの言っている意味がわからなかった。断られるとは思わなかったからだ。しかも即答で。



「な、なななな何を言っているんだ!? お前、自分が何を言っているのか分かってんのか!?」


「殿下の要求を断りましたが、何か?」


「何か、だと!? それだけか!? この僕の方から求婚してやったのにそれだけとはどういうことだ!?」


「だからなんですか?」


「だからなん……ぼ、僕はちゃんと謝ったじゃないか!」



ミロアの態度は非常にそっけなかった。ガンマは半ば取り乱す。自分が誠心誠意謝罪すれば許してもらえるし元の関係に戻れると思っていただけに信じられないのだ。



「謝ったからなんですか? それを受け入れたとしても私がもう一度ガンマ殿下なんかと婚約する理由にはなりません。ましてや恋慕うなどもってのほかですよ?」


「な、何だと!?」


「王太子の立場を失って将来男爵になるような泥舟に乗るほど私も愚かではありませんよ」


「んなっ……!?」



ガンマは絶句した。ミロアの態度と言動が上から目線になっているのだ。仮にも王族であるガンマに公爵令嬢のミロアがだ。



「嘗ての私はあまりにも人を見る目がありませんでした。しかし、今は違います」


「ち、違うだと……!?」


「今はガンマ殿下に恋した過去は恥の記憶でしかありません」


「な、何〜!?」


「ガンマ殿下。私が貴方を嫌気が差すほど追いかけ回したことについては私の非を認めましょう。ですが、面と向かって向き合ってくださるのが遅すぎ……いえ、向き合ってくださりませんでした。婚約者であったときに真剣に向き合って言ってくだされば、最悪でも命じてくださればよかったものを……」


「何っ!? 命令すれば良かったのか!?」


「……最悪ですよ」



最悪の場合という意味と、ガンマが最悪という意味を込めてミロアは『最悪』と呟いた。ガンマがそれをどう受け取るかもすでにどうでもよかった。



「ば、僕だけが悪いみたいに言いやがって! 仮にも王子であるこの僕に!」


「むしろ人の上に立たねばならない王族……王子であるなら冷静に聞いて考えなさい。今も昔も変わらない癇癪を起こす子供のままで居続けないでください。見苦しくて吐き気がします」


「き、貴様っ!?」



ガンマは怒りに震える。ミロアの言動があまりにも自分を小馬鹿にするようなものであることに気づいて屈辱を感じたからだ。それもそのはず。ミロアは意図的にガンマを煽っているのだから。



(今日は、この最悪なバカ王子を追い詰める。そのためにも意図的に煽って怒らせてやるのもいい。そのついでに言いたいことを言い切ってやるわ。こいつにはもう後がないことだし)



今日で追い詰める。それをいいことにミロアは言いたい放題するつもりだっったのだ。

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