第101話 希少
ミロアの言う通り、オルフェのイーノック家は侯爵という上級貴族であり、同じ侯爵はいくつかあるが、その上はレトスノム公爵家とドープアント王家の二つしかない。王家はともかく、公爵家と侯爵家の婚約なら何もおかしいことではない。
中々説得力のある説明だと親の贔屓を抜きにしてもに感心するバーグは、ミロアのことを高く評価する。
(ミロアがこんなにも貴族の情勢というか、国の内情もよく見ているとは……。これはオルフェが婿になっても十分カバーできることだろうな。まだ未定だが……)
もうすでにオルフェがミロアの婿でもいいと思い始めるバーグであるが、ミロアには説明の続きがあるようなのでまだ首を縦に振るわけにはいかない。それ以上にもう少し聞いてみたいとも思えた。
「それに……オルフェは私が他の貴族の中で唯一信頼できる男性でもあります。少し頼りないでしょうが、そのへんはこちらでカバーすればいいのですよ。それくらいの甲斐性は私にもあるつもりですから」
「甲斐性って……普通逆ではないか?」
「失礼、その通りでした」
冗談ですと言って苦笑するミロア。それにつられてバーグも苦笑する。
(こんなふうに冗談をはさんでくるとはな……。話し上手になったものだ。これが実は計算してやっていることなら……いや、そこまではあるまい。ミロアは不器用な娘だからな)
……心の中でそのように思うバーグだったが、実は計算して冗談を交えていたのだ。
(結構シリアスかつシビアな話になってきてるから、この辺で軽い冗談をはさまないと印象が悪い………そんなことを心理学系の本で読んだから実行したけど………上手くいったみたいね)
ミロアは休学して屋敷にいる。屋敷での過ごし方は勉学と護身術もとい剣術と体術の稽古、趣味の読書だ。読書と言えば主に屋敷の本を読み漁っているため、父親の書斎に忍び込んで難しい書物にも手を付けることもあったのだ。
その中には戦争関連のものや貴族向けの処世術の書物など、いかにも英雄にして公爵らしい人しか読まないんじゃないかと思うような本があり、ミロアは父バーグのいない間にそれらを読んだのだ。
(まあ、この父だからなのか前世の『○○本』みたいなエッチなものはなかったのよね。そこがちょっと残念だったけど、剣術とか処世術系統の本は役立ちそうだったわ)
「まあ、婚約した後で万が一にもオルフェに問題が生じれば穏便に解消すればいい……と言っても、あのオルフェに限ってそんなことはありえないでしょうが」
「そうだな。オルフェは貴族の中でも穏やかな者だ。父親のオルペウスもそれは同じ。問題を起こすようなことはすまい」
「そういうことです。だから、現時点でオルフェだけが私の婚約者に望ましいしふさわしい。穏やかな男なんて希少ですからね」
「希少か……」
希少。確かに、そのとおりだ。ミロアの知る男の中でオルフェだけは穏やかな人柄と言える。
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